第5話:涼海凛が付き合いたい男

「マジ? あの涼海すずみりんが、あんな地味男子と付き合いたい? 絶対嘘だよ」

「事情があって無理って、空野が振ったってことか?」

「もしそうなら、あの空野ってヤツ、頭おかしいんじゃないの?」

「いやいや、空野が涼海すずみさんを振るなんて、ありえないっしょ。きっと涼海さん側の事情だよ」

「いや、これは絶対空野が涼海すずみさんを脅迫して、そう言わせてるんだよ」


 どうやら教室内では、ネガティブワード・エキスポ 2019 in 世界高校が絶賛開催継続中のようだ。


「まぁとにかくそういうことだから、私が誰か他の人に投票し直すなんてのはナシってことで!」


 涼海すずみりんが極めて明るく言い放って席に着くと、今度は凛に対する評価があちこちから聞こえてくる。


「凛ちゃん、好きなのに付き合えないなんて悲しい話を、あんなに明るく言って凄い!」

「あの笑顔、やっぱ可愛い〜」

「あの明るさ、改めてファンになっちゃったよ」


 凛のことになると、今度はポジティブトーク博覧会状態。


「うーん、じゃあ仕方ないな。三人のうち誰が委員長になるか、ジャンケンで決めますか」


 秀才イケメン主意おもい 兼継かねつぐが、肩をすくめて教室内を見回した。


「委員長は主意おもいでいいんじゃないの? 適任だよ」


 そう口を開いたのは、真っ黒に日焼けした笑顔が爽やかなイケメン、真田さなだ かけるだ。彼は陸上部キャプテンで短距離走のエース。


 日本人高校生初の100メートル走9秒台が期待されていて、全国的に有名な日本陸上界のホープで、そしてワイルド系の超イケメンで180センチの高身長ときてる。


 これでモテないはずはない。真田さなだは去年の人気総選挙で堂々の男子一位を獲得した人物である。


「ああ、それで良か良か。そうするたい」


 横から同意したのはイケメン三銃士のもう一人、天河てんかわヒカル。去年の総選挙第3位だ。


 天河は高校生でCDデビューを果たしたミュージシャンで、茶髪ロン毛でちょっとヤンチャっぽいイケメンだ。


真田さなだ天河てんかわがそれでいいなら、僕はいいけど」

「ああ、いいよ」

「それで良かよ」


 同票のイケメン三銃士達が合意したから、男子のクラス委員長は主意おもいに決まった。



 世界高校の生徒には、勉強に限らず凄い才能が集まっていて、それには理由がある。


 個性的な才能を尊重する理事長の教育方針で、一学年400人も生徒がいるにもかかわらず、入試ではすべての生徒を理事長が個人面接をしている。


 そして勉強以外にも個性的な才能があれば入学を認めるだけでなく、特に優秀な生徒は特待生として全額学費免除となるのだ。


 また既に卒業生が各界で活躍していて、OB人脈の豊富さも世界高校の人気の要因だ。


 だから単なるイケメンや美少女というだけでなく、加えて様々な才能溢れた生徒達だからこそ、圧倒的な人気を勝ち取ることができると言える。



「さあ、じゃあ次は女子の発表をするよ」


 委員長就任が決まったばかりの主意おもいの声に、また教室は静まり返った。男子19名の票の行方は?


八坂やさか 見音みおん6票、伊田いだ 天美あまみ6票、そして涼海すずみ りん7票!」


 おおーっ、と歓声が上がった。やはり得票したのは、世界三大美女の三人のみ。その中で、僅差ではあるけど凛が一位だ。


 他の二人は読者モデルをしてる金持ちのお嬢様の八坂と、陸上部のマドンナと呼ばれる健康美少女の伊田で、二人とも人気が高い。


 僅差とはいえ、そんな中での凛の一位はやっぱり凄い。


 実は凛は、他の二人のように何か凄い才能があるわけではない。部活はサッカー部のマネジャー。しかも凄い人材揃いの世界高校にあって、サッカー部は県でも中堅レベルだ。


 ただサッカー部の部員達は、明るくポジティブな凛のおかげで前向きに部活ができると、凛を高く評価している。


 しかも時々サッカーユニフォームを着てマネージャー仕事をしたり、試合ではチアリーダーのカッコで応援したり、お茶目なところもあって、サッカー部員はもとより運動部の連中から圧倒的な支持を受けている。



『そりゃスタイル抜群の美少女がチア姿で応援してたら、誰しもきゅんとなるよな。あれは反則だよ』


 サッカー部の何某なにがしはそう語る。



「やっぱ涼海すずみさんか」

「凛ちゃん、可愛い!」


 大半が凛を持ち上げる声だけど、さっきの爆弾発言を心配する声もちらほら聞こえる。


「地味男子に振られたって話が、吉と出るか凶と出るかだな」

「いや、振られたってはっきり言ってはないだろ?」

「いいんじゃないの? あの明るいキャラ」

「もしくは悲劇のヒロインとかねー」

「だけど地味男子に振られたなんて噂が流れたら、商品価値が下がらね?」


 みんな好き勝手言う。


(凛は商品なんかじゃないし、彼女の価値はそんなことじゃ下がらない。だけど自分が凛を振ったなんて噂が流れるのは、凛が気の毒だ)


 そう思った広志は、再び席から立ち上がろうとした。

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