第二話「サイトーと廃墟を訪ねて20分。」
ここは・・・どこだ?確かボケボケのジジイのせいで転生してそれから・・・また寝ているのか?でも今度は違う。とてもいい香り。心がとても落ち着くような。そんな香りがする。
ゆっくりと目を開けると、雲がまばらにある青空が広がっていた。俺はどうやら、今度は広大な野原で木の根っこを枕にして寝ていたようだ。起き上がって辺りを見回してみると、木が所々にあるだけのほとんどなにもない野原が広がっていた。俺の寝ていたところは木陰になっていて程よく涼しい。もう少しだけここにいたいと思った。
「お目覚めになりましたか?」
声のする方を見るとそこには、エンライと似たようなフード付きの黒いローブを着たメガネをかけた青年がたっていた。鼻筋がとても良く、整った顔立ちだ。神様の回りには美男美女しかいないのかもしれない。俺には合わなそうだ。
「あんた誰?」
「申し遅れました。私はサイトーと申します。エンライ様の命により、あなたの教育係兼この世界の案内役兼なにかあったときの護衛係として派遣されました。以後お見知りおきを。」
サイトーは俺に向かって深々とお辞儀をする。
こういう扱いに慣れていないから、俺にとってはかなり気持ち悪かった。
「それで、俺はこれからどうすればいいんだ?俺はこの世界のことなにも知らないから、あんたの案内なしじゃとてもじゃないが生きていく自信がないぞ。」
するとサイトーはおもむろに四角い箱を差し出してきた。箱の材質は木製で、手に取ってみると、少しだけ重みがある。縦30cm、横10cm、高さは5cmほどの長方形の形をしている。
「なにこれ?」
俺は不安になってサイトーに訪ねる。するとサイトーはニヤリと笑うと。
「開けてみてください。」
俺は箱のフタを開ける。その箱の中には今俺が一番求めていたものが入っていた。
おにぎり、卵焼き、鳥の唐揚げ、鮭の切り身。他にもたくさんの食材が絶妙なバランスと量で配置されている。弁当だ。
「まずあなたがとるべき行動は腹ごしらえです。話はランチタイムのあとにいたしましょう。」
サイトーは律儀にも俺が食べ終わるまで待っていた。あとで聞いた話だが中身の料理はすべて彼の手作りらしい。
俺が食べ終わった頃を見計らって、サイトーが立ち上がった。
「それでは、私についてきてください。」
俺は歩き始めたサイトーの後ろをついていく。この広大な野原をサイトーは地図も見ずに歩いていく。どこに向かっているのかまったくわからなかった。
「なあ、サイトー。俺たちは今どこに向かって歩いてるんだ?時間はどれくらいかかるだ?俺はまだ何にも聞いてないぞ。」
するとサイトーはゆっくりとした口調で説明し始めた。
「これからあなたにはこの世界のことと魔法の扱い方を学んでもらいます。せっかく魔力を増幅されても、魔法の使い方がわからなければ意味はありません。それにあなたはご自身で制限をお付けなされた。なおさら準備が必要なのです。」
「それはわかった。だけど、こんな広大な野原に建物なんてないぞ?なにかあてはあるのか?」
サイトーは歩きながら答えた。
「主、なぜこんなにも広大な野原が存在していると思いますか?」
サイトーは手を広げて野原を示しながら俺に質問をしてきた。
「・・・ごめん、全然わかんない。」
「今私たちが歩いているこの場所はかつて『魔王対戦』と呼ばれた、種族間同士の大戦争で両軍の主力部隊が正面からぶつかり合った場所です。この場所もかつては森でしたが、大戦の際に火が放たれこのような野原になったのです。終戦から150年たった今は草がまばらに生え、かつての姿が戻りつつありますが森は二度と戻ることはないと言われています。今から向かう場所は魔王軍の予備部隊が待機した基地の跡地です。丈夫な石造りなのであなたが魔力を暴発しても安全ですし、何より夜を明かすくらいなら別に問題はありません。あと20分ほどで到着することができるでしょう。もう少しの辛抱です。」
「その戦争って何が原因だったんだ?こんなだだっ広い野原になってるってことはそれなりにでかい戦争だったんだろ?」
サイトーはローブの内ポケットから俺に葉書ほどの大きさの一枚の絵を差し出してきた。そこには黒い鎧を着た白髪の青年が描かれていた。
「その絵に描かれているのは、『魔王レインブン・ブラック』。本名は別にあるようですが、黒い鎧からこの名前が広まっていったそうです。彼は自らでギルドを結成すると、瞬く間に一部の種族を手中に納め王国ギルドに戦線布告をした。それが『魔王対戦』の始まりでした。かなり統率力のある人物だったそうで、魔法の扱いにも長けていたそうです。彼の起こした戦争により、死者の総数20万人を越えたそうです。それだけ大きな戦争だったようですね。」
「なんでそいつはその王国ギルドとやらに戦線布告したんだ?なにか動機があったのか?」
「それはすべてなぞに包まれています。魔王軍が負けたあと、彼は謎の失踪を遂げています。仲間に殺されたあと気づかれないように処分されたとか、王国ギルドと実は繋がっていて秘密裏にかくまわれていたとか、様々な説がささやかれているようですが詳細は不明です。資料も死体もなにも残っていないのでいっそのこと本人に聞く他ありませんね。」
サイトーとそんな話をしていると遠くに廃墟のような建物が見えてきた。目的の場所はどうやらあそこらしい。
「見えてきました。あそこが我々の目的の場所です。これからあなたには魔法について勉強してもらい、三ヶ月後に開催される『ビギナー杯』に参加してもらいます。
あなたのこれからの人生がかかった大舞台です。心して望んでください。」
それは俺の地獄のような三ヶ月間が始まった瞬間だった。
5秒間だけ無敵になれる力を手に入れた主人公が転生先でまあまあ無双する話 ーCat swimming in the seaー 胡麻味噌豆乳ラーメンカルビを添えて @reidokarasu
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