第一話「主人公が条件付きの無敵を手にいれるまでの経緯。てゆーかあのジジイ絶対に許さない。」

ここは・・・一体どこだ・・・?たしか俺は、普通に学校に行こうとして・・・そしたら車が突っ込んできて・・・あれ?わかんない・・・何が起きたんだ?


目の前は真っ暗で、意識がもうろうとしているなかで人の声だけが聞こえる。

「ちょっとほんとにあんたなにやらかしちゃってるんですか!これは一大事ですよ!」

「そ、そういわれてもワシだって間違えの一つや二つは・・・」

「んなこと関係ないんですよ!あなたは歳なんですから、あれほど気を付けるように言ったのに!ほんとにどうするんですかこれ!」

女の人と老人らしい声が聞こえる。何か喧嘩をしているのか?

ゆっくりと目を開けると天井に吊るされているシャンデリアが目に入ってきた。

どうやら俺はベッドで寝ていたようだ。起き上がって辺りを見回すと、木造のどこか暖かい雰囲気を持った部屋だった。壁すべてが本棚になっていて見たことのない本がびっしりと納められていた。それが天井まで続いている。

「あ、起きたみたいですよ。これはあなたの責任なんですから、あ・な・た・が!ちゃんと説明してあげてください!」

「わかったから・・・ちゃんと説明するから・・・」

俺が寝ているベッドの正面には、木製の机と背もたれが異様に高い椅子がありそこにはローブを着た老人が座っていた。きれいな白い髭を蓄えた70代くらいのおじいちゃんだ。とても優しそうな顔だが、今は顔が青ざめている。

その横にはスーツを着た、いかにもキャリアウーマンという感じの女性が、手帳を持って立っていた。髪を後ろで1つにまとめていて、メガネをかけている。威厳のあるキリッとした顔で、とても綺麗な人だ。

起き上がった俺を見て老人が話しかけてきた。

「君は野村ルイ君であっているかな?」

「はい」

「まず、君に伝えたいことがある。」

そう言って老人は立ち上がってベッドの前まで来て

「この度は本当にすみませんでしたあああああああああああああああああああ!!!!」

土下座した。

何が起きているのかさっぱりわからない。

状況が飲み込めなくて黙って見ていると、女性が口を開いた。

「エンライ様、彼は全く状況を飲み込めていませんよ。きちんと説明をしてあげてください。それにこれからのことを話し合わなくてはいけないので、できるだけ早く済ませてください。」

エンライという名前の老人は顔を上げた。

「そうじゃな・・・まずは説明をしなくては・・・マキ、彼に椅子を用意してやってくれないか?」

「かしこまりました。」

マキと呼ばれた女性は手を地面にかざしたとたん、円形の見たこともない光の紋章のようなものが出てきた。そこには見たことのない文字が書かれているがさっぱりわからない。するとその紋章のようなものから、木製の椅子が出現した。

「どうぞお掛けください」

マキに促されて、俺は用意された椅子に座る。

するとマキはまた新しい紋章を出してベッドを地面の中に消してしまった。

椅子はエンライの机の前におかれて、まるで面接会場のようになっていた。だけどこれから行われるのは面接ではないのは確かだ。

エンライも自分の椅子に座った。

「さあ・・・説明を始めよう。ワシはエンライという者だ。一応、『転生を司る神』をやらせてもらっている。」

「転生を司る神?」

死を司る神やら雷を司る神とかなら名前くらいは聞いたことがあるが「転生を司る神」は初耳だ。

「転生を司る神というのは、文字通り魂を転生させることが仕事じゃ。君の世界には何をやっても何もかも物事が上手く進まない人がいたりしなかったか?」

「・・・いたと思います。」

「そうじゃろ?ワシはその者達をわざと殺してその魂を一旦こちら側で保管する。その後最適なタイミングと場所を選んで、魂をその世界に記憶を消去した状態で転生させる。前世で上手くいかなかった者に第二の人生を送らせて、成功の手助けをする。それを行っているのがワシなんじゃよ。」

話が壮大すぎてよくわからないが、とにかくすごい人らしい。

「すごいですね」

「ああ、ありがとう。じゃが、ここからが本題じゃ。実は・・・お主はあの世界で成功する可能性は十分にあった・・・転生させる必要はなかったんじゃよ。」

「・・・じゃあなんで僕はここにいるんですか?」

「・・・実はワシ・・・老眼がひどくてな・・・間違えてお主の名前を選んでしまったんじゃ・・・お主は車にひかれる記憶があるのではないか?」

「あります」

「それ、ワシのせいなんじゃよ・・・」

「・・・おい」

俺は椅子から立ち上がった。



ぶっ殺すぞてめえええええええええ!!!!



心のそこから沸き上がってきた言葉を目の前にいる老害にぶつけていた。

「お前マジでなにやってくれてんだよ!俺にはまだやることいっぱいあったし、人生これからって時になんてことしてくれてんだよ!」

ずっと顔が青かったエンライの顔が白くなっていく。

「いや、ほんとに悪いと思っておる・・・しかしこうなってしまった以上は転生するしかない。わかってくれ・・・」

俺は一旦心を落ち着けて椅子に座る。

俺は目の前にいる老人が神様であることも忘れて、腕と足を組んで睨み付けていた。

「・・・それで?どこに転生させるおつもりなんですか?」

「君と同じ日本語を使っていて、雰囲気は中世ヨーロッパのような感じの世界がある。魔法が日常茶飯事に使われている。お主にはそこに魔力無限増幅の力を授けて、本来はありえないことだが記憶をそのまま引き継いで転生させる。それで勘弁してくれ・・・」

「・・・」

「どうした?何か不満があるなら何でもいってくれて構わないぞ。今回非があるのはワシの方じゃ。」

「俺、なんかそういう無敵の力みたいなの嫌いなんだよな。もうちょっと条件を足してもいいか?」





昔、俺はとあるゲームをしていた。自分の大好きなヒーローが戦うゲームだ。人気があったからシリーズでかなり続いていた作品だった気がする。

そして、そのゲームにはシリーズ恒例の要素がある。それはストーリーオールクリア時に永遠に無敵になれるアイテムが報酬として送られる。

当時の俺はそのアイテムを使って敵を倒しまくっていた。最高に楽しかったのを覚えている。

しかし、それをしばらく続けていたときにあることに気づいてしまった。

(あれ・・・?なんかつまんない・・・)

無敵であるため敵は面白味もなく倒れていく。俺はこの状況が気に入らなかった。

俺がこのゲームを楽しめていたのは、強い敵をどんな方法で倒すか。それを模索して倒せたときの達成感を俺は楽しんでいた。しかし無敵アイテムが出てきたらその醍醐味がなくなってしまっていたのだ。

俺は無敵アイテムを封印してさらにやりこんでいった。

さらに俺はそこから人生の教訓を得た。

努力することは大切なことであり、そしてそれを成し遂げたときの達成感は快感であることを。

努力を続けた俺は成績面においてはいつも中の上をキープしていたし、運動もそこそこできていた。

ずっと無敵なんてつまらないのである。





「俺が出す条件で転生させてくれないか?」

エンライは意表を突かれたようだった。表情がかなり驚いている。

「う~ん・・・お主がそれでいいなら別に構わんが・・・ほんとにそれでいいのか?」

「ああ、むしろこっちの方が燃える。ちょっと考えるから時間をくれないか?」

「あ、ああ」

俺は考えに考えた。無敵の力をいい感じに制限できる条件を。

そして俺は二つの条件を加えることにした。


1.力の発動はいつでもOK。ただし発動できる時間は5秒間だけ。制限時間を過ぎると5分間使えなくなる。

2.魔法の使い方は向こうで一から学びたいから、その世界の案内役兼教育係兼何かあったときの護衛係をつけること


「これで転生させてくれないか?」

「本当にこんな条件でいいのか?向こうの世界で富と名声を手にいれることのできるチャンスなんじゃぞ!」

「いいんだよこれで。てゆーかあんたの顔二度と見たくないし早く転生させてくれないか?」

ずっと黙っていたマキが吹き出す。笑いをこらえきれていないようだ。

エンライがたちあがって俺のところに歩み寄ってくる。

「わかった、それでは幸運を祈っておるぞ。」

そういうと地面に紋章が現れて俺はその紋章の中に引き込まれていった。

紋章の中はまるで酸素のある水の中を泳いでいるような感覚で、妙な浮遊感と息苦しさがある。

紋章の中で俺の意識はだんだんと薄れてきて、深い眠りに落ちていった。

新しい世界での、新しい生活。


俺がまあまあ無双する物語が始まる。









「やっと転生したのぉ」

「言われてしまいましたね」

「お主は黙っておれ」

部屋に残った二人は物事が一段落してほっとしている。しかしまだやるべきことがたくさんある。

「まずは彼の案内役を決める必要がありますね。私が優秀な人物を一人知っているのですが、その者を派遣いたしましょうか?」

エンライはローブのポケットに入っていたタバコを取り出し、火をつけて一服する。

「まぁ、そこら辺はお主に任せる。しかし今後どうするかじゃな・・・こんなことが上層部に知れ渡ったら大変なことになる。」

「この期に及んでまだ自分の保身を考えているのですか?素直に認めて謝ればいいものを・・・私は別に構いませんけどね。あなたがどうなろうと。まあ彼の運命は彼に委ねるしかありませんね。」

「しかし彼のことはあの世界の神に一応伝えておくことにしよう。




あの世界は人種差別とか色々とややこしいからのぉ・・・」

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