第9話 仲直り

 俺と千鶴は、琴葉のお母さんに許可をもらい、今琴葉の部屋の前に立っている。その扉に鍵はなく、開けようと思えば開けられる。


「こと?」


 部屋の中から返事は聞こえない。俺は千鶴の方を向く。


「これからどうするんだ?」

「話し合うに決まってるじゃん」

「俺が?」

「うん、ちゃんと決着つけてよね」


 お互いにヒソヒソと言葉を交わす。


 話すこと……何を話せばいいのかわからない。謝ればいいのか? 心当たりはないが、俺はきっとどこかで琴葉に嫌われる行動を犯したのだ。


 空気的に、今度は俺が声をかける番なのだが踏み出せない。そんな時。


「こと、ごめんね!」


 突然声を放ち、千鶴の方を向こうとしたがそんな暇はなく、俺の腕はガッチリと掴まれた。そして千鶴のもう片方の腕によって扉は開かれ、俺は部屋の中へと投げ入れられた。


 バタンと扉が閉められた。


「おい、ちづ──!」


 思わず倒れ、床に手をつき顔を上げると、ベットに腰かけた琴葉と目があった。


「綾斗くん!?」


 電気はついておらず、部屋は薄暗かった。


「あ、えっと、話し合いが解決するまで出させてもらいないらしい……」

「……そう、なんだ」


 解決、つまり琴葉と仲良くなれということだ。どうしろと、俺にどうしろと。この短時間で琴葉と仲直りする方法がわからない。いや、無理だろう。


「座っていいよ」と、琴葉はベットを2人分横に移動して、空いた所をポンポンと手で軽く叩いた。


 この俺を琴葉のベットに座らせてしまっていいのか?


 抵抗はあったが、座ることにした。温もりを感じて、琴葉との距離がとても近く感じた。


 電気はつけないままで、よくわからない雰囲気が漂った。


 お互いに沈黙を貫いていて、俺は早く何か言わなきゃと焦っていた。とりあえず──


「「ごめんなさい!」」


 同時だった。


「え?」

「えっと……」


 しかし疑問はそこではなかった。なぜ琴葉も謝るんだ?


「自分でも何したか分からないんだけど、私やっぱり綾斗くんに嫌われるのはやだよ……」

「え?」


 さっきと全く同じ言葉が漏れた。


「何を言ってるの? それは──」

「私ね、勝手かもしれないけど綾斗くんに友達だと思われてるって思ってて、嫌わてるって気づいたら苦しくて」


 琴葉の頬には涙が伝ったのが分かった。


「いや、ちょっと待った。それは俺のセリフだよ。琴葉こそ俺の事嫌いだろ?」

「え?」

「俺も何をしたのか分からないけど、やっぱりまた子供の頃みたいに仲良くしたい」

「え?」

「え?」


 お互いに目を丸くした。この会話では『え』が多すぎる。なぜこんなにも疑問が生まれるのか? 


「じゃあさ、どうして『村の巫女』の時、会場に来てくれなかったの?」

「だって琴葉来なくてもいいって……。本当は行きたかったよ!」

「……ば、馬鹿。そういうことじゃ……」


 琴葉は身を乗り出して俺に近づいてきた。


「じゃ、じゃあ、あの時、慎太くんと話してる時に私の名前が聞こえたんだけど、あれは何を話してたの?」

「あー、あれは慎太がからかってきたんだ。琴葉の事を好きだろーみたいに」

「……なんて答えたの?」

「え!? そ、それ聞く?」

「あ、ごめん。変な事聞いて」


 琴葉は乗り出した身を元に戻し、反省したように俯いた。俺はもしかしたらとんでもないことをしてしまったらしい。


「そ、それじゃあ、琴葉の最近の様子はそのせい?」


 この質問に対して琴葉が頷いてしまったら俺はもうどうすればいいか分からない。だが案の定、琴葉は遅れて小さく頷いた。


 琴葉は元気をなくしていた。学校も休んだ。


「もしかして体調不良で休んだのもそのせいか?」


 すると琴葉は、はっと動揺した。


「それは! えっと、その……言えない。ごめんね」

「そっか」

 

 てっきり本当の体調不良かと思っていたが、違うらしい。だが、俺のせいではないのか?


「ってかさ、琴葉今日俺らの会話聞いてたんだよね? それで嫌われてないって分かったでしょ?」


 琴葉はまたも、はっと動揺した。今日の会話、千鶴に琴葉のことをどう思ってるかと言う質問。なんとも思ってないってと答えたのだ。


「……うん。でも、ごめんね。色々と考えて信じれなかったの。それに、なんとも思ってないって言われるのが、なんか苦しくて……」

「俺もごめん。なんとも思ってないって言ったのは嘘だ。ただ、琴葉に嫌われてると思うと俺も苦しくて、それになんとも思う資格なんてないと思って、そう言ったんだ」

「……馬鹿。勝手に決めつけないでよ……」

「……ごめん」

「私は……人を嫌ったりなんて絶対にしないから」

 

 つまりお互いの勘違いだったってことだ。10:0で俺が悪い。自分で勝手に勘違いして、自分で琴葉を決めつけて、傷つけて。馬鹿すぎにも限度があった。


「よかったー」


 琴葉はそっと胸を撫で下ろして、ベットに仰向けになった。


 その表情は薄暗い中でもはっきりと分かる、心からの笑みだった。


 この数週間では絶対に見せてくれなかった表情。見せることができなかった表情。俺は今それを独り占めしているのだ。しかもあの琴葉の表情をだ。


 本当に良かった。琴葉に嫌われてなかった。


「本当にごめん」

「ううん。私の方こそごめんね」

「この埋め合わせはちゃんとするから」

「期待してるね」


 二人で笑い合い俺たちは、仲直り? をした。




 

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