第4話 あの人は私の事を……
私は千鶴と祭りに来た。毎年の決まりなんです。
私がいつも疑問に思っていたのは、この『村の巫女』というイベントに選出される女性はどのようにして選ばれるのかという事。
去年は流されるままに選ばれてしまったけれど、本当はどのようにして選ばれるのかが分からなかった。
投票制というのも聞いたことはないし、審査員みたいな人もいない。
時間になるまで千鶴と屋台を見て回った。途中、綾斗くんが慎太くんと2人で歩いてるのをを見かけたが、隠れてしまったのは内緒だ。
歩いている時、どこかの誰かから『村の巫女』についての話題が出たので、私は聞き耳を立てた。そうして分かったことは、やはり巫女の選出は曖昧なのだ。選出については、どうやら司会者が目をつけた女性をなんとなく選んでしまうらしい。
それで村一番の若い美人と言い切って良いのかな?
でも司会者は目の付け所良いそうで、毎年誰もが納得する美人を選んできているらしい。
イベントの時間が近づき、私は千鶴に協力してもらい司会者の近くをわざとらしくウロウロと歩き回っていた。すると本当に目をつけられたのだ。どうやら、私で決まりらしい。
やった!
「じゃあ、
「ありがとう!」
控え室では、化粧のプロだと名乗る女性におめかしをしてもらった。
「よし! 完璧ね! じゃあ行ってらっしゃい!」
「あ……はい! ありがとうございました! 頑張ります!」
やはりとても緊張する。去年選ばれてしまった時は時間がなく、私服のままステージに立つという前代未聞なことが起きた。でも今日は違う。おめかしをしてもらい、巫女装束? というのにも着替えた。この姿をみんなに見せるのはとても緊張する……。
なにより、綾斗くんに見られるかもしれないのだ。
「それではお待ちかね! 今年の一大イベント! 『村の巫女』の選出者を発表しまーす!」
司会者の声だ。私は鼓動が早くなるのを感じた。
「そう……彼女は美の極地に至りし存在。果たして彼女に勝る者はこの世にいるのか!」
もぉー何言ってるの! 言い過ぎだよ!
「正直わたくし、彼女の美貌にときめいてしまいました。と、これ以上言うと妻にご飯を作ってもらえなくなるかもしれないのでここまでで……」
馬鹿。ってか本当にそんなこと言って大丈夫なのかな。奥さん……聞いてませんように。
「それでは登場してもらいまーす! 去年の『村の巫女』の覇者でもあり高校生でもある、宮奈琴葉ちゃんです!」
行くしかない!
私は遅い足取りでステージに出た。
カシャカシャと次々に光るカメラのフラッシュ、そして隙間なく聞こえる歓声や口笛、そして拍手。
去年こんなに人多かったっけ!? 100人はくだらないよ!?
震える手を挙げて、振ってみせる。
途端にカメラのシャッター音が早まる。下げると元通り。
え、なにこれ楽しい……。
「
1人だけ妙に目立つ声。この名前を呼ぶのは1人だけ。
千鶴はステージの真下にいた。
近っ!
そんなこんなでインタビューや村の特産品のPRなどをし、なんとかやりのけてみせた。
これがカメラを通して放映されると意識すると、凄く緊張した。
そして、舞台は終盤に差し掛かった。
「えー寂しながらも、イベントは終盤を迎えてしまいました。それでは最後に質問タイムとさせて頂きます! 質問に関してはくれぐれも、彼女は華の女子高生と言うことなので常識の範囲内で宜しくお願い致します。それではどうぞ、手を挙げてください!」
「「「はーーい!!」」」
驚く事に、半数以上の人が手を挙げていたのだ。質問したい人は司会者が選んでくれた。
質問では、好きな食べ物や好きな女優などシンプルなものを聞かれた。
「それでは最後に1人! えーっと、そこの黒い服の美少年!」
最後か。疲れたぁ……。
「……はいっ!」
え?
聞き覚えのある声、よく見ると慎太くんだった。
「えー、琴葉ちゃんは好きな子とかいないんですか?」
「えっ!?」
好きな人!? もぉー、なに聞いてるの!?
咄嗟に綾斗くんの顔が浮かんだ。
違うよ! 綾斗くんは気になってるだけで別に好きとかじゃ……可愛いって思われたいだけで──
「……いません」
……。
……え? なんで静かになるの? 期待とかしてたのかな……。
あ! そういえば綾斗くんは確か慎太くんと祭りに来てるんだ! そして、慎太くんがそこに居ると言う事は……。
あれ? いない……。
慎太くんの周りに綾斗くんがいない……このステージからは人に隠れてしまって見えないって事はないから、別の所で見てるのかな?
どんなに見回しても見つからない。
なんで? どうして? 綾斗くん……さっきまで慎太くんと2人で屋台を見歩いてたのに……。
『え? まだ決まったわけじゃ……』
あの時の綾斗くんの声が頭の中で流れる。
……そうなんだ。やっぱり私には魅力がないんだ。巫女になんて向いてないんだ……。
──違う。
私にだって魅力はある。2回も巫女に選ばれたんだ。魅力はあるはずなんだ!
……私は分かってしまった。
私自身に魅力があっても、彼にとっての私に魅力なんてないんだ。
『琴葉は──!』
あの名前を出した時のあの話は、私に対するよくない事の話なのかな?
分からないよ。
『ってか見に行かなきゃ許さないからね』
千鶴があんな事言っても、綾斗くんは来なかった。
見に来るぐらい……いいじゃん。クラスメイトなんだし。
── べ、別に無理して見に来なくていいから……ね?
……そうか、私そんな事言ってたんだ。矛盾してるなぁ……。
でも……本当に来なかったんだ。
可愛いって思われたい人がいて、どんなに自信を持っても……その人にとっての魅力がなければ結局意味なんてないんだ。それどころか──
私、嫌われてるのかな……。
「──では最後の挨拶。琴葉さんよろしくお願いします」
「……え、あ、はい! えっと。今日は沢山の方にお越し頂き、ありがとうございます。これを機にして村のイメージアップに繋がればいいなと思っています。本当にありがとうございました」
深くお辞儀をした。
あれ?……私なんでこんな所に立ってるんだろう。
……そうだよ、村のイメージアップのためだよ。私は村のために頑張ったんだ。
帰らなくちゃ。
再び聞こえてきた隙間ない口笛や歓声、そして拍手。私はステージを出た。
控え室で着替えを済ませて外へ出ると、千鶴が待っていてくれた。
「待ったよー」
「ありがと……」
私達はすぐに歩き始めた。
「やーもう凄かったよ! 私凄い人と友達になれてたんだなって思ってさー」
「……」
「……ねぇさ、どうしたの? 暗い顔して。さっきの終盤も、途中で急に顔色変わっちゃうし……」
……暗い。
……そうだよ、私には今、光がないんだ。何をするにも必ず目標がある。私には目標があった。だから頑張れてた。でも今、私にはやりたい事が見つからない。きっとこれが光だったんだ。じゃあなんで私から光がなくなったんだろう──
「……えっ」
目の前の光景に、私の心が強く締め付けられるのが分かった。
「どうしたの?」
少し前を歩いていた慎太くんの横には……綾斗くんがいた。
やっぱり……綾斗くん、あの時だけどこかに行ってたんだ。
もう認めざるを得なかった。
私は綾斗くんに嫌われているんだと。
「どうしたのってば。大丈夫?」
「……う、うん」
大丈夫なわけない。何なのこれ……苦しすぎるよ。こんな気持ち知らないよ……。
綾斗くんは元々、小さい頃から誰にでも優しくて、面白くて、どこか抜けてて……。
そんな綾斗くんに私はきっと……憧れてたんだ。
でも憧れは単なる憧れ。私は綾斗くんを振り向かせる事ができなかったんだ。
元々自分で勝手に作った目標で、振り向いてくれると勝手に思ってた。でも綾斗くんは遠くの存在で、私にはどうする事も出来なかったんだ。
最初から答えは出てたんだ。でも……そんなの分かるわけないじゃん。
私が勝手に作った光が勝手に消えたんだ。元々私は暗い存在。綾斗くんと2人だけの時に何もできない。綾斗くんが困っていても声をかけられない。
私が作り出そうとしてる魅力的な自分は、偽物なんだ。
「ねぇ! ちょっと
「……っ」
「ねぇ、どうして……」
「……」
「どうして泣いてるの?」
「……え?」
気づいたら、頬に暖かい涙が伝っているのを感じた。
結局重い空気のまま、私たちは別れた。
今日もいつも通りの早起き。そしていつも通りの登校。次々来る友達に挨拶をする。そして最後、綾斗くんが教室に入ってきた。
「おは──」
私はいつも通り……に出来なかった。いつもは自分でも分かる程に、心から笑って手を振りながら挨拶ができるのに……出来なかった。だって私は──
──綾斗くんに嫌われるんだから……。
心から笑うなんて、今の私には出来ない。
私は手を下ろした。結局挨拶はできないまま俯いてしまった。
今日は席替えがあった。私の席は変わらず、綾斗くんは一番遠い席に行ってしまった。
何だろう……この複雑な気持ち。でも、これで綾斗くんは安心だよね。
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