第2話 気まずい関係
「よぉ! 綾斗」
「……慎太か」
約束通り、とある木の下で待っていた。
「どうしたんだよ、元気なさそうに。振られたのか?」
「ま、まぁ……」
「まさか……琴葉にか!?」
「……」
胸に、針が突き刺さるようだった。俺は小さく頷いた。
「お前なんて言ったんだ?」
「いや、俺からは何も言ってないけど。琴葉から俺に、今日見に来て欲しくない的な事言われた」
「はぁ? あいつがそんなこと言うわけないだろ!?」
「俺もそう思ってたんだけど……それほど俺の事嫌だったのかなって……」
自分で掘り返して余計苦しい……。
「そ、そうか」
慎太は同情するかのように俯いてくれた。そして口を開いた。
「辛いな」
顔を上げ、無理やり作ったような笑顔から放たれたその一言があまりにもシンプルで泣きそう。
「じゃあ、ステージ見にいかないの──」
「見たいっ!!」
「うるせーよ。……じゃあ行くしかねーだろ」
「でも……」
「バレないように影からこっそり見ればいいんだよ」
「……なるほど」
そうして、俺らはその時が来るまで屋台などで時間を潰していた。
『えー、8時から広場にて村の巫女の選出者を発表します』
「始まるな」
「……うん」
辺りは、放送を聞くなりザワザワとその話で盛り上がり始めた。
広場に近づいたが、やはり心の準備は出来てないようだ。人影とは言え、バレたら終わりだ。
やっぱり俺は──
「ごめん。やっぱりさ、慎太一人で行って」
「え? どうしてだ?」
「……えっと、腹が痛くてさ」
「大丈夫かよ! 送るぜ。トイレか? 家か?」
「トイレだけど。あっ、いいよ! 一人で行けるし……」
「いや、でもさすがに──」
「本当にいいって……俺の分まで見てきてくれよ」
「………そうか。、分かった。じゃあちゃんと目に焼き付けて、あとで1時間みっちり感想を伝えてやるよ」
「結構」
やはり親友に心配させてまで嘘をつくのは罪悪感があるな。でも琴葉のためだ。しょうがない。
トイレに行く振りをし、その場でぶらぶらするつもりだったが、やはり気になって仕方がない。振り返り少し待っていると、ステージに誰かが現れた。
だいぶ離れていたので、よく目を凝らした。微かだが、なぜかすぐに分かってしまう。あれが琴葉だということが……。その姿はとても華々しかった。
流石だな。
俺はステージに背を向けて、そこら辺のベンチで休む事にした。
「──と」
声がする……。
「──やと」
誰だろうか……。
「あーやーとっ。おい、綾斗! 起きろよ」
「はっ」
「おい、なんでこんな所で寝てんだよ。もう終わったぞ」
「そ、そうか……」
終わったのか。辺りはぞろぞろと帰って行く人の姿。
「本当に凄かったぞ! 女神かと思った。そうだ、感想はだな──」
「いいよ」
「え?」
「疲れちまった。明日聞かせて」
「おう……そうか」
「じゃあ帰ろうぜ 」
立ち上がり少し歩いたが、慎太が付いて来る気配がない。
「お前……無理するなよ」
そんな声が聞こえてきた。振り返ろうとする間に肩を組まれた。
「人生山あり谷あり。こういう経験もしとけって!」
「そうだな」
まぁ、高望みしすぎだよな。明日からは普通の人として関わろう。気まずそうに話すのもアレだしな。
暗い夜道、たまにポツンと立っている街灯を頼りにして歩き、そろそろ慎太と別れる時間だ。
「今日はありがとう」
「おうよ!」
そうしてお互い正反対の方向に歩いて行った。
──朝か。
やっぱり昨日のことまだ忘れられないな。まぁ、深く考えないようにしよう。
支度を済ませ、いつも通り近所の人たちに挨拶をし、学校に着いた。教室のドアを開けるといつもと変わらずみんなの挨拶で迎えられた。
いつも挨拶をしてくれてる琴葉はというと、俺の方を見て笑顔を作りかけたが、徐々に元気を無くしたように俯いた。結局琴葉だけには挨拶をされなかった。
挨拶すら面倒臭くなってしまったのか……。
俺は、窓側でもあり琴葉の前でもある席に腰かけた。この教室は縦2席、横3列の6席であり、ペアワークは基本的に縦同士だ。
もしペアワークがあったら……気まずい。琴葉からも朝のあんな反応されるほどだし、お互い気まずいだろうな。
そういえば、朝はいつも慎太に声かけられるのに、今日は来ないな。
廊下側の前の席の慎太は本と睨めっこしていた。珍しい……。
予鈴がなり、俺は肘をつき外をぼーっと眺める事にした。
チャイムと同時に、担任が教室に入って来たのが分かった。
「今日は席替えをするぞ」
席替え……アタリハズレで高校生活が大幅に左右されるイベントだ。とはいえハズレはないのだが。
琴葉と縦同士になるのは気まずい。3分の1か……
勿論縦同士になりたいが……琴葉のためだ。3分の2を願おう。とはいえ隣の席になったらなったで気まずそうだな。
男女別れてくじを引く。
結果、俺は慎太と入れ替わる形で、廊下側の前の席だった。琴葉の席は変わらなかった。
1番遠くなってしまった……悲しいというか安心したというかなんとも言えない感情だ。
「あら綾斗くん。今季は宜しくね」
後ろからの声だ。その主の名は
「宜しく。という事で、もし勉強で分からないことがあったら教えて下さい」
両手を合わせ、真剣な眼差しを送る。
「……はぁ、まったく。教えるからにはみっちりしごくからね」
「ありがたき幸せ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます