彼女に嫌われてるのが俺の勘違いって本当ですか?

カクダケ

第1話 あこがれのあの子

「おや、綾斗くんじゃないか? おはよう」

「おはようございます!」


 シワシワのおじいさんがこれでもかと言うほど、しわを鼻に寄せて微笑んでくる。


 そんなおじいさんを徒歩で通り過ぎ、少し歩けばもう学校だ。挨拶というのはやはり気持ちがいい。良い一日の始まりだ。


 10月ともなり、多少の肌寒さが秋を思わせる。俺は上着を着てきて正解だと感じた。





 この村は都心から3時間かかる山奥にある。周りを高い山に囲まれていて人口もそんなに多くない。時代に取り残された田舎の村だ。

 

 この俺──中秋綾斗なかあきあやとの通っている高校の全校生徒は15人である。俺たちの学年……一年生は6人と、一クラスでは全然足りないくらいの少なさだ。男女ともに3人づつときりがいい。そして俺たちは小学校の時からずっと一緒なのだ。


 一つ難癖をつけるとすれば、学校がとにかく古い。江戸時代に建てられたと言っても信じる程だ。


 教室の扉をガラガラっと開けると、みんなに「おはよう」という挨拶で出迎えられた。


 俺が最後だったようだ。


 挨拶を返し、教室に足を踏み込むと、1人の男子生徒──高瀬慎太たかせしんたが耳打ちをしてきた。


「おーい中秋。もちろん今日見に行くよな?」

「あたりまえだ」


 この村では、10月の上旬に行われる祭りがある。その中で最も盛り上がるのが『村の巫女』とう題で、村一番の若い美人が選出される行事があるのだ。いわばアイドルのようなものだ。


 慎太はそれの事を言っているのだ。


 どうやら昔は神様に捧げる人身御供だったのだが、今ではその名前だけが残ったのだ。


 選出された女性が取材や村の特産品をPRすることにより観光客を呼び、村を潤わせ、イメージアップに繋げたいという事で続けられている。


 選ばれた人は巫女装束というのを着て、村の広場に用意されたステージに立ち、その姿を披露するのだ。上半身が白で下半身が赤と、お寺でよく見るあれだ。


「また琴葉だといいな」

「いや、琴葉に決まってるだろう」


 宮奈琴葉みやなことは……俺のクラスメイトである。琴葉は去年、中学生にも関わらず『村の巫女』に断トツで選ばれた。どこまでも純粋で、とても愛らしい女の子だ。村のみんなが琴葉を『村の巫女』にしたがるのも分かる。


 この村の人口はそんなに多くない。知らない顔はないくらいだ。その中で琴葉は僕の中の1番の可愛さだ。選ばれなくては困る。


 実を言うと、俺は彼女に憧れを抱いているのだ。いつも真面目で、誰にでも笑顔で接する。琴葉の一つ一つの行動は見ていて飽きない。


 いつから俺は琴葉の事を異性として意識し始めるようになったのだろうか? 自分でも分からない。でもやはり、中学に入ってからだろうか? そうだと思う……

 

「お前、本当に琴葉が好きだなー」

「ばかっ、声でかい!」


 急に耳打ちをやめたと思えば、そんな事を聞いてくる。それを耳打ちして欲しかった。


 慌てて教室を見回すが、相変わらず琴葉はもう1人の女子生徒……千鶴と話していた。それどころか誰も気づいてないようだ。


 よかった……


「否定する事ないだろ」

「違っ……好きっていうか、琴葉は!──」

「はいはい、乙女はもういいから」

「聞けよこのやろ」


 視線を感じた。恐る恐るそちらに目をやると、琴葉と目が合ってしまった。


「……っ!」


 咄嗟に逸らしてしまった。きっと名前の時だけ声量が大きくなってしまっただろうか。


 どこまでも黒く、艶のあるきめ細やかな長髪は、大人びいた印象だ。


 変な人だって思われなかったかな……


 やっぱり俺、乙女なのかな……


「じゃあ一緒に祭り行こうぜ」

「……うん」


 行く相手がいなかった俺はそう返事する。2度目、琴葉を見たときにはもう目が合うことはなかった。


 心配だ。今頃俺の事どう思ってるのだろうか……


 俺は琴葉と全く話さないわけではない。登校時や村の中であった時は、挨拶は必ず交わしている。一度だけ一緒に登校した事があったが、全く会話が弾まなかったのでそれはノーカウントだ。


 だが授業のペアワーク時や、仕事絡みの事ではよく話している。決して疎遠というわけではないのだ。


 いつも屈託のない笑みで挨拶してくれる琴葉が、俺の事を変だと思うということはないだろうと信じたい。


 結局そのモヤモヤのせいで授業に集中する事が出来ず、放課後を迎えてしまった。


「じゃあ7時、いつもの木で待ち合わせな」

「わかった」


 慎太はさっさと帰ってしまった。





「こらっ! ぼーっとしないの綾斗!」


 頭に衝撃を感じた。


 見上げるとそこには春原千鶴すのはらちづるが立っていた。夕陽に照らされ、茶色ががっていたそのショートヘアーがより一層茶色くなっていた。千鶴は『明るい』という言葉がよく似合う子だなと思っている。


 俺はどうやら軽いチョップをされたようだ。


 そうか俺……ぼーっとしてたのか、ずっと。


「あんた今日、こと出るけどもちろん見に行くよね? ってか見に行かなきゃ許さないからね」


 こと……俺も言ってみたい琴葉のニックネームだ。

 

「え? まだ決まったわけじゃ……」

「いや、決まってるよ。私が保証するわ」


 すごい自信だな。まぁ、俺も琴葉で決まりと思ってるのだが。


「ちょっと! やめてよ千鶴」


 その声で胸が跳ね上がった。理由は2つ、突然の声と、今一番敏感な子の声だからだ。


 あたふたと、千鶴を押しのけるように間へ入ってきたのは琴葉だ。


「え? だってあんたのた──」

「いいからぁ!」


 琴葉は両手で千鶴の口を押さえた。何をそんなに慌ててるのだろうか……


 すると、琴葉はゆっくりと首を回し俺に目を合わせてきた。夕陽に照らされた顔からは読み取れづらかったが、ほんの微か頬が赤らんでる気がした。


 えっと……俺、どうすれば。


 琴葉はモジモジとしながら目を合わせようとせずに口を開いた。


「えっ……と、綾斗くん」

「お、おう」

「も、もしだよ!? もし、私だったら……べ、別に無理して見に来なくていいから……ね?」


 えっと……見に来て欲しくないって事か? やっぱり俺、嫌われてるのか!? でもなんでそんなにモジモジしながら言うんだ?


 そうだ、琴葉は誰にでも優しくて純粋な子なんだ! 嫌な事は嫌とはっきり言えない。それなのに……無理してまで……


 そんなに俺の事が……


「って千鶴!? ちょっ待って! 先行かないでよっ!」


 気づいたら、本当に千鶴の姿はなかった。


 風のごとく物凄い勢いで目の前から姿を消す琴葉。そこまで俺と2人になる事を嫌がらなくてなも。


 はぁ……俺、いつから琴葉に嫌われていたんだろう。今朝の事だけとは思えないや。


 なんか胸が苦しい。


 何を……琴葉に振られただけだ。ただの憧れで別に好きなわけでもないのに。


 女子に嫌われた事はないと思っていたのだが、いざ嫌われる想像してみるとキツいな……しかも憧れてた人に実際嫌われるのだからもっとキツい。


 教室前からサッと消える足音が聞こえた。


 振り向いたがもう誰もいなかった。


誰だろうか……


 そうだ、慎太と待ち合わせの約束したんだ。時間は全然あるし、少し経ってから帰ろう。今は何もしたくないし。

 

 はぁ……祭り行きたくないな。




 

 

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