虫歯の話
小さい頃、僕はあまり虫歯に悩まされることがありませんでした。
甘いお菓子を食べた後に歯磨きをしなくても、ご飯食べた後に歯磨きしなくても、別に虫歯になることがありませんでした。
「僕の歯は強いのだ」
と、変に思っていました。
その自信ゆえの傲慢さで、20歳の時に苦しむことになります。
パソコンを使ってネットサーフィンをしながら、ロールパンを食べていた時でした。
「ゴリッ」
明らかにパンを食べている時に出るものとは違う音がします。そしてめちゃくちゃ硬いものを噛んだ感触も。
最初はパンに異物が混入していたのかと思いましたが、口の中のモノを吐き出してみると、パンの中から現れたのは、砕けた歯でした。背筋がぞっとしたのを覚えています。
「そういえば、ここ最近、夜も寝られないぐらい歯が痛かったな。その原因はこれか」
となんて考えながら、その歯とパンの混ざったものをゴミ箱に捨て、またネットサーフィンを始めました。背筋がぞっとした割には危機感が全くありません。
その歯が砕けた事件からしばらくして、あれだけ痛かった歯の痛みも無くなり、僕の頭の中から歯のことは消えていきました。
「少し砕けているけど大丈夫」
そう思って日々を過ごします。
それから2年が経ちました。2年も放置していたんですね。
ある日の知り合いとの会話です。
「今度、歯医者に行かなきゃいけなくて」
「ふーん、大変だね。その点、僕は歯が強いから、心配ないわい」
「えっ、そうなの。虫歯とか無し?」
「うん、歯が砕けているところがあるだけ」
「はっ?歯が砕けている」
「うん」
「それ、虫歯のヤバいやつなのでは?」
「えっ?だって、歯が砕けてるだけだよ」
「歯が砕けたらマズいだろ!!」
「えっ?」
その時、歯が砕けているのがいかにダメなことなのかを知ります。
虫歯により、歯が砕ける。また、虫歯により痛みがあっても、虫歯がどんどん進行したら、その痛みも無くなるということも。
「虫歯って放置したら、最悪死んじゃうらしいよ」
「いやぁ!!」
友達の脅しに屈し、僕はすぐに歯医者に行きました。
「結構酷い虫歯ですね。根管治療しなくては」
「はぁ」
放置しまくって危ない虫歯かと思いましたが、歯を抜かなきゃいけないほどではないようです。麻酔を打ちつつ、ダメな部分の歯を削り、根っこを治療して悪い菌を追い出した後、蓋をして銀歯を乗せるという治療でいけるそうです。やったぜ。
しかし、この治療、めちゃくちゃ時間がかかります。週2~3回歯医者に行って、それを2か月かそこらやったと思います。もっと時間がかかったかも知れません。よく覚えていないのですが。
そして治療の音。僕が経験した中で一番うるさいんじゃないかってぐらいの音でした。
歯を削るのですが、その時に使用するドリルが割と大きいもので、それを歯に当てられると道路工事でアスファルトをガンガン削っているあの音がします。
「ドガドガ、ゴルゴルゴルゴル、ガガガガガ、ガリガリガリ、ギュイーン!!」
これがめちゃくちゃうるさいです。しかも、頭の中に直接響いてくる。痛みは無いのですが、もうその音が生々しすぎて……。人の体の中でしてはいけない音でした。
人間、脳が追い付かないぐらいおかしなことが起こると、笑ってしまうのですね。
「ドガドガドガ!!」
「ぷっ、くくく」
「ゴルゴルゴル!!」
「クスクスクス」
「あの、笑わないでもらえますか。ドリルが口の中入るんで」
「すみません」
先生!笑わないのは無理です!!
何回目かの治療の時、隣のベッドで、小さい女の子が治療していました。
「うわぁん!怖いよぉ!!」
「大丈夫だよ。痛くないし、うるさくもないから。心配しなくて良いよ!!」
「ほんと?」
医者の慰める声と、落ち着き始めた少女の声。
その頃、僕のベット。
「ギュイーン!!ドドドドドドド!!ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ!!!!!!」
隣のベットで暴れる音。
「うわぁああああああああああんんんんん!!嘘だ!!だって横からすごい音するもん!!うわぁ!!絶対やらない!!」
「大丈夫だから。痛くないから!!」
大声を上げ始める少女と、必死に抑えようとする歯医者。
そして、隣の僕のベッド。
「ガリガリガリ!!ドガドガドガ!!ギューン!!ダガダガダガ!!」
ごめんね、少女よ、これが歯の治療だよ。
「うわぁああああああああああああああああああんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!」
うーん、少女よ。これからは毎日歯磨きちゃんとしようね。
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