書くこと

 こうして小説を書いたりするようになったのは、僕が二十歳の頃だと思います。大学生だった僕は、たくさん本を読むという目標を立てて、日々読書に明け暮れていました。

 読む本の内容は色々でしたが、小説が一番多かったと思います。小説のジャンルも色々です、ファンタジー、SF、ミステリーなどなど、どの本も僕に自分の考えたことの無い世界を見せてくれ、とても楽しく、有意義な時間をくれました。



 小説をたくさん読み、色々な物語を楽しんでいると、ある欲求が湧いてきました。

「自分でも小説を書いてみたい!!」

 そういう欲求です。



 そう思った僕が、まず、トライしたのが文学サークルに入ることです。僕の通っていた大学にはいくつかの文学サークルがありました。僕はその一つに入ることにします。文学サークルに入ると、同じ小説を書きたいと思う者どうし、切磋琢磨して自分の能力を高めることが出来る気がします。本屋に並んだり、世間の光を浴びない、他の人の話も読めますし。



 しかし、持ち前のコミュニーケーションの苦手さが露呈します。

 


 そもそも、僕はあまり人と関わらず、一人で過ごすのが好きでした。

 高校時代、部活は一応野球部に入っていたので、それなりに人との関りはありました。野球はチームスポーツなので、コミュニケーション無しでは出来ません。無理やりにでもコミュニケーション力はつくはずです。

 しかし、僕は、必要最低限のコミュニケーションだけ取り、チャンスがあれば一人になろうとしました。

 部活のみんなで練習後「カラオケ行こう!」なんてなっても、絶対に行きません。「用事があるから……」「勉強しないといけないから……」等々、理由をつけて断っていました。

 ある日、なんか上手いこと外堀を埋められて、カラオケにみんなで行くか、明かりもまともに無い、クソ田舎道を家まで5時間ぐらい歩くかの二択を迫られた時がありました。

 当然部活仲間の皆は「こんな状況になったらさすがに来るだろう」と思います。僕はそんな仲間たちに言います。「こんなところにいられるか!俺は帰らせてもらう!!」

 その後、数人に取り押さえられ、カラオケに連行されました。これが僕の、誰かと行く初めてのカラオケになります。

 ド緊張しながら、エアロスミスの曲、映画『アルマゲドン』でテーマ曲になったやつですね。それを歌った気がします。



 そんな僕なので、文学サークルの人の集まりにいるだけで苦痛でした。なんかよく分からない定例会、互いの小説を持ち寄った批評会。僕は、1時間に60回ほどお腹が痛くなりました。



 結局、僕は文学サークルを辞めることになるのですが、その決定打が夏休みの合宿でした。

 2泊3日で合宿所にて各々が書いてきた作品の読みあいをしたり、批評をしたりするみたいでした。

 1時間の定例会ですら、僕の腹痛はマックスビート!なのに、2泊もしたら、僕のお腹がビックバンを起こし、この世界に新たな宇宙を産み出してしまうことは確実です。

 そんなことになったら、二つの宇宙同士で資源などを求めた戦争が起きてしまう。そんな絶望的宇宙戦争を起こしてはいけない。僕は人類、そしてこの宇宙の未来のために合宿への参加を見送りました。



 合宿が終わって、最初の定例会の時です。合宿に行く前にはどこかよそよそしかった僕と同じ新入生たち。僕以外の新入生はなんか仲良くなっています。あっ、なるほど。合宿には交流を深める意味もあったのだな。その時僕は思いました。あれ、僕の居場所が無いぞ?あれあれ?もしかして僕はいらない人?

 スーパーネガティブパワーを発揮した僕は、もう無理だと諦めました。

「部長お話があります」

「どうしたの。なんか相談?小説が思い通りに出来ない?」

「はい、小説というより人生が思い通りに出来ないので辞めます」

 僕は文学サークルを辞めました。



 文学サークルを辞めた後も、やはり、小説の技術を磨いたり、知識を深めたくて、似たようなものに入ろうとしましたが、一回目の失敗が響いて一歩が踏み出せません。

 

 ところで、僕の大学では文学部でも無いのにめずらしいことに小説を書くゼミがありました。

 これが最後のチャンスを思った僕は、そのゼミの門を叩くことに決めます。

 ゼミを紹介したり、ゼミの見学をする日、僕はわき目も振らずそのゼミへ……。



 いけませんでした……。結局、全然人がいないゼミの話を聞いて、あんまり興味も無いのに、そこに決めました。だって人が多い所は怖いんですもの……。



 そんな感じで誰かと切磋琢磨して小説を書くということはしていませんが、そんなコミュニケーションに苦しんでいた時でも、少しづつ小説は書いていました。意欲はあったのですね。書いていると心の中の汚れが消えていって、すっきりした気分になれる気がしたのも大きいです。



 そうやって書いていると一つの悩みにぶち当たります。

「自分の頭の中で考えていることが、文章になると全然イメージと違う」という悩みです。



 頭の中では完璧なんです。物語の中のキャラクターたちは綺麗な服をまとい、魅力的な考え方を持って、素敵な表情で華麗に動き回ります。

 しかし、文章にしたとたん、ボロボロで汚い服を着て、赤ちゃん並みの知能で、ゾンビみたいによだれをたらしながら、床を這いつくばっているキャラになります。

 そんな文章を書くたびに僕はその文章を破り捨てます。

「頭の中にいたキャラクターたちに申し訳ない」

 そんな気分になり、自分が嫌になります。



 当たり前の話ですが、人に小説を読んでもらうことなく、アドバイスなどもらうことなく、ただ、でたらめに自己流に書いている僕には、小説を書く技術がありませんでした。言葉を知らなければ、リズムも分からず、物語の盛り上げ方も分からない。ただただ、小学生並みの文章を書き殴るだけ、それを反省しようにもどうして良いか分からない。僕はだんだんと小説を書くのを辞めていきました。書けば書くほど、物語の登場人物がかわいそうに思えたからです。



 本当は、そんな言い訳なんかせずに、どんなにダメな文章でも、とにかく書くことが大切なのに、僕は言い訳をして逃げました。頭の中で完璧なら、頭の中から出さなければ良い。

 そうじゃなくて、なんでもっと文章を磨いて、キャラがこの世界で輝けるようにしないのか。自分の頭の中で住まわせているだけの方が失礼じゃないか。そんな風には考えませんでした。

 たぶん、僕は「本気で小説を書けば、すごい作品が書ける。でも、本気を出してないから書けないのは仕方ない」そう思っていたかっただけなのだと思います。

 他の人の目にさらされて評価されなければ、この世に形として残らなければ、僕は孤高の天才作家でいられます。そんなもの幻ですけどね。そんな偽物にすがりたくなる気持ちも分かります。そんな自分だから。



 最近になって、また小説を書き始めました。一度小説を書いていた時とは気持ちが違います。今度は夢もちゃんと持ってやろうと思います。でも、そんな時でも、やはり文章力の無さ等、小説技術の無さに嫌気がさします。頭の中の完璧な物語を壊してしまって、発狂したくなります。諦めそうになります。それでも、僕は自分に言い訳せずに、小説を書く。そう決めました。どんなにクソみたいな作品になり、人から罵倒されて、自分が凡人以下の存在だと分かっても、幻の天才よりはましです。



 自分をしっかり見て、自分に足りない部分はどこかを知って、努力する。そうすれば、いつか僕の頭の中にある物語が、その頭の中の魅力を失わず、世の中に形に出来る。そんな日が来れば、僕がゾンビにしてしまったキャラクターたちも報われると思います。

 まあ、僕の頭の中の物語が完璧に表現出来ても、それが人に受け入れられるかはまた別の問題ですが、まずは頭の中の物語をそのままこの世界に形に出来るだけで上出来でしょう。



 また今日も、僕は逃げようとしています。頭の中の物語を壊したくない。そう思います。でも、それでも、自分のほっぺたを叩いて、どんなに時間がかかっても書こう思います。今日は、そんな決心をした日でした。

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