5.対決
俺は
弾かれたヤツは、そのまま小舟を飛び越え、ゲーム正規の敵である巨大金魚を巻き込みながら反対側へと入水した。
「あ……」
巨大金魚がぷかりと腹をみせて浮かぶ……。まあいっか。
「あいつ、ま、前よりでかくないっすか!?」
確かに"リアバケ"の海で遭遇した時よりも二回りはでかい。あの時は体長7~8mってところだったが、今回は10mは超えている。
「来るぞ!!」
「まず俺が行くっす!!」
再び水面から飛び出し、宙を舞う巨大サメ。とてもそんな軽やかな動きが出来るとは思えない大きささが、ヤツは水面から全身が露わになるほどに飛び上がり、俺たちの小舟に向けて落下してくる。
「光と炎の合成魔法 "レッドフレア"!!」
空中に居るヤツに向け、赤い粒子や光が集まり俺たちの頭上で大爆発を起こした。
「や、やったか?」
「先輩! それ言ったらダメなやつ!!」
「え?」
空中に残る煙からサメの大顎が姿を現す。
「しゃぁぁ!!」
俺はそれを力任せにチェーンソーをぶち当てる。パリィングスキルが発動し、ヤツは弾かれ湖面へと落下する
「ダメっすよ!! そんなフラグ立てたら!!」
「どこにも旗なんて立ててねぇよ!!」
言い争う俺たちを後目に、サメは小舟の舳先へと食いつく。小舟がガクガクと揺れ、そして破砕音と共に小舟の舳先が食いちぎられる。
「沈められたらおしまいだぞ!」
「もう一発行くっす! 次は『やったか』とか言ったらダメっすよ!!」
「よ、よく分からんが分かった!」
俺はチェーンソーを下段に構え、周辺視野まで使ってサメの来る方向を警戒する。
「左後ろっす!!」
「おりゃぁぁ!!」
俺は振り返りつつ叩き上げるようにサメの鼻先へチェーンソーを当てる。パリィングスキルでサメは少し浮き上がりながら横へと飛んでいく。
「風と水の合成魔法 "サンダーレイン"!!」
その状態のサメに雷の雨が降り注ぎ、大きなしぶきを上げながら湖面に落下した。
直後、水面が爆発するように弾け、そこからサメが飛び出してくる。
「だ、だめっす、先輩、明鏡止水剣で!!」
「わ、わかった、め、明鏡止水剣!」
スキルを発動すると、周囲が真っ暗になり、俺とサメ以外は何もなくなる。お、意外と狙いやすいかも。サメは空を泳ぐように俺に向かってくる。俺はチェーンソーを下段に構え狙いを定める。チェーンソーの唸りが高まる。
一瞬の交錯──
そしてサメの片ヒレが落ちた。
「先輩! いけるっす!!」
「明鏡止水剣!!」
再び暗闇の中でヤツの頭部を捉え、一閃する。
ヤツは喉の奥からグァァァァァと唸るような音を立てながら水中に消えていく。
頭部を斬りつけたが、致命傷にはなっていないように見える。というか、電子データ的な存在であるヤツをどのくらい攻撃したら倒せるんだ?
直後、下からの突きあげるような振動で小舟が大きく揺れる。
「なっ!」
「先輩!!」
俺は小舟から弾かれ、水中へと落下した。
水中は完全にヤツのフィールドだ。水中はマズイッ!! 俺はとりあえず水面から顔を出そうとして……、完全にこっちを捉えている。向かってくる。今水面に顔を出せば、直後に食いつかれる。
俺は水中で意識を集中する。さすがゲームと言うべきか、チェーンソーは水中でも問題なく稼働してくれている。ゲーム? そうだこれはゲームだ。なら息も苦しくない。特に水中から出ろとのアラートも出ない。このまま戦えるのではないか?
サメが急速に接近してくる。それがわかる。
──明鏡止水剣!
周囲が真っ暗な空間に変わる。さすがゲームだ。この空間では水の抵抗が無い。ヤツとすれ違い様に腹を切り裂く。
周囲が水中に戻り、そしてヤツは水中でもがいている。
──止めを刺してやる、明鏡止水剣!
再び周囲が暗くなり、俺の攻撃を妨げる物は無くなる。
「これで終わらせる!!」
俺はヤツの首を狩るように、チェーンソーを薙ぐ。ヤツの首と胴体は分断され、動きを止めた。そのまま水中で音もなく、首と胴体はバラバラに沈んでいった。
「ぶはぁ」
水中で息の必要はなかったが、水面に顔を出すと自然と呼吸したくなる。
「先輩! 大丈夫っすか! どうなったんすか!?」
小舟から身を乗り出し、俺に問いかける
「マジっすか! サイコーっす! これで事件解決──」
水面が爆発し、小舟が粉々に砕け散る。
「
サメが空に浮かんでいる。いや、あれはサメか? サメのような形状を残しているが、とても真っ当な状態には見えない。切断したヒレや頭はそのまま、中途半端にくっついたような、くっついていないような、よくわからない状態になっている。体表面も元々はサメらしく水色の鮫肌だったが、今はいろいろな色のモザイクのようになっている。
「ギチギチギチギチギチ」
ヤツはおかしな音を立てながら、水面に落下した
「ライトウオール!!」
「
「ぐ、ログアウト!!」
再び水柱が立ちヤツが空へと飛び出す。空中で静止したヤツの目が光る。いや、光ったように見えただけか。だが、明らかに俺を捉えている。
こちらに向けてすごい勢いで接近してくる。
「ログアウト!!」
直後視界がブラックアウトし、AWカフェの個室へと戻ってきた。アレは無理だ。もはや水中も空も関係なくなっていた。
「中途半端に攻撃したことが仇になってしまったのか……」
俺はAWギアを外し、戦闘による疲労感と、無駄に手負いにしてしまったかもしれないという焦燥感でぐったりとうなだれた。
「はぁ、とりあえず
パソコンの画面で勝手に3Dグラビア画像が表示される。水着美女の絵姿が乱れ、書き換えられていく……、モザイク状に乱れたサメに!
「こいつっ!!」
画面が飛び出し、サメが俺に向かってその顎を開く。
「っ!!」
サメの顎が、俺の肩に食らいつく。そして肩の肉を引きちぎるべく頭を振り回し──
「……」
だが、一向に俺の肩は引きちぎれない。いや、そもそも歯は食い込んですらいない。
「UARは法的規制が厳しいからな、尖らせられないんだよ」
──確実にこのサーバーで動いてるって状況で"物理的"にオフラインにしてやれば、捕まえられるわね
唐突に情島が言った言葉が脳裏に浮かぶ。今、確実に俺の目の前にあるこのパソコンの中に居る、確実に!
物理的オフライン? どうするんだ? よく分からん、分からんが……、
「これなら切れるだろ!!」
俺はパソコンの電源を引っこ抜いた。
「ガガガガガ」
ディスプレイは暗転し、乱れたサメ型に飛び出したUARが元に戻っていく。
俺は再び椅子に掛け、真っ黒に消えた画面をしばし眺めた。
「お、終わった……、あ」
そこで唐突に思い出し、俺は隣のブースへと駆けこむ。
「
「あぁ、先輩、無事でなによりっす……」
「よかった、元気そうだな」
「あ、いや、そうでも、ないっす、できれば、救急車……」
「お、おい、
俺はAWカフェの店員に向かって叫んだ。
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