4.帝国浪漫エピックAW
「それが事実だとしても、だ。すべてのAWゲームを停止させるなんてことは不可能だ。どこの運営会社も素直に応じはせんだろうし、個人での使用は止めようがない……」
俺と
「なら! せめてゲーム内の水辺への接近注意の呼びかけをしてください!!」
「水辺だと?」
「どういう理由かわかりませんが、相手はサメの形状でした。今回遭遇したのも砂浜です。確認した限りでは、すべての被害者はゲーム内の水辺で襲われています」
製作者に何らかの目的があるのか、それともただの趣味なのか、なぜか相手はサメの姿をしている。そして出現するのは水辺ばかりだった。
「……、国際警察に伝えてはみる。俺にできるのはそこまでだ」
俺たちはそこまでを本部長に依頼し、部屋を辞した。
「サメだから水辺ってことなんすかね? でもゲームで"水辺"なんて、ありえないほどたくさんあるんで気を付けようがないっすよね……」
おそらく自分がプレイしたことのあるゲームを思い出しているのだろう、
「条件はそれだけじゃないけどな……」
「え、どういうことっすか?」
水辺カウントをやめ、
「傷だよ……。AWゲームってのはリアルなんだな、あの時、子供たちは水辺で転んで擦りむいていた。まさかゲームでそこまで再現してるってのに意外だったんで良く覚えてるんだ……。直後にサメが現れた」
「ってことは、水辺で傷があるってのがヤツの寄ってくる条件?」
「実際のサメも血の匂いに敏感だって言うしな。なんでそんな条件なのか、さっぱりわからんが……。」
理由は全く見当がつかないが、アレの制作者は、どうしても"サメ"にしたいらしい。姿形に襲い方、そして襲撃条件までもがサメを意識している。あのプログラムはおそらく天才的な技術によって制作されているのだろう。制作者は天才的故に、常人たる俺たちには分からない謎のこだわりを持っているらしい。
「で、どうするんすか、先輩」
「どうもこうもない、これ以上はサイバー犯罪対策課の仕事だ」
犯人は完全に電脳世界からやってくる。俺たち"足で稼ぐ"刑事には、犯人逮捕のタイミングまで仕事は無い。
「でも、サーバーにも痕跡残ってないんすよね?」
「だとしても、俺たちにできることはない」
忸怩たる思いはあるが、これ以上俺のやり方で追う方法が無い。
「……ありますよ」
「なに?」
再び
「だって、先輩、シャベルで戦ったじゃないっすか!!」
「いや、あれはたまたまで──」
「なら、倒せるんじゃないっすか!?」
「いや、無茶だろ」
「サメの攻略法……、あるっすよ」
更に
「えーっと、念のために聞いとくわ……」
「まず一つ!」
「
「……、あ、うん、もう既に言ってる意味の8割が分からん」
俺は既に聞いたことを後悔していた。
「酸素ボンベ暴発っすよ!」
「"最古"で"酸素ボンベ"なのか?」
「その次に歴史があるのは"感電"っすね」
右中指を立て、2つ目を示しながら
「"歴史"の部分はよくわからんが、感電ってのはイメージできないこともないか……」
「海底の送電ケーブルに噛みつかせるんっす!」
「ソレ限定なのか……? というか狙いがニッチすぎないか?」
もうこれ以上聞いても仕方ないんじゃなかろうか……。それを実現するとしたら、送電ケーブルが海底に埋設されているゲームを探すのか? そんなゲームあるか?
「でもたぶん一番確実なのが……」
「確実なのが?」
「チェーンソーっす!!」
「え?」
「だからチェーンソーっす!!」
ついに10割理解できなかった俺が聞き返したところ、
【MMOAWロールプレイングゲーム「帝国浪漫エピックAW」】
「ってことで! ここ"帝国浪漫エピックAW"っす」
「俺どうかしてた。
「ここはレトロゲーで人気のあった"エピックシリーズ"ってゲームシリーズのAW版なんすけど、剣と魔法のファンタジー世界なんで、爆発魔法も雷魔法もあり、なにより……、チェーンソーがあります!!」
「剣と魔法のファンタジー世界、なんだよな……?」
「そうっすよ」
「なんでチェーンソーがあるんだ?」
「神をバラバラにするのはチェーンソーっすよ?」
OK、もう理解するのは諦めたほうが良さそうだ……。
「とりあえず時間もないんで、これからパワーレベリングするっす!」
「パワーレベリング?」
聞きなれない言葉に、俺は
「最低限、大剣の"パリィング"と最強技の"明鏡止水剣"を閃いてもらうっす」
「うん、もうわからんから任せる」
そうだった、よく考えたら聞きなれない言葉だらけだった。むしろ理解できている内容のほうが少ないなら、気にしても仕方ない。言う通りにしておこう。
「先輩はこれ使ってくださいっす」
予想はしていたが、やはり、というか
「チェーンソーって、剣なのか……?」
「大剣のカテゴリっす」
「……」
気にしたらだめだ。
「さぁ、これで技閃いてもらいますっすよ!!」
というか、本当にこんなことしてていいのか? ただ遊んでるだけでは……? と、不安になっていたところで、
「このゲームで最大の水辺は、たぶんここっす、メイリンガ湖っす……、あ、湖じゃサメ来ないっすかね……?」
「いや、プールで襲われてる被害者もいる。大丈夫だろ……、っていうか、調書読めよ!!」
「あ、はは、あ、あの小舟っす、あれで湖に出るっすよ!!」
マズイ話の展開になったためか、
「俺がわざと負傷するっす」
湖の中央付近。そこまで来た段階で
「だ、大丈夫か?」
「まぁ、俺の方がHPは圧倒的に高いっすし、俺後衛っすから。先輩前衛よろしくお願いするっす」
「あ、ああ……」
あの"サメ"にやられたら、ゲーム上の耐久性とか関係なさそうではあるが、とりあえず言わないでおく。
更に小舟でうろうろしていると、敵モンスターとエンカウントした。恐ろしく巨大な金魚とシュモクザメっぽい敵だ。
「あのサメは違うよな……?」
「あれはこのゲーム正規の敵っす」
とりあえずややこしいので、シュモクザメっぽい敵は倒し、ヤツをおびき寄せるために巨大金魚の攻撃を
「一応痛いっす」
AWゲームでは、他の感覚同様に"痛み"も再現している。ただし、"痛み"の強度はかなり弱いが。
このゲーム「帝国浪漫エピックAW」では、戦闘が終わると負傷が回復してしまう。そのため、負傷してヤツをおびき寄せるためには、戦闘を終わらせることができない。巨大金魚の攻撃をパリィングでいなしつつ、ヤツが来るのを待つ。
「意外と来ないな……、まさか条件違ったか……?」
「えぇー、先輩、それ今更──」
倒したはずのシュモクザメの死体が動いている……?
「ヤツだ!!」
シュモクザメの死体を弾き飛ばし、その下から唐突にヤツが出現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます