4.帝国浪漫エピックAW

「それが事実だとしても、だ。すべてのAWゲームを停止させるなんてことは不可能だ。どこの運営会社も素直に応じはせんだろうし、個人での使用は止めようがない……」

 俺と左術さじゅつは、本部長に対し今日遭遇した事態について説明し、「AWゲームを停止するように要請したい」旨を相談していた。確かに本部長の言う通り、仮にAWゲームを運営しているすべての会社がそれらを停止したとしても、個人で楽しむゲームソフトの使用までは止められない。実際、オンラインではない、シングルプレイのAWゲームでも被害者が発生しているのだ。


「なら! せめてゲーム内の水辺への接近注意の呼びかけをしてください!!」

「水辺だと?」

「どういう理由かわかりませんが、相手はサメの形状でした。今回遭遇したのも砂浜です。確認した限りでは、すべての被害者はゲーム内の水辺で襲われています」

 製作者に何らかの目的があるのか、それともただの趣味なのか、なぜか相手はサメの姿をしている。そして出現するのは水辺ばかりだった。


「……、国際警察に伝えてはみる。俺にできるのはそこまでだ」

 俺たちはそこまでを本部長に依頼し、部屋を辞した。




「サメだから水辺ってことなんすかね? でもゲームで"水辺"なんて、ありえないほどたくさんあるんで気を付けようがないっすよね……」

 おそらく自分がプレイしたことのあるゲームを思い出しているのだろう、左術さじゅつは指折りながら、あれこれと呟いている。

「条件はそれだけじゃないけどな……」

「え、どういうことっすか?」

 水辺カウントをやめ、左術さじゅつが再び俺を見る。

「傷だよ……。AWゲームってのはリアルなんだな、あの時、子供たちは水辺で転んで擦りむいていた。まさかゲームでそこまで再現してるってのに意外だったんで良く覚えてるんだ……。直後にサメが現れた」

「ってことは、水辺で傷があるってのがヤツの寄ってくる条件?」

 左術さじゅつの言葉に俺は頷き肯定する。

「実際のサメも血の匂いに敏感だって言うしな。なんでそんな条件なのか、さっぱりわからんが……。」

 理由は全く見当がつかないが、アレの制作者は、どうしても"サメ"にしたいらしい。姿形に襲い方、そして襲撃条件までもがサメを意識している。あのプログラムはおそらく天才的な技術によって制作されているのだろう。制作者は天才的故に、常人たる俺たちには分からない謎のこだわりを持っているらしい。


「で、どうするんすか、先輩」

「どうもこうもない、これ以上はサイバー犯罪対策課の仕事だ」

 犯人は完全に電脳世界からやってくる。俺たち"足で稼ぐ"刑事には、犯人逮捕のタイミングまで仕事は無い。

「でも、サーバーにも痕跡残ってないんすよね?」

「だとしても、俺たちにできることはない」

 忸怩たる思いはあるが、これ以上俺のやり方で追う方法が無い。


「……ありますよ」

「なに?」

 再び左術さじゅつは不敵な笑みを浮かべている。こいつ、また碌でもないことを考えているな……。

「だって、先輩、シャベルで戦ったじゃないっすか!!」

「いや、あれはたまたまで──」

「なら、倒せるんじゃないっすか!?」

 左術さじゅつは右握りこぶしを作り、俺に熱弁する。

「いや、無茶だろ」


「サメの攻略法……、あるっすよ」

 更に左術さじゅつは笑みを深める。うーん、胡散臭い。

「えーっと、念のために聞いとくわ……」

「まず一つ!」

 左術さじゅつは自信満々な表情で右人差し指を立てる。

いにしえから伝わる最古の手法、それは爆発っす!」

「……、あ、うん、もう既に言ってる意味の8割が分からん」

 俺は既に聞いたことを後悔していた。

「酸素ボンベ暴発っすよ!」

「"最古"で"酸素ボンベ"なのか?」

 左術さじゅつは頷きつつ「常識っす」と付け加える。それはいったいどこの常識なんだ?


「その次に歴史があるのは"感電"っすね」

 右中指を立て、2つ目を示しながら左術さじゅつが続ける。

「"歴史"の部分はよくわからんが、感電ってのはイメージできないこともないか……」

「海底の送電ケーブルに噛みつかせるんっす!」

「ソレ限定なのか……? というか狙いがニッチすぎないか?」

 もうこれ以上聞いても仕方ないんじゃなかろうか……。それを実現するとしたら、送電ケーブルが海底に埋設されているゲームを探すのか? そんなゲームあるか?


「でもたぶん一番確実なのが……」

「確実なのが?」

「チェーンソーっす!!」

「え?」



「だからチェーンソーっす!!」

 ついに10割理解できなかった俺が聞き返したところ、左術さじゅつは更に熱烈に「チェーンソー!!」を繰り返した。なぜサメでチェーンソーなのか。1ミリも理解できない。




【MMOAWロールプレイングゲーム「帝国浪漫エピックAW」】


「ってことで! ここ"帝国浪漫エピックAW"っす」

「俺どうかしてた。左術さじゅつに引きずられてここまで来てしまった。今からでも遅くない、帰ろうかな」

 左術さじゅつに連れられ、再び例のAWカフェを訪れ、あれよあれよという間に、この「帝国浪漫エピックAW」とやらにログインしていた。

「ここはレトロゲーで人気のあった"エピックシリーズ"ってゲームシリーズのAW版なんすけど、剣と魔法のファンタジー世界なんで、爆発魔法も雷魔法もあり、なにより……、チェーンソーがあります!!」

「剣と魔法のファンタジー世界、なんだよな……?」

「そうっすよ」

「なんでチェーンソーがあるんだ?」

「神をバラバラにするのはチェーンソーっすよ?」

 OK、もう理解するのは諦めたほうが良さそうだ……。


「とりあえず時間もないんで、これからパワーレベリングするっす!」

「パワーレベリング?」

 聞きなれない言葉に、俺は左術さじゅつに聞き返す。

「最低限、大剣の"パリィング"と最強技の"明鏡止水剣"を閃いてもらうっす」

「うん、もうわからんから任せる」

 そうだった、よく考えたら聞きなれない言葉だらけだった。むしろ理解できている内容のほうが少ないなら、気にしても仕方ない。言う通りにしておこう。


「先輩はこれ使ってくださいっす」

 予想はしていたが、やはり、というか左術さじゅつが取り出したのはチェーンソーだった。とりあえず言われた通りに"装備"してみる。チェーンソーの説明書きには"大剣"と記載されている。

「チェーンソーって、剣なのか……?」

「大剣のカテゴリっす」

「……」

 気にしたらだめだ。

「さぁ、これで技閃いてもらいますっすよ!!」




 左術さじゅつの指示通り、あっちへこっちへと連れまわされ、3時間ほど敵モンスターとやらと戦い、"パリィング"と"明鏡止水剣"とやらを閃くことができたらしい。"明鏡止水剣"は割とアッサリ閃いたのだが、左術さじゅつは「ビギナーズラック怖い」と言っていた。普通は難しいのかね……?

 というか、本当にこんなことしてていいのか? ただ遊んでるだけでは……? と、不安になっていたところで、左術さじゅつに連れられて巨大な湖にやってきた。


「このゲームで最大の水辺は、たぶんここっす、メイリンガ湖っす……、あ、湖じゃサメ来ないっすかね……?」

「いや、プールで襲われてる被害者もいる。大丈夫だろ……、っていうか、調書読めよ!!」

「あ、はは、あ、あの小舟っす、あれで湖に出るっすよ!!」

 マズイ話の展開になったためか、左術さじゅつは露骨に話を逸らしつつ、小舟へと駆けていく。もうここまで来たら俺も腹を括り、左術さじゅつを追って小舟に乗りこんだ。



「俺がわざと負傷するっす」

 湖の中央付近。そこまで来た段階で左術さじゅつが言う。

「だ、大丈夫か?」

「まぁ、俺の方がHPは圧倒的に高いっすし、俺後衛っすから。先輩前衛よろしくお願いするっす」

「あ、ああ……」

 あの"サメ"にやられたら、ゲーム上の耐久性とか関係なさそうではあるが、とりあえず言わないでおく。


 更に小舟でうろうろしていると、敵モンスターとエンカウントした。恐ろしく巨大な金魚とシュモクザメっぽい敵だ。

「あのサメは違うよな……?」

「あれはこのゲーム正規の敵っす」


 とりあえずややこしいので、シュモクザメっぽい敵は倒し、ヤツをおびき寄せるために巨大金魚の攻撃を左術さじゅつが敢えて受ける。


「一応痛いっす」

 AWゲームでは、他の感覚同様に"痛み"も再現している。ただし、"痛み"の強度はかなり弱いが。

 このゲーム「帝国浪漫エピックAW」では、戦闘が終わると負傷が回復してしまう。そのため、負傷してヤツをおびき寄せるためには、戦闘を終わらせることができない。巨大金魚の攻撃をパリィングでいなしつつ、ヤツが来るのを待つ。

 左術さじゅつは負傷した左腕を湖面に着け、プラプラと水中を揺すっている。


「意外と来ないな……、まさか条件違ったか……?」

「えぇー、先輩、それ今更──」

 倒したはずのシュモクザメの死体が動いている……?

「ヤツだ!!」

 シュモクザメの死体を弾き飛ばし、その下から唐突にヤツが出現した。

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