1.AWゲーム殺人

「1課の"剣崎けんざき まさる"だ」

「同じく"左術さじゅつ 法明のりあき"っす」

 現場入口に張られた黄色テープの前で、俺と後輩の左術さじゅつは手帳を見せながら名乗る。俺たちは相手の反応を待たず、テープを潜って中へ入った。



「うぇぇぇ……」

 左術さじゅつが現場の惨状を見て嫌そうな声を挙げる。男はリクライニングしているパソコンチェアに深く腰掛け、頭にはAWギアを装着している。そして、全身から夥しい量の血を流し、すでにその命は尽きている。


 俺たちは両手に白い手袋をはめながら、遺体に近づいていく。

 第一発見者は被害者の母親。朝食の時間になっても起きだしてこない息子の様子を見に来たところ、この惨状だったらしい。昨夜22時には家族とも会話していることから、死亡時刻は昨夜22時~今朝7時の間だ。

「窓は施錠され、室内に荒らされた形跡は無し……」

 家の玄関も夜は施錠していたらしい。となると一番の容疑者は家族になるが、第一発見者の母親はひどい取り乱し様だそうで、今もまともに話は聞けないようだ。それが演技だとしたら相当なものだ……。

 もしくは父親……、父親は幾分冷静らしいが、俺には"家族が犯人"という線がどうにもしっくりこない。


「AWゲーム中に全身裂傷でショック死……」

 AWギアをかぶったままの遺体を見ながら、俺は呟いた。

 AWギア。最近頻繁に聞くようになったAWゲームとやらをやるときに使う器具だ。目を隠さないヘルメットのような形状だ。AWゲームプレイ中は、これをかぶってリクライニングシートに掛け、まるで寝ているような状態になるらしい。俺はやったことないし、やっているところを見たこともないから伝聞だが……。


「ゲーム中の無防備な状態で刺された、とかっすかねぇ……」

 左術さじゅつも覗き込みながら俺の横で自身の意見を述べる。

「いや、妙だ……」

 俺は懐からボールペンを1本取り出し、遺体の首元、そのシャツを少し持ち上げる。

「衣服に損傷がないのに、体に傷がある。良く見えないが……、たぶんAWギアの中にも傷があるな」

 首元から頭、そしてギアの中を伺うように見ながら俺は呟く。

「それって、裸の状態で全身刺して殺害した後に、服を着せて、椅子に座らせて、ギアまでかぶせたってことっすか?」

「そりゃ無いだろ……」

 左術さじゅつもあり得ないって分かってて言ってるだろう……、そこまで言って左術さじゅつは嬉しそうに手を打つと、

「これはゲーム内殺人っすね! 間違いないっすよっ!!」

「お前は漫画の読み過ぎだ」

 AWゲームが世に出始めてどのくらいだったか、たぶん初めて聞いたのは5年以上前だと思うが……、ゲーム内で殺人などと、聞いたことも無い。そもそもゲーム内で殺されて、現実に死ぬのか?



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【AWシューティングゲーム「バトルワールド」】


 様々な火器を携帯し、ボディアーマーを装着した男たちが水場を走る。突然、銃声が響くとほぼ同時に先頭を走る男が頭部を仰け反らせて倒れる。

「敵だ!!」

 誰かの声が響くより早く、全員が近くにある岩場などに身を隠す。殺到する多数の銃撃は、それぞれの岩場を削る。


 一人の男が素早く頭を出し、銃撃の出所を探る。

「正面2個の岩場と、左崖の上だ! 掩護してくれ!」

 申し合わせたかのように、仲間たちが敵の潜む3か所へと銃撃を加え始める。と、同時に男は岩場から飛び出し──

「え?」

 目の前には闇、いや違う。大きく開いた咢とそこにびっしりと並ぶ狂暴さを体現したかのような歯。


 直後、男の意識はあっという間に刈り取られた。



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【side 剣崎】


「はぁ? 同時殺人ですか?」

「ああ、4件同時だ。他3人は一人暮らしだったために発見が遅れた。」

 現場から戻ってすぐ、上司である警察本部長の"本部もとべ 修治しゅうじ"に呼び出され、俺と左術さじゅつは彼のオフィスを訪れた。呼ばれた理由は「少々異常な事件だから、直接報告が聞きたいのか?」くらいに思っていたが、どうやらそんなレベルの話ではなかったらしい。

「どうして同時殺人だと?」

「手口が全く同じだ。そして4人が事件当時と思われる時間帯に、同じAWゲームで同じ場所に居たというのが分かっている」

 同じゲームで同じ場所に居た4人が、同じ手口で殺された? まさか本当にゲーム内殺人だっていうのか?


「それに、同様の事件はそれだけじゃない……。世界中だ、被害者は世界中で既に百人を超えている」

「なっ……」

 本部長の言葉に、俺は絶句するしかなかった。世界中で同時多発的に発生する異常殺人。これを実際に人間が行うなら、大規模な組織でもない限り不可能だ……、いや──


「まさか、犯人はナノボットで!?」

「確かに、事例はナノボット事件以来だ。だが、あれにしてもここまでの規模はなかったし、何よりどの被害者もナノボットを所有していない……」

 本部長の言葉に、俺も黙る。確かに、今日の被害者宅にはナノボットシステムは無かった……。

「ナノボット事件ってなんすか?」

 俺たちが深刻に話し合っている中、左術さじゅつが警察官としてあるまじき横槍を入れてくる。


「お前しらないのかよ……」

 ナノボットシステムという物がある。パソコンに取り付ける周辺機器で、ナノサイズのロボットを大量に操作し、製品試作などに使用する便利ツールだ。だが、便利故にそれを利用した殺人事件が発生した。遠隔で端末に侵入し、ナノボットを操作して殺人を行ったのだ。以来、ナノボットシステムの所持は免許制になり、ナノボットを用いるような装置には、厳しい制限が課せられるようになっている。

「へぇ、そうなんすね」

「お前、警察官なんだから、そのくらい知っておけよ……」



「とにかく、だ。本件は既に一国の警察でどうにかする事態ではなくなり、指揮は国際警察が行うこととなった。俺たちはその指示に従って動くだけだ」

「……」

 俺たちはただ、兵隊として動けばいい、っていうことか……。



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【MOAWサンドボックスゲーム「クラフティングワールド」】


 少しレトロなドット絵ゲーム。それをそのまま立体化したような見た目のキャラクターたちが歩いてくる。

「えー、俺サンダーブロック付けた剣にしてきちゃったけど」

 ブロック状の部品を寄せ集めて作ったような剣を取り出し、一人の男キャラクターが愚痴を述べる。

「完全に相手のフィールドなんだから、遠距離攻撃は必須だ」

 女キャラクターが窘めるように言う。いかにも女の子な見た目のキャラクターだが、口調は男っぽい。

「今からでもクラフトするか?」

 女キャラに問われ、男キャラは一瞬考え込むが──

「まあいいや、とりあえず行ってみるわ」

「あい」

 二人は連れ立って、水の中へと入っていく。


「いいか、いくぞ」

 女キャラが問うと、男キャラが頷く。それを確認した上で、女キャラが虚空から何かを取り出す。どうやらメダルのようだ。それを片手で高々と掲げると、メダルは一瞬光って消える。

「ぐうぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 どこからか低いうなり声が響き、直後、水中の底、その一部が持ち上がり多数のタコの触手が出現する。そのサイズは巨大で、キャラクターの大きさを大幅に上回る。


 女キャラは、杖のような物から紫電を迸らせながら、水の中をふわりふわりとジャンプ移動する。

「ぐへぁ」

 触手の叩きつけ攻撃が男キャラに命中する。

「だから言ったのに!!」

 その様を見て、女キャラが文句を言う。


「肉を切らせて骨を断つんだって!!」

「あいつ骨ないでしょうに……」

 男キャラもまだ減らず口を叩く程度の元気はあるらしい。そんな男キャラは回復剤を摂取しつつ、触手に殴られては斬るを繰り返す。


「あれ?」

 タコ型のボスモンスターと戦闘中、ゆらりとサメが接近してくる。

「このフィールドって、サメなんか出たっけか?」

「いや、居ないはずだけど……」



 それが彼らの最後の会話となった。




参考情報:AWゲーム一覧


AWゲームは、体験をまるで現実のように感じ取れるため、全体として生活シミュレーションの体になっていることが多い。

さらにリアリティを演出するために、多少の"痛み"が実装されていたり、長時間プレイを避けるために敢えて"疲れ"を演出する

場合も多い。

"痛み"については規制されており、軽くつねられた程度の軽い痛みのみ、実装が許可されている。


●リアルバケーション

【ジャンル:MMOAWシミュレーションゲーム】

 MMOのAWゲーム。作りとしては生活シミュレーションゲーム。毎日のログインボーナスかミニゲーム、もしくは課金でコインを貯め、そのコインでゲーム内のアイテムを購入する。

 ゲーム内アイテムは主にリゾート関連で、海でマリンスポーツや山でウインタースポーツなどを楽しめる。

 コイン無しでも各種リゾートを楽しむことはできるが、コインがあれば豪華なバーベキューができたり、高級リゾートホテルを利用できたりする。

 MMOであるため、中の世界には全プレイヤーが存在していることになるが、コインで借りるプライベートビーチや、高級ホテルなどは、招待プレイヤー以外はアクセス不能にすることも可能。

 (不正MODをあてることで性行為も可能。ベンダーは肯定もしないが摘発もしていない。おそらくは元々内部的に仕込まれた機能であったと考えられる。当然だが、不特定多数のプレイヤーから見える"公共"の場においてそのような行為を行った場合にはベンダーからの摘発対象となる)

 ゲーム内のエッセンスの一つとして戦闘行為も可能だが、あくまでもエッセンス。死亡というステータスは存在せず、その勝敗にペナルティーもボーナスも無い。


●金色の空

【ジャンル:AW恋愛シミュレーションゲーム】

 シングルプレイの恋愛シミュレーションAWゲーム。プレイヤーの性別や容姿は自由に設定可能。複数の攻略対象の中から、ゲーム開始時に1人を選び、その攻略対象との日常を体験できる。

 攻略対象も性別、容姿、性格が様々なキャラクターが要るため、普通に異性間恋愛だけでなくBL、GLを趣向としたプレイヤーにも好評。

 自身の性別も自由に設定できるため、異性への性転換願望を持つプレイヤーが、単純に別性別での生活を送りたい、という目的でもプレイしている。


●クラフティングワールド

【ジャンル:MOAWサンドボックスゲーム】

 クラフティングMOAWRPG。リアリティを捨て、敢えて細かいブロックを積み上げたような風景になっているAWゲーム。採掘したり、敵から入手したアイテムから様々な合成アイテムを作成できる。

 まるでおもちゃのブロックのように手持ちのアイテムから建物、果ては地形までも変化させることができる。

 巨大建造物の制作に没頭するもよし、数多くのボスモンスター攻略を目指すもよし、自分だけのオリジナル武器を作り出すもよし、いろいろな遊び方ができる。現実の街を完全再現した猛者もいる。


●バトルワールド

【ジャンル:AWシューティングゲーム】

 AWシューティングゲーム。レトロゲームでのFPSの流れを汲むゲーム。マッチングしたチーム同士での銃撃戦を行い、勝敗を決めるゲーム。つくりはシンプルで、他のAWゲームのような生活シミュレーション的な要素は皆無。"痛み"も規制ギリギリまで実装されており、戦場の過酷さが強く意識される作りとなっている。

 AW化したことにより、視覚による距離感が取りやすくなったことや触覚が実装されたことで"格闘"の比重が増えた。ナイフ1本での暗殺プレイや、格闘縛りのマッチングなども行われている。


●帝国浪漫エピックAW

【ジャンル:MMOAWロールプレイングゲーム】

 AWRPG。レトロゲームでファンの多かったエピックシリーズをモチーフとしたMMORPG。

 いわゆる冒険もののゲームのように、プレイヤーや仲間キャラクターを育てて戦闘することもできるし、自身が皇帝となって、帝国の版図を広げたり、商会を立ち上げ買収合戦を仕掛けたり、といった様々な楽しみ方ができる。

 剣あり、魔法あり、チェーンソーありのゲーム。


●ゾンビパニックAW

【ジャンル:MOAWアクションアドベンチャーゲーム】

 様々なシチュエーションでゾンビパニックを体験できるAWゲーム。ただ脱出するもよし、ゾンビを撃退するもよし、様々な攻略方法を選択できる。"洋館ステージ"や"地下要塞ステージ"など、単純に脱出ギミックの凝った"脱出ゲーム"としても楽しめる。

 ランダムマッチでの少数プレイヤーでの共同攻略も可能。肝試し的な楽しみ方もあるとかないとか。

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