第8話 危機一髪
▽
ー翌日。
俺とゼノンは「喫茶店グラン」にいた。
宮下加恋のバイト帰りを見張るためだ。
あっ、もちろん、許可は主人を通してもらっている。
許可なしは流石にアウトだからな。
・・・・のはずだったが。
「宮下くんがこんなに遅れたことなかったです。
何かあったんじゃ・・・。」
「落ち着いてください。まだ20分です。」
「でも・・・」
そう。
バイトの時間になってもまだ宮下加恋が来ていないのだ。
「こんな事なかったのに」とオロオロとうろたえる主人と、それをなだめるゼノン。
「どうする、ゼノン?」
「・・・・・。」
「おい!」
「少し黙れ!今考えてる。」
予測外のことにゼノンもうろたえている。
意外にも。
「・・・・、待機だ。だがーー。」
「はぁ!?
なんで?今のは探しに行く流れだっただろ?」
「おい、だからーー。」
「確かにまだ20分くらいかもしれないけど、可能性はあるーー。」
「最後まで聞け!」
ゼノンに遮られた俺は「へ?」と言っていた。
マヌケな顔だったに違いない。
「誰が『二人とも』待機と言った?」
・・・ん?
「お前は行け。俺はここにいる。」
んん?
「・・・・ややこしんじゃああああ!!!」
俺が怒鳴ると、顔に青筋が浮き出ていたゼノンは笑みを引きつらせながら、
ドン!と机を叩いた。
「おめえが人の話ぃ、聞かねぇからじゃねぇかあああああ!!!」
はい、すみません・・・・。
▽
ー宮下 vision ー
知らない天井だ・・・・。
じゃなかった。
ここどこ?
私、バイト行ってたよね?
周りはカビが生えた棚や、高く積み上げられた段ボール箱があった。
どうやら倉庫のようだ。
人気はない。
ズキンと首の後ろに痛みが走る。
触ると、血は出ていないようだった。
「あれ、もう起きたんだ。」
その男の声で、加恋の頭は急激に醒めていく。
聞いたことのある声。
今、一番会っちゃいけない人の声。
・・・黒沢だった。
左手には加恋のカバン、
右手にはロープが握られていた。
「・・・・ッ!」
逃げなきゃ。
本能が、
体が
理性が
宮下加恋の全てが、叫んだ。
「おいおい、どこ行くんだよ?」
加恋は震える足を必死に動かした。
後ろから、黒沢がゆっくり歩いてくる。
不規則に置かれていた棚はまるで迷路のようだ。
加恋はその一つに隠れて、身をひそめる。
「出てきなよ。」
黒沢は隠れた加恋をゆっくり探していた。
逃げられない自信があるように。
加恋は恐怖で荒くなった息を両手で抑える。
「出て来いって・・・・言ってんだろ!」
ヒステリックに怒った黒沢は、近くの段ボール箱を思っ切り蹴る。
加恋はビクッと体が震えた。
怖い、怖い、怖い・・・、怖い
さらに荒くなる息。
そうだ、携帯。とポケットを探るが、携帯はなかった。
カバンに入っていることに気づいたが、肝心のカバンは黒沢の手元にあった。
「僕はね。アトマーに目覚めてから、なんでもできる気になったんだ。何やっても良い気がしたんだ。
でもね、君のせいで・・・君のせいで・・・。」
何を言ってるんだろう?
加恋がそう思った瞬間。
自分が隠れていた棚が倒された。
「見ーつけた。」
そこには歪んだ笑みを浮かべた、黒沢がいた。
逃げようと走ろうとした時、
・・・つまずいた。
黒沢はその瞬間を見逃さなかった。
素早くロープで加恋の首を、後ろから締めた。
「ゆ、許して・・・」
加恋がやっとの思いで出せた声は、震えていた。
「う、うるさいぃ!お前のせいだ!お前のせいだ!」
ロープに指をかけて必死に抵抗するが、
男の黒沢の方が筋力があった。
さらに黒沢は力を加える。
視界が点滅する中、加恋は思っていた。
助けて、助けてお母さん。お母さん。
助けて。助けて。助けて。誰、か・・・・ッ!
・・・・助け、て。
刹那。
ドォォォォン!とものすごい音が聞こえた。
刹那。
後ろから「ヘブッゥ!!」という声が聞こえた。
刹那。
後ろから黒沢の気配が消えたのを感じた。
ロープから解放され、座りこむ加恋。
意識が遠のく中、その目に移ったのは、
「
・・・・、ぶん殴った。」
・・・・・、クロイツだった。
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