第3話 ネームド



ついに昨日、俺たちがネームドになった。

てっきり、ミットにはまた小言を言われるとも持ったが、

素直に称賛してくれた。

…、というか慰められた?




―昨日。

「GIO」本部の一室。集会に使われる、大広間にて。

 「これより、コードネーム「ゼノン」、同じく「クロイツ」の両者のネームドへの昇進式を始める。二人は前に。」


俺たちに昇進報告をしたメガネの男がそう言い、俺とゼノンは、前に出た。

緊張で俺の足はガタガタだ。

すると、俺たちの前にボス(ケイン)が来て、大きな声で話し始めた。


 「コードネーム「ゼノン」、「クロイツ」。あなた方は「GIO」及び、日本国…(以下略。よって、コードネーム「ゼノン」にランキング21位への昇進と、「法師ほうし」の称号を与える。」


えっ? ゼノンが、21位? ってことは…。


 「同じくコードネーム「クロイツ」にランキング22位への昇進と、」


くそ~。

俺がゼノンより下かよ。

まあ確かにあっちの方が活躍してたかもしんないけどよ~。


 「「愚者ぐしゃ」の称号を与える。」


‥‥、(。´・ω・)ん?

ぐしゃ?

ぐしゃってなんだ?

効果音か?

つぶれた!みたいな…


横に視線を向けると、ゼノンが笑いをこらえていた。


‥‥‥、おいまさか。

ぐしゃって

愚者!?




と、いうわけでその後、会った人は例外なく、祝福と‥‥

まあ、慰めを俺にくれた。


本当にやめてほしい


まあ、それは置いといて。

今、俺たちは「GIO」本部にいる。

なぜかって言うと、会合があるからだ。


それも、ネームドどうしの。


ミットによると…。

 「ああ、大丈夫ですよ。ただの顔合わせです、今回は。

まあ、でも気を抜かないでくださいね。絶対に。」

だと。

絶対に気を抜くなって何?

めっちゃ怖いんだけど。


ロビーで待たされて、案内に来たのは

‥‥川田さんだった。


「よお。元気か。」


この人、もしかして忘れてたりしないよな?

ゼノンはどうかわかんないけど、俺はまだ怒ってますヨ。

‥‥と、心の中にとどめた。


「ええ、おかげさまで。」

あっ、ゼノンとハモった。


「そうかい。…。ああ、昇進おめでとう。」

と、川田さんは俺たちに紙袋を渡してきた。

中にワインが入っていた。


ワインとか、何が何なのかわからないが、白赤の区別はつく。

赤ワインだ。


ゼノンは「ありがとうございます。」と言って、紙袋を受け取ると、

「じゃあ、行くか。」と川田さんはすたすたと歩いていく。



実は、川田さんはこの「GIO」の幹部だ。

強そうでもなく態度も悪い、という外見はあながち間違っていない。

川田さんは異能を使えないアトマーだ。


いや、異能を使えないのでなく、戦闘の役に立たない異能である。

健康アンチ・イル』という異能で、絶対に病気にならないらしい。


だから、川田さんは戦闘ではなく、

人事や、経費管理などの事務で幹部まで上り詰めたという。

意外とすごい人だ。




「着いたぞ、ここだ。」

川田さんは襖のある部屋を指さした。

俺は、川田さんの指さす、襖を開けようとした。


‥‥ゾクッ。

何だ、この部屋。


異様な緊張が走る。


この空気を、俺は知っている。

犯罪アトマーと対峙するときに感じる、雰囲気。


殺気だ。


しかし、犯罪アトマーなんかとは、次元が違う。

何倍にも濃い。

‥‥、襖を、開けられない。


指が震える。

殺気に押しつぶされる。

これは、やばい。


グダグダしている俺を払いのけて、ゼノンは襖を開けた。



薄暗い畳の部屋に、座っていた者たちが、こちらを見ていた。

殺気を発しながら。


ゼノンはまったく気にしない様子で、

 「「法師」のゼノンだ。よろしく。先輩方。」

と言い、空いている座布団に座った。


すると、座っていた一人が笑った。

 「今回の新入りは、肝が据わってるなあ‥。」


笑っていた。

笑っていたが…‥。


「‥‥、お前ら。あんまいじめんな。」

川田さんが仲介に入った。

「ネームド」を「お前ら」呼ばわりって、

やっぱり川田さんは偉いのかー。

なんか、癪だ。


「いじめてませんよぉ。」

女の人が弁解した。

へえ、女の人もいるんだ。


 「あれぐらい、殺気を発してたら、いやでも気づく。」

 「ちょっと、からかっただけですよぉ。」

 「お前らのからかいは、次元が違う。」


相変わらず、川田さんは饒舌だ。

相手が、ネームドだろうが、ひるまず抑えていくのは、すごいと思う。


 「そちらさんは、噂の「愚者」クンかな?」

一人が、俺の方を見て聞いた。


「愚者」って、やっぱりヤだな。

まあ、俺の二つ名だし…。

ほんとのことだし…。


「はい。『愚者』のクロイツです。よろしくお願いします。」

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