第6話 神様がHELP?

 お金のことで神様たちに手痛い罰をもらってしまって以降、今までのお金の使い方をすっかり改めた。

 もちろん、神様のことは伏せたけど佐々木くんにもお金の事情を改めて話をして、お互いに無理のないように付き合っていこうということでまとまった。

 会社の給料も3カ月ばかり10%カットが続いたけど、資金繰りに見通しが立ったのかどうなのか、10%カットも元に戻った。

 これももしかしたらイチキシマヒメさんのご利益のおかげだったのかも知れない。

 そんなこんなでドタバタしていたけど、ようやく一息つけたみたいだ。


 ある夜。

 夢を見た。

 お金の問題があったときのように怒り顔の神様たちじゃなくて、あたしの知っている温和で陽気な神様たちが現れた。

「主よ、元気でやっておるようじゃの」

「はい、神様たちにはいろいろお世話になって、ご迷惑をかけて何と言ったらいいか……」

「いいのじゃいいのじゃ。過ぎたことを言っても仕方がない」

「ありがとうございます」

「での? ちょっと主に話があるんじゃが、明日の夜にでも一番最初に来た例の場所に来てはもらえぬかの?」

「え? あの廃屋ですか? 別に大丈夫ですけど」

「うむ、助かる。日が落ちていれば何時に来ても構わん。ちょっと顔を出してくれぬか」

「わかりました。じゃ、仕事が終わってからお邪魔するようにしますね」

「頼んだぞ」

 ハッ。

 目が覚めた。

 時計を見ると午前3時を回ったところ。まだまだ寝ていられる時間だ。

 今度は神様たちも陽気で、どこも怖いところはなかったけど、あたしに一体何の用事があるんだろう。

 あたしが神様たちにできることなんてほとんどないも同然なんだけど……。

 ちょっと気にはなったけど、翌日の仕事に響くと思ってひとまず寝直した。


 翌日。

 いつもの通りに起きて、いつもの通りに身支度をして出勤し、特に変わったこともなくちょっと残業はしたけれど無事に仕事を終えることができた。

 美保から夕食兼飲みのお誘いを受けたけど、神様のところへ行かなくちゃいけなかったので、今日は丁重にお断りしておいた。埋め合わせどっかでしなくちゃなぁ……。

 会社から例の廃屋までそこそこ距離がある。少なくとも歩ける距離ではないし、かと言ってあたしは車を持っているわけでもないので、タクシーを拾って向かうことにした。

 目的地を告げるとタクシーの運転手も

「? だいたい場所はわかりますけど、女性一人でそんなところに行って大丈夫ですか?」

「あ、はい。行った先で友達も待ってるので大丈夫です」

「肝試しとかそういうの。ほどほどにしておいた方がいいですよ、お客さん」

「えへ。そうですね」

 廃屋の場所を他人に知られるとまた厄介なことになりそうだったので、適当に距離のあるところまで乗せてもらって、そこから歩いていった。

 あの肝試しから何ヶ月か経ってるけど、やっぱり灯りらしいものもないし不気味なのは相変わらずだなぁ……。

 そんなことを思いながら、廃屋の方へ歩いていくとあの時と同じように廃屋に灯りが点いていて、何やら陽気な声が聞こえる。

 今日は神様たちの宴会の日だったのかな?

 引き戸の前まで来て、軽くノックした。

「雨宮香菜です。遅くなりましたけど着きました」

 すると引き戸が開いて

「おお、主か。待っておったぞ。さぁ入って入って」

「じゃ、お邪魔します……」

 中に入ると車座になって座っている神様たちがあの日と同じように15、6人いや15、6柱いらっしゃった。

 中に入れて席を作ってくれたのはいつものオオクニヌシノミコトさん。

 あの時と同じように、一番上座にアマテラスオオミカミさんが座っている。

「まぁ、とりあえず一杯」

「あ、はい。ありがとうございます」

 あの時のお酒だ……ん〜やっぱり美味しい!

「やっぱり美味しいです、このお酒」

「まぁ、ワシらが飲む酒じゃからの。人間が普段口にしているものとは違うじゃろう。そういえば、飯はもう食べたか?」

「まだです。神様のお呼び立てだったし、急いで来たので」

「そうかそうか。その辺にあるものを適当につまんで食べるがいい」

「ありがとうございます」

 あの時は全然気がつかなかったけど、美味しそうなお刺身や何かの穀物を炊いたもの、お餅みたいなもの、野菜を煮たようなものなどなど、いろんな料理が用意されていた。

 じゃ、遠慮なく、と思ってお刺身に手を付ける。

 ん〜、これも美味しい! 人間界の刺身と違うのかしら?

「美味しいです! こんなの初めて食べました」

「そうか、喜んでもらって何よりじゃ。さ、もう一杯」

 杯にお酒を注いでもらって、一口。いくらでも飲めそうなお酒。

 でも、今日はあの日みたいに酔っ払ってしまうわけにはいかない。

 神様たちも用があってあたしをここに呼んだんだから。

「で、オオクニヌシさん。あたしを呼んだのは何かご用があるんですよね?」

「おお、そうじゃったな。それを聞かないことには安心して酔ってもいられないだろうからな。アマテラス、ちょっと話をしてくれぬか」

「わらわか? まぁ良いか」

 アマテラスオオミカミさんの方に向き直す。

「実はな、主に来てもらったのはワシらの代わりに人間界でやって欲しいことがあるんじゃ」

「神様が? あたしに? あたしにできることなんでしょうか?」

「まぁ、普通の人間なら誰にでもできることじゃ。ただ、なかなか縁を結ぶことができなくての。これは主に頼むと良かろうと皆で決めたのじゃ」

「はぁ……。一体何でしょうか?」

「主に頼みたいのは掃除なんじゃよ」

「掃除?」

「そう、掃除じゃ。ワシらが祀られているような大きな神社は参拝に来る人間も多く、神社を守ってくれる人間も多い。じゃから、いつでもキレイな状態を保っていられるのじゃ。ワシらもそれで気分良く人間のお願いを聞くこともできるし、神社の周りの土地も護ることができる」

「わかります」

「じゃがな、同じようにワシらを祀ってある神社でも小さな神社がいくらもある。そういったどころは、人間も少なくて時に手入れが滞っている場所も少なくない。主の住んでいる場所の近くに神社はないか?」

「そういえば歩いて5分くらいのところに神社があります。名前までちょっと覚えてないですけど」

「ちょっと待っておれ……ああ、八幡神社じゃな。見た感じ、そこそこの大きさがあるので手入れも行き届いているようじゃ」

「そうなんですか。明日にでも行ってみることにします」

「それがええ。そこは主の住んでいる地域の『氏神』と呼ばれる神が祀られておる。まぁ、ここにいる神の分身みたいなものじゃがな」

「なるほど。で、あたしに掃除をさせたい場所はどこになるんでしょう?」

「主は開けたところに住んでおるので、あまり知らんかも知れぬが、ちょっと山の奥に入ったり、人が少ない田舎に行ったりすると辛うじて神社の体をなしている、というような神社がたくさんある。それを全部とは言わぬがいくらかでもええから掃除して居心地の良い場所にして欲しいのじゃ」

「わかりました。大変そうですけど、お引き受けします。でも、そういう神社ってどう当たりを付けて行けばいいんでしょう?」

「そうじゃな、それは確かにあるのぉ……2日ほど待ってもらえぬか。主にわかるように何かの形で行って欲しい神社の名前を挙げて送るようにしよう」

「わかりました。あたしでどこまでできるかわかりませんが、やれる限りのことはやります」

「うむ。助かるぞ。何百、何千という数ではない。特に目に余るところだけ10社やそこらじゃ」

「そうしてもらえると助かります。あたし一人の力でできることは限られてるので」

「わかっておる。と、用事はここまでじゃ。主の力を借りることができるのはめでたい。さぁ、一杯やろう」

 と一声かけると神様たちも大盛り上がり。

 前回みたいに酔っ払って暴言を吐くようなことはしなかったけど、美味しいお酒と料理を十分楽しませてもらって、ちゃんと意識のある状態で部屋に送ってもらうことができた。

 神様からお願いされるなんて……光栄だけど、あたしで大丈夫なんだろうか?


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