第5話 手痛い天罰

 神様と邂逅してつながることができて以来、あたしの周りはいいことずくめだ。

 会社へ行ってもイヤな思いをすることなく、気持ちよく働いて1日心地よい疲れで帰ってこられる。つい1カ月くらい前までは、会社へ行くことを考えるだけでもうんざりしていたのに雲泥の差だ。

 人間関係も良くなった。

 今にしてみれば、「なんであんな男と付き合ってたんだろう」っていうようなチャラい恵一とすっぱり別れることができて、誠実な佐々木くんが側にいてくれる。

 友達関係もガラッと変わったし、会社でも上司が変わって上手く回るようになった。

 どれもこれも神様のおかげ。

 本当にありがたいことだと思う。


 そんなあたしだけど、ひとつ頭を悩ませているのがお金。

 決して給料が安いわけではないんだけど、佐々木くんとのお付き合いが始まって、今まで適当にしていたファッションにも気を遣うようになったので、ちょっと出費が嵩んでいる。

 それに加えて、今住んでいる部屋の更新があってお金がドカッと出ていくのもあり、さらに更新分から家賃が5000円値上げになった。

 もっと安いところに引っ越すことも考えたけど、それに先立つお金がない。

 それに、5000円上がってもそれに見合うだけの立地条件だったりする。適度に静かで、駅まで徒歩10分。ちょっと足を伸ばせばターミナル駅にも近いし、部屋の近所に商店街やスーパーがあることで、買い物にも困らない。

 そんなこんなで気がつくと、毎月残金3000円とか5000円とかギリギリしのいでいるような状態。

 ローンもちょっとあるので、その支払いにも苦労してる。

 どうしよう……。このままじゃ、ちょっとやりくり厳しいな……。

 カードローンでお金を借りて、先に払えるものは全部払って支払いを1本にまとめようか……。

 なんてことも考えたり。

 でも、それが一番現実的な方法だと思って、銀行系列のカードローンを申し込んだ。

 もちろん、今まで借金なんてしたことないから、審査は簡単に通ってスムーズにカードも発行された。

 で、とりあえず目先でまとめるべきお金として50万円ほど借りて、ローンを全部精算してみた。

「はぁ……あたしもついに借金しないといけなくなっちゃったかぁ……。でも、返済はまとめられるから、今までよりは楽になりそうだし……」

 なんて、独りごちてトボトボ部屋に戻った。


 その夜、夢を見た。

 久しぶりに見る神様たちの夢。

 ただ、最初に会ったときはあんなに温和で、優しく明るい笑顔だったのが、みんなして怒りの表情を浮かべている。

「お主、何をしておるんじゃ! 今まで困っていなさそうだったし、1人でやっていかれると思って見ていたらあんなことをしよって! 自分でもわかるじゃろう? ワシらはさすがに黙って見ておれん。良いか、覚悟をするんじゃぞ」

 ハッ。

 目が覚めた。

 神様たちのあんなに怖い、怒ってる顔初めて見た……。

「覚悟をしろ」ってどういうことなんだろう……。

 あたし、神様たちを怒らせるようなことしたのかしら……。


 翌日。

 会社に出勤すると、何やら人だかりができていた。

 何となくイヤな予感がして、そこに入っていこうとしたら同僚の美保がやってきた。

「香菜、おはよう。大変よ! 給料が来月から10%減額になるんだって!」

「えっ! ホント!」

 人だかりに入っていくと通知が貼り紙されていた。

 それによると、会社の業績が悪化しているらしく、それでも雇用を守りたいということで、給料の減額で当面乗り切りたいということだった。

 どうしよう……。今までだってカツカツでやってたのに10%も下げられたら生活できなくなっちゃうよ……。

 貼り紙の文面を見て途方に暮れていると

「主よ」

「あ、神様。大変なんです、給料が減額されることになって」

「主のことはワシら全員気に入っておるからのぉ。話し合ったところで、一番軽い罰を与えたのじゃ。わかるか?」

「罰? あたし、神様に怒られるようなことしちゃったんですか?」

「なんだ、これで主も何をしたのかわかると思ったのじゃが、まだまだだったようじゃの。もうちょっと重いのを与えておくとするか。主もよく考えておくのじゃぞ」

「ちょ、ちょっと、神様! 神様!」

 声は聞こえなくなってしまった。

 どうやらあたしは夢の通りに神様を怒らせるようなことをしてしまったらしい。それが何なのか見当もつかないんだけど……。


 その日、部屋に帰ってくると2通のはがきが。

 1通は電力会社から、もう1通はガス会社からだった。

 イヤな予感がして、それぞれ開いてみると先月分の使用料がそれぞれ未払いになっていたという。

 確かに金額きっちりで銀行に入れたはずなんだけど……。

 通帳を確認すると、携帯の使用料がすごいことになっていた。そこで、ごっそり引き落とされて足りなくなっていたようだ。

 佐々木くんと電話を使って話をしていたんだけど、それが嵩みに嵩んで料金が跳ね上がったようだ。

 口座の残金は2000円ちょっと。

「どうしよう……。もう払うアテがないよ……」

「主よ」

「あ、神様!」

「これでわかったか?」

「あたし、神様たちにこんなに怒られるようなことしたんですね……何が悪かったんですか?」

「金じゃよ、金。自分の持ち分でやりくりする努力もせずに、借金するとは何事じゃ」

「あっ……」

「しかも、自分のためだけに金を遣って自分で勝手に苦しくなっておる。ダメじゃろうに」

「……ごめんなさい。悪気はなくって……その……」

「もう言い訳はええ。これでわかったか?」

「はい、わかりました……本当にごめんなさい」

「うむ、わかれば良い。さすがにこのままでは主の生活も成り立たなくなるじゃろうからの。ワシらで手を打ってやろう。しばしかかるが、その間は最低限借金をして、それでやりすごせ。良いな」

「はい、神様……」

 借金が悪かったんだ……確かに、佐々木くんと自分が楽しむためだけに勝手にお金を遣いまくって足りなくなってたんだもんな……そりゃそんなことで借金すれば神様も怒るよね……。

 ひとまず、電気代とガス代を払わないといけないし、生活費も底をついている。

 支払いの分とプラスαで再び借金をした。給料日までは何とかしのげるはず……。


 1週間後。

 待望の給料日が来た。

 確かに10%カットされていて、支払いを考えるとしんどいのがよく分かった。でも、神様も待てと言っているんだから、ここはつましくある分だけで生活しないと。

 佐々木くんにもお金の話はしておいた。

 ちょっとびっくりしてたみたいだけど、自分のことみたいに反省してくれた。なんていい人なんだろう。自分の彼氏ながら惚れ直してしまった。

 そんなこんなで、仕事を終えてもよりの駅にたどり着いた。

 今日は晩ご飯もつましくしなくちゃ、と思っていたら

「主よ。宝くじを買うのじゃ。1枚でいい」

「えっ?」

 確かに前からある小さな宝くじの売り場が駅にある。

 まぁ、300円の出費だし、神様の言うことだから……と思って、何も考えずにジャンボ宝くじを1枚だけ買った。

「それで良い。あとは任せておくのじゃ」


 1ヶ月後。

 宝くじを買ったことすらすっかり忘れていたあたしは、宝くじ売り場をフッと見て3等の当たりが出たと貼り紙がされているのを見て「そういえば……」と思い出した。

 部屋に帰って宝くじを探し、当選番号を見てみると……3等の当たりくじだった!

「主よ。このくらいあれば身ぎれいにしてやり直せるじゃろう?」

「はい! ありがとうございます! えっと神様は……?」

「イチキシマヒメじゃ。弁天と言えばわかるじゃろう?」

「弁天さま! じゃ、本当にお金のご利益をくださったんですね!」

「まぁ、オオクニヌシの言うことじゃからの。貸しを作ってやったわい」

「ありがとうございます! 本当に助かりました。もう二度と同じことはしません」

「そうじゃの。主もそれがわかればいいんじゃ。また会うこともあるじゃろう。それまで達者でな」

 そう言って神様は去っていったみたいだ。

 さすがにこれでお金のことはもう懲りた。

 とりあえず、当選金で借金を全部返済し、すこしの貯蓄もできた。

 でも、前みたいにお金に困るような浪費はもうしないと誓った。

 神様の天罰が怖いから……。

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