第15話 「あ…」
〇神 千里
「あ…」
「知花…」
「……っ…」
…なんつーか…
朝霧が知花を呼び出してくれて以降…
…知花が…
可愛い。
いや、今までも可愛かったんだが…
「千里…」
めちゃくちゃ…可愛い。
「…もっと…」
「…もっとだ…?おまえ…俺がいくつか知ってんのか?」
「は…あっ…」
…くそっ!!
そんな声出されたら!!
頑張っちまうだろーがー!!
つーか…
知花が『もっと』なんて…
何年ぶりだ!?
朝霧!!
何を言ってくれた!?
「はー………」
クタクタな状態で仰向けになると。
知花がピッタリとくっついて来た。
…まさか、もう1ラウンドなんて…
「…気持ち良かった…」
「……」
ど…
どーした…知花…
俺が聞きもしないのに、そんな事言うなんて…
だが…
「…そんなに良かったか?」
頭を撫でながら問いかけると。
「…うん…」
少し赤くなって、俺を上目使いに見つめる知花…
くそっ!!
可愛いじゃねーか!!おまえ!!
俺は知花をギュッと抱きしめると、頬擦りをしながら。
「あー…もうずっとこうしててー。明日仕事行きたくねー。」
若造みたいな事を口走った。
「…明日の仕事って…例の?」
「ああ。めんどくせーやつ。」
そう。
明日の仕事は…アメリカのビートランドに所属してる『Angel's Voice』という女ばかり7人グループとの対談と撮影。
かなり激しいダンスグループで、三人がメインボーカル。
他の四人はアクロバティックなダンスも取り入れながら、コーラスもする。
平均年齢33歳。
遅咲きだが、デビューしてからは光の速さで売れまくった。
今や『世界の天使』とか言われてる奴らだ。
それに…ダンスグループだけあって…みんなスタイルがいい。
ハツラツさしかない二十代とは違って、女の色気が出まくってる。
明日、うちの事務所はかなり浮足立つ輩でいっぱいになるだろうな…
アズと京介は、瞳と聖子に。
『あんた、間違っても手を出さないでよ。』
って釘を刺されたらしい。
京介は間違いなく人見知りをするから、問題ないはず。
一方アズは。
『18も違うと、そんな気になるわけないよね~。』
と笑ってたが…
スポーツ新聞に載ってた『Angel's Voice』の写真付きプロフィールを、鼻の下を伸ばして読んでるのを見たぞ。俺は。
「…どうした?」
知花が、さらにくっついて来た。
隙間がないぐらい。
「あたし…スタイル良くないから…」
小娘か。って言いたいような告白。
「あ?誰と比べて言ってる?俺はおまえに不満はないぜ?」
つい、笑ってしまう。
「…もう少し胸が大きい方がいいとか…」
「だから、不満なんかないっつってんだろ?」
クスクス笑いながら、知花の頭にキスをする。
あー…
ほんと…
明日の対談も撮影も、めんどくせー…
このまま知花とベッドにいてー。
〇桐生院知花
「はーい、視線こっちにくださーい。」
…つい…
気になって、見に来てしまった…。
F'sとアメリカ事務所所属の、女性7人のダンスグループ…『Angel's Voice』の撮影。
来る気はなかったんだけど…
「F'sの撮影、小ホールにセット組んだらしいわよ。モニタールームから見れるけど、行っちゃう?」
何やら聖子が嬉しそうな顔でそう言って。
「おおおお…『Angel's Voice』がどんな衣装で絡むのか、見てーな。」
陸ちゃんが鼻の下を伸ばしてそう言って。
「………これは、麗には内緒で…」
すぐに顔を引き締めた。
「もー、そんな固い事言わないでよ。男なら当然。目の保養に行きたいでしょ。さ、行こう行こう。」
…瞳さんも聖子も、寛大なんだなあ…って思った。
ううん…
たぶん麗だって、『いいもの見れて良かったわねー』ぐらいで済むんだよ。
だけどあたしはなぜか…そうはいかない。
見たらモヤモヤするから…と思うのに。
見ないままだと、想像してもっとモヤモヤするから…と思って。
モニタールームに入った。
すると、すでにそこにはセンと光史がいて。
「あっ、何だよ。来るなら誘えよ。」
陸ちゃんに怒られてる。
「まこちゃんは?」
「興味ないって帰った。」
「男じゃないな、あいつ。」
「ははっ。酷い言われようだ。」
…そっか。
やっぱり…みんな気になるよね。
スタイルのいい女性7人グループ…
みんなとはずっと一緒にいたから、雑誌で裸の女の人を見てるとことか…目撃もしてるし。
男性陣だけで、胸の話をして盛り上がってるのを…うっかり聞いてしまったりした事もある。(あ…聖子は会話に加わってた気がする)
…それって、正常なんだよね。
普通…うん。
「うっわ~…」
変な声を出したのは、聖子だった。
モニタールームからそこを見ると…京介さんの顔が…
「えー…京介さん、お姉ちゃん達相手にも人見知りすんだ…?」
「こんなに絡めるのに、残念過ぎる…」
陸ちゃんと光史がそう言って、センと瞳さんはひたすらウケて笑ってて。
聖子は『情けない…』って目を細めたけど…あたしは、羨ましい…なんて思っちゃった…
「あらあらあらあら…映ったら『年上には興味ない』って言ってたクセに…随分顔が…」
瞳さんが、苦笑いすると。
「ふっ。あいつクールなのに、こんな顔する事あんだな。」
センが笑いを我慢して言った。
そう言って笑われてる映君の顔は、クールにしたいのにニヤけてしまう…ああどうしよう…って感じの顔。
確かに、いつもクールにしてる彼らしくない感じ。
「その点、圭司は満面の笑みねー…親子でこの違い…」
「アズさん、普通に撮影が楽しいだけだな…ありゃ。」
人見知りで無愛想になってる京介さん。
年上の女性に緊張してる映君。
楽しそうなアズさん。
そして…
「うおー…貫録…」
陸ちゃんが口笛を吹いた。
そこには…センターに入った千里がいた。
「……」
あたしは…つい…千里に見惚れてしまった。
だって…
すごく…絵になってる。
って言うか…あんなに煌びやかな女の子達に囲まれても…
千里の強い目は、それよりもインパクトがある気がした。
Angel's Voiceのメンバーは、すごく短いホットパンツに…セクシーなビスチェ。
全員が、女のあたしから見てもドキドキするようなセクシーなポーズを決めて、F'sのみんなに絡み始める。
彼女達は、アメリカ事務所イチオシのダンスグループで。
歌って踊れて、スタイルも良くて美人で…
本人達の希望で、F'sとの対談が決まった…って聞いた。
別に競うわけじゃないけど…
今は日本のアーティストより、向こうの事務所に所属してるアーティストの方が活躍してる。
沙都ちゃんだって、日本人だけど所属は向こうだし…
華音のDANGERも一応はアメリカデビューを果たしたけど…メンバー交代もあって、先には進んでない。
詩生君のDEEBEEも…国内ではかなりの人気を博してるけど、世界進出となると…まだどこか弱い気がする。
…あたしが焦らなくてもいいんだけど…
これからのビートランド…大丈夫なのかな…って…心配になる。
京介さんは人見知りのせいか無愛想で…だけどポージングなんて出来なくて直立不動。
映君は口元を緩めて、隣にいる女性に肩を抱き寄せられてる感じ…
アズさんは、両手に花で満面の笑み。
千里は…
「はっ…」
女の子の声が聞こえたような気がした。
千里は、激しく絡んで来た左側の女の子の顎をグイッと持ち上げて…
まるで、キスしちゃうかってぐらいの…距離。
そして、右側から千里に絡んでた女の子の前髪をかきあげて、乱暴に頭を抱き寄せた。
「早く撮れ。」
「あ…あっ、はい!!」
千里は…冷たい目。
これが…F'sの神千里。
仕事だもの…どんな事だってする。
なのにあたしは…
堂々とした千里に感化されたのか、京介さんも映君もピリッとして。
アズさんは相変わらず笑顔だったけど…それはそれでOKになった。
「乱暴にして悪かったな。」
撮影が終わって、絡んで来た女の子達にそう謝った千里。
二人は興奮した様子で、『とんでもない』とか『もっとしても良かった』なんて騒いでる。
「…やってくれるわね、おたくの旦那。これでAngel's Voiceの面々はますますF'sのトリコだわ。」
聖子がそう言って首をすくめる。
「彼女達がメディアでF'sの名前を出しまくれば、その恩恵も受けれるし…F'sもまた向こうで火がつくかもね。」
瞳さんは、もしかしたら…あたしと同じ思いがあるのかな…って思った。
父さんの作ったビートランド。
日本もアメリカもイギリスも…どれもが頑張れたらいい。
だけど…負けたくない…。
目下では、メンバーの女の子達が千里に話しかけて…そっけなくされて…だけどまた話しかけて…って繰り返してる。
…見ても見なくても、モヤモヤしたんだから…
見て納得出来て良かったはずなのに。
あたしは…
ますます自信を失くした…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます