第9話 それからー…
それからー…
あたしと薫平は、恋人同士…に、なったのかな?
あれから二度、家に行って…
そのたびに、濃いセックスをして。
なんだかんだで、あたし…今週入って三日、薫平んち行って。
…今週だけでセックス三回!?
ちょ…
ま、まるで…あたしも薫平も、飢えてたみたいじゃん!!
これじゃいけない。って思ったわけじゃないけど。
あたしは…今日は薫平んちには行かない事にした。
まあ…いつも約束するわけでもないんだけど。
何となく…
『今日仕事で本部に缶詰だから行けない』
ってメールした。
すると、薫平からは…
『えー、寂しいなー。会いたかったなー』
って…返信が来て、ちょっと…嬉しかったりする。
だって。
聖は…そんな事言わなかった。
…たぶん、物分りのいいフリしてくれてたんだよね…?
あたしが仕事好きなの知ってたから…
会えなくて寂しいなんて、言わなかった。
頑張れよ。って、いつも…
「…何考えてんだ、あたし。」
頭をブンブンと振る。
聖と薫平なんて…比べようがない。
聖は意外と真面目人間だし。
薫平は…今となっては、二階堂には向いてなかったのかもなあ…って思わせられる自由気ままさ。
ほんと…
猫みたい。
本部の資料室で、一人…黙々と仕事をした。
これは先月、兄貴がアメリカで片付けた報告書…
これは富樫が長く潜入して頑張った現場…
これは志麻がドイツで一人で抱えてた案件…
これは…
「……」
瞬平がドイツで開発の仕事をしてる事…
薫平は、どう思ってるんだろ。
元々、薫平は現場に出るより…今、瞬平がやってるみたいに考えたり作ったりする方が好きだった。
…それを思うと、ビーズ細工はピッタリか…。
色白で、きゃしゃで。
黒くて天パの髪の毛。
高津ツインズは、中性的で…時々は女装して捜査に当たる事もあった。
そんな時の二人は、ほんと…可愛らしくて。
捜査だから、誰もからかったりしなかったけど。
資料に残された二人の女装の写真を欲しがる輩がいた事、あたしは知ってる。
あんなにきゃしゃなのに。
薫平は、簡単にあたしを抱える。
細い腕に見えて、意外と力持ち。
…やだな。
考えたら、会いたくなってきた。
あたしは19時まで必死で仕事をして。
急遽…初めての、夜の訪問をしようと考えた。
今夜、泊まらせてくんないかな。
そしたら、一緒に映画とか観たい。
薫平、テレビの隣に何か映画のDVD置いてたよね。
それとも、何か借りに行こうって言ってみようか…
料理をする気はなかったから、ビールとつまみだけを買って薫平の家に向かう。
いつも急に行っても家に居るから…いいよね。
薫平の家に近付いて、丘の上を見上げる。
通りからは何も見えないけど、灯りがついてるのはボンヤリとした明るさで分かった。
丘の上に続く道を歩いて、小さな玄関にたどり着く。
いつもみたいにチャイムを鳴らそうと思ったけど…
あたしのイタズラ心に火がついた。
…デッキ側から覗いてやれっ。
あたしはコッソリと庭に回って、畑の前を通り過ぎると。
リビングの窓の下を腰を屈めて通り過ぎて…デッキまで歩いた。
「……」
中を伺うけど、薄明りだけで…よく分かんない。
…いないのかな。
それか、作業場?
掃出しは網戸になってて、あたしは手前で靴を脱ぐと、そのままデッキに上がって網戸を開けた。
薫平。
そう声を掛けようとしてやめたのは…声が聞こえたから。
…そう。
声。
…喘ぎ声。
ヒンヤリする頭をどうにか動かして。
あたしは廊下を歩いた。
リビングのテレビがついてて…
そのテレビに…裸の女の人が喘いでる映像が。
…なんだ。
エロ映画観てたんだ…
って。
ちょっとホッとしたのも束の間…
そのテレビを前に、ソファーでキスをしてる薫平…
「あっ…」
「もうこんなに濡れてる…」
…キスだけじゃなかったらしい。
「……」
あたしはしばらく、その様子を眺めた。
薫平に、気持ち良くされてる女の子の顔は見えないけど…
何となく、それが自分と重なった。
…あたしもこんな風に、薫平に気持ち良くさせられてたのかな。
ドン引き。
王子様だと思ったのに。
ただの浮気男じゃん。
あー…会いたいなんて思った自分が…
情けないーっ!!
ドン。
廊下を挟んである小さなダイニングキッチンのテーブルに、大きな音を立ててビールとつまみの入った袋を置いた。
すると、ソファーにいた二人は大きく身体を揺らしてあたしを見て。
「あ…れ?泉?」
薫平は…
悪びれた風でもなく。
「えー?来れるなら連絡してくれたら良かったのに。」
抱えてた女の子を下ろして、そんな事を言った。
薫平の膝から下ろされた女の子は、乱れた服を直しながら。
「何?彼女?」
慌てる様子もなく…そう言った。
「うん。」
「来ないって言ってたじゃない。」
「そう聞いてたけど…来てくれたから、またね。」
「あー、もう残念。じゃ、また今度。連絡して。」
「オッケー。」
「おやすみー。」
「またー。」
薫平と女の子は、そんな会話をして。
「お邪魔しましたー。」
女の子は、あたしに笑顔で会釈して。
「……」
あたしは…その子の後姿を玄関まで呆然と見送って。
「…どういう事?」
やっと…
薫平に、問いかけた。
「え?何が?」
「今の、誰。」
「友達。」
「…友達?」
「うん。」
薫平はリモコンでチャンネルを変えると。
「泉、腹減ってない?」
立ち上がって、灯りをつけた。
薄暗い部屋が明るくなって。
廊下の隅に居たおはじきが、眩しそうに顔を上げた。
「……」
「来るって分かったら、何か作って待ってたのに。」
…あたし、何か…騙されてる?
なんで…薫平、こんなに普通なわけ?
「…キスしてたよね?」
「うん。」
「…友達に?」
「…おかしい?」
「あたしが、他の男とキスしたらどう?」
「したくなったのかなって思う。」
「……」
だ…
ダメだ。
「…もし、あたしが今夜泊まらせてって言ったら、セックスする?」
「え?泊まれるんだ?」
「もし、よ。」
「うん。したい。」
「…さっき、違う女の子のアソコ触ってた薫平に触られるの?あたし。」
「……」
薫平は不思議そうな顔であたしを見て。
「ダメなの?」
丸い目のまま、言った。
ダメなの?
ダメなの…だあ!?
「…あたしが他の男とセックスしても平気って事?」
「平気とは言わないけどさ。したい時に俺がそばにいないなら、仕方ないかなって。」
「……つまり。」
あたしは、袋の中からビールを一本取り出して。
カシッと開けると一気飲みして。
「セックスしたくなったら、相手があたしじゃなくてもいい、と。それよりも我慢の方が嫌だ、と。お互い後腐れない相手となら、いつでもやっていいんだ、と。そういう事ね?」
早口で言い切った。
すると薫平は…
「…間違えてる?」
少し困ったような顔で言った。
「誰でもいいって事だよね?」
「泉とは気持ちが入ってるから別物。他の子とはスポーツ感覚。違うと思うけど。」
「……」
あたしは大きく溜息をついて。
「…あたしがバカだった。」
うつむいた。
…ほんと…
バカだった。
薫平の事…
王子様って…
「…泉?」
薫平が、一応…気にしたのか、あたしの顔を覗き込む。
…仕方ないんだよ。
十代の頃、薫平は…命を懸ける仕事のために、訓練受けてたから。
薫平だけじゃない。
瞬平だって、志麻だって。
だから、恋愛下手なんだよ。
志麻が咲華さんをほったらかすのも…
…全部二階堂のせいだ!!
あー!!
もう!!
腹立つ!!
「もう、終わり。」
あたしが顔を上げて言うと。
「え?」
薫平は、キョトンとした顔。
…くそっ。
可愛い顔だ。
「え?終わりって?」
「あたし達の関係。終わり。」
「えっ!?何で!?」
「スポーツ感覚であたし以外の女と寝る男なんて、あたし要らない。」
「そこに愛がなくても?」
「愛がなくても寝れる男なんて、要らない。」
「……」
薫平は少しの間、唇を尖らせてた。
なんなのそれ。
あたしがしたいわよ。
好きに…なりかけてたのに。
虹をくぐらせてくれた男なんて…初めてだったのに。
すごく…
色んな意味で、気持ち良くさせられた。
だから余計…突き落とされた気分。
…バカ。
「…じゃあさ…」
薫平は拗ねた唇のまま。
「他の子と、しなきゃいいって事?」
小声で言った。
「…もう信用できない。」
「どうして?」
「…同じ事は、もう言いたくない。じゃ、あたし帰るから。さよなら。」
なんて短い交際期間。
でも、短いから…ダメージも少ないはず…なのに…
胸が痛い。
「泉、待って。」
薫平がデッキまで追って来て。
「泉が嫌なら…もう、他の子と会わないから。約束するから。」
そう言ったけど。
「無理。」
あたしは薫平の顔も見ずに答えた。
志麻の事、咲華さんをほったらかし過ぎだって言ってたクセに。
自分は女と寝放題。
それを悪い事とも思わない、最低男だって気付かないのか?
「泉。」
靴を履いてると、薫平があたしの手を取ったけど。
「さっきの子触った手で触んないでよ。」
低い声で言いながらふりほどくと。
「…つまんないの…。」
薫平も…
低い声でそう言って、プイッと部屋に入って行った。
…何なの!!
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