第8話 「……」
「……」
あたしは、茫然とソファーに座り込んだ。
あれから…
何だか、激しくて濃いセックスをした。
あたしは疲れて眠ってしまって。
目が覚めると…薫平は隣に居なくて。
代わりにって言うか…
おはじきが、足元で眠ってた。
…薫平は…
麦わら帽子を被って、庭の畑に水やりしてて。
あたしはレースのカーテン越しにその姿をボンヤリ眺めた。
眩しいぐらいの白いシャツ。
麦わら帽子からのぞいた、天パの髪の毛。
「……」
あいつ、元気過ぎだ…
あんなのやって…畑仕事する元気があるとか…
ああ…
…腰だるい…
ソファーの下に落ちてる服を取って着ようとすると。
『シャワーどうぞ』
って書置きと共に、タオルが置いてあった。
「……」
確かに。
汗かいた。
でも裸のまま歩くのもどうかと思って、下着だけつけてお風呂場に向かってると。
「泉ー。」
デッキの前から声がした。
そっちを向くと…
シャーッ。
「ひゃっ!!」
突然、薫平が庭からシャワーホースをあたしに向けた。
「つっ冷たいよ!!バカ!!」
「あはは。こっち来いよ。ちょうどいいから。」
「なっ…あたし裸だもん!!」
「着てるじゃん。水着みたいでいいよ。」
バ…
バカじゃないのー!?
「ほら、見て。虹。」
薫平はのんきにシャワーで虹を作って。
「この下、歩いて通りたくない?」
…ちょっと…ウズウズする事を言った。
「…これ、向こうから見えないの?」
あたしが通りの方向を指差して言うと。
「ここから通りなんて見えないのに、下からも見えるわけないじゃん。」
薫平は笑って言った。
…確かに。
あたしは、裸足のまま…恐る恐る庭に出て。
虹の下をくぐった。
「…何てことないけど…」
「楽しいだろ?」
「うん…」
虹をくぐった。
なんか…バカらしいけど…
ちょっと幸せな気分にもなった。
「薫平もくぐりなよ。」
あたしは下着姿のまま、薫平からシャワーホースを取って虹を作る。
「はい、通ってー。」
「行くよー。」
薫平が虹の下を通ろうとした瞬間…
「うわっ!!」
「お返しよ!!」
あたしは、シャワーの調節ツマミを変えて、普通の蛇口にして薫平に水をかけた。
「ひっでーな!!」
ずぶ濡れになった薫平は。
白いシャツを脱ぎ捨てて。
麦わら帽子も脱ぎ捨てて。
パンツ一枚になると。
「ここで襲って欲しいのか!?」
あたし目掛けて走って来た。
「えっ!?やだ…わー!!」
あたしはシャワーホースを投げ捨てて、走る。
「泉ー!!」
バカみたい。
バカみたいなんだけど…
デッキでは、おはじきが欠伸をしてて。
本当…バカみたいなんだけど…
「アッチョンブリケ。」
そう言って笑った薫平を…
何だかあたし…
王子様みたいに…思っちゃったかも…。
「泉。」
声をかけられて振り向くと。
「兄ちゃん…いつ帰ったの?」
車の窓を開けて、手招きしてる兄貴がいた。
「昼前かな。また明日の夜にはあっち戻るけど。」
今月の初め、兄貴はこっちに帰ってたんだけど。
兄貴の仕事は国内でも、ちょっと遠方で。
あたしも二日とか単発でドイツとか、ちょっと珍しいイタリアとか行ったり……薫平んちに行ってたり。
何だかすれ違ってばかりだった。
都合が合うかな?って思った日は、友達とご飯なんだって。って母さんから聞いて。
友達って誰っ!?って。
母さんが言うには…
「桐生院のノン君。」
………。
あたしは、ちょっと無言になった。
志麻の婚約者、咲華さんの…双子の兄。
あたしの親友、華月の兄。
……聖の…甥。
母さんは、昔その人に柔道教えたりしてたから…ちょっと仲良し。
あたしはあまり会った事ないから、たぶん顔見ても分かんないかな…
あ、でも咲華さんと双子なら分かるか。
兄貴とその人は、アメリカでシェアハウスをしてた。
っていうのを、最近知った。
目の当たりにしたらしい姉ちゃんは、あたしに教えてくれなかったけど…
わっちゃんから兄貴の近況を聞きだしてた母さんが教えてくれた。
「海、向こうでノン君と沙都ちゃんと、もう一人友達とでシェアハウスしてたんですって。」
って。
…姉ちゃん、ずるい。
あたしがブラコンなの知ってるクセに。
あたしの事、ブラコンっていじめるクセに。
姉ちゃんだって、そうやって情報一人占めとか…
ブラコンじゃんかよ!!
今日何か情報入っても、姉ちゃんには教えてやんなーい!!
とか言いながら。
あたし、姉ちゃんも大好きだから言っちゃうんだろうな~。
「どこ行ってたんだ?」
助手席に乗ってすぐ、そう聞かれて。
あたしはシートベルトをしめながら…少し固まった。
「え…えーと…」
「……」
「あの…」
「……」
「別に、どこだっていいじゃん。」
答えに困って、ついそう言うと。
「…ま、そうだな。」
兄貴は小さく笑いながらつぶやいて、車を発進させた。
…つい最近…
どうも、父さんがあたしに気を遣いまくってる。と気付いた。
それはきっと…
あたしが聖と別れたせいで、空元気で頑張ってる…と思ってるみたいで。
いや、あたし…本当に元気なんだけど。
って思いながらも…
…まあ、父さんに優しくしてもらうのは嬉しいから、甘えちゃおうかなって。
空元気なんて…出したって仕方ない。
あたしと聖は、もう終わった。
もう…前を向くしかないんだ。
「…ねえ兄貴。」
「ん?」
「兄貴は…別れた人と友達になれる?」
意地悪な質問かなって思ったけど、聞きたくなった。
薫平には…負けた気がして聞けないし。
「…俺は友達になったけどな。」
「えっ?」
「普通に飯食いに行ったりしてるけど。」
「
「……」
「あ…ごめん。」
「知ってたか。」
「そりゃ…分かるよ。」
兄貴は小さく笑うと、赤信号で停まってる間にスマホを取り出して…
「…何これ。楽しそう。」
写真を見せてくれた。
クリスマスツリーの前で…兄貴、すごく笑顔…
そこには、兄貴の友達と言われる華月の兄ちゃんとか。
…紅美もいた。
「…辛くないの?」
「そういうのは越えたな。」
「…そっか…」
兄貴は…何も聞かないでいてくれた。
聖と…友達になんてなれない。
あたしは…聖を忘れるために… 薫平を選んだ。
…薫平に…助けられてるんだもん…
この流れは…当然って言えば当然だよね…
「空の所に行って、飯食うか。」
「あっ、いいねー。って…姉ちゃん家に居るかな。」
「電話してくれ。」
「オッケー。」
姉ちゃんはちゃんと家に居て。
あたしと兄貴が行くって言うと、喜んだ。
母さんには、兄ちゃんと姉ちゃんの所でご飯食べるって電話したら。
『えー。母さんも行きたかったー。』
って、ちょっとブーイングだったけど。
父さんと二人きりで飲みにでも行けば。って言っておいた。
「
姉ちゃんちで、夕夏を抱えた兄貴が笑う。
二階堂の仕来たりに沿ってれば…
きっと今頃、朝子と結婚して子供もいたはずの兄貴。
決められた事があっても…何がどう変わるかなんて、分かんないんだよ。
あたし達は…
ちゃんと…気持ちがあるんだから。
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