第6話 浅香聖子
「ねえねえ、お宅の旦那、新曲でかなり株上げてるけど、どうなのよ。」
事務所の隣の湯に浸かりながら、あたしは少し冷やかし気味に言った。
「え?」
「もう一人じゃない…って、いつになく優しい声で歌っちゃってさあ。」
「あー…」
あたしの言葉に
「みんなに対して歌ってるラブソングだから。」
知花はそう言って、首を傾げて笑った。
「みんなって?」
知花の向こう側から、
「あたしはてっきり、あの曲は千里から知花ちゃんへのラブソングだと思ってたけど。」
「ああ…あたしも。」
あたしと瞳さんのツッコミに。
「んー…千里も年を取ったって事なのかな?一昨年のLive aliveからこっち、かなり色んな人に感謝の気持ちを口にするようになったもん。」
知花はあたし達が眉間にしわを寄せたくなるような事を言った。
「感謝の気持ち?本当に?昨日あたしには寝ジワが取れてないなんて言ったわよ?」
「…それはー…失礼ね。ごめんね。」
「あたしにも、『アズが腹壊してるけど、おまえ料理でもしたのか?』って失礼な事言ったけど。」
「……本当…ごめんなさ…」
ぶくぶくと音をたてそうな感じで、知花が湯に沈んでいくサマがおかしくて、瞳さんと笑った。
あたし達の旦那は三人ともF'sのメンバー。
瞳さんとこなんて、息子の映も加入しちゃったから…もろにF'sはあたし達三人の身内で出来てるわけよ。
しかも、京介と神さんとアズさんは同じ歳。
だから、あたし達の会話も自然と…
「ねえ、二人とも旦那って寝起きいい?」
「京介は全然ダメ。何度起こしても起きないし、起きても座ったまま寝てる事ある。」
「千里も弱いなあ…目は開いてるけどボンヤリしてるし、なかなか朝食が終わらないの。」
「…圭司はめっちゃ早起きで、朝からテンション高いのよね…」
「おじいちゃん?」
「聖子。」
「だって、年寄りは朝早いって言うじゃない。」
こんな感じで、旦那の健康の事とか…
「ねえ、まだ誘われる?」
「…何であたしにだけ聞くの?」
「だって、知花ちゃんは間違いなく千里に襲われてるから。」
「襲われてるって…」
「誘われるけど断る方が多いかなー。瞳さんは?」
「…圭司、寝るのも早いから。」
「おじいちゃん?」
「聖子。」
こんな感じで、旦那の精力はまだあるか確認したり…
「最近ちょっと気にしてるみたいなんだよね…」
「あ、圭司も。」
「…千里はあまり気にしてないかな…言わないだけかもしれないけど…」
「神さんはハゲるより白髪になる方が似合いそう。」
「圭司にも白髪になって欲しい…あたし、ハゲは嫌だ。」
「あたしだってハゲは嫌よ。もし薄くなって来たら、即リー○に電話させるわ。」
髪の毛の心配の話とか…
「えっ、千里裸眼でいけてるの?」
「うん…まだ平気みたい…」
「京介は爪切る時にかけてる。」
「あ、圭司も。」
「新聞読む時は要らないの?」
「…京介、新聞なんて…」
「…圭司も…」
「……」
老眼の心配が、新聞を読まない事の心配になったり…
「京介はまだ肉が食べたいってガツガツ食べるわ。」
「浅香さん、細いけど結構食べるって千里も言ってた。千里は洋食が苦手になってきてるみたい。」
「圭司はやたらと柔らかい物食べるようになったかなあ。」
「おじいちゃん?」
「聖子。」
食に関しての話題とか…
「えーっ、二人ともボクサーパンツなの?」
「何?アズさんはブリーフとかいうの?」
「ううん。トランクス。」
「京介はドラム叩いてる時におさまりが悪いって、ボクサーパンツにしたわ。普段はトランクスよ。」
「おさまりが悪いって(笑)でも千里もそんな事言ってそう。」
「…言ってたかも…」
「でもボクサーパンツって蒸れそうじゃない?」
股間の蒸れ具合の心配とか…
「映像班のサントスがさあ、めっちゃ可愛いんだよねー。」
「昨日エスカレーターでこけかけてた(笑)」
「朝からあの子の顔見るとテンションあがるわ。」
「確かに…久しぶりの癒し系男子よね。」
「…外人さん?」
「ううん。日本人。
「……」
旦那の話に飽きたら、事務所で見つけたちょっと可愛い男の子の話になったり。
あたしと知花は今年47歳。
瞳さんは49歳。
だけど…まだまだこれから花を咲かせる気でいる。
SHE'S-HE'Sでいる限り、あたし達は…
「ねえ…もう上がっていいかな…?」
「あ、知花。茹で上がってるじゃない。」
「もー、早くギブアップって言わなきゃ。」
女三人。
楽しくやってくのよ。
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