『述懐』

 『美弥狩司衆 狩戦目録』より


 ~


 そののち、美弥狩司衆、左厳一門、隣国狩士連、秀峰狩司衆近衛組による緊急連合、夜戦に突入。

 篝火の元、幾度もの飢神の襲来に応戦。

 夜半、続けざまに伝鳥の報。

 美弥、仁帰、加古葉国境周辺守護狩士一団と、美弥離脱組が合流。

 隣国の守護下に入る。

 そのまま国境守護は美弥へ進行。

 美弥に押し寄せる飢神の背後を取り、その数を分散させながら前進。

 途上、隣国主力狩司衆が合流。

 引き寄せ役の後退組と、進軍組に分かれ、飢神を散逸に尽力。

 その時点で、美弥への飢神の強襲七度。

 夜明け前、隣国援軍の働きにより、飢神の壁が薄まる兆し。



 そして八度目の波が過ぎて、



 ~












 男は城の一番外の壁に背を預けてうずくまっていた。

 すでに全身疲労困憊。

 起き上がる気力すら湧きそうに思えなかった。

 しかし、あと少しすれば交代が戻ってくる。

 休息に入る組に代わって、男は城下の狩場に向かわねばならぬ。

 全てはこの国を沈めぬため。

 生きて生きて生き延びて、そして、



 明日に手をかけるため。



 不意に、男は顔を上げた。

 そして視線の先に、夜が覆う空を見る。



 ――――いや、


 色が少しおかしい。



 男はなぜおかしいのかをぼやける頭で思考し、無意識に振り返っていた。

 背後には壁。

 いや、その向こうだ。



 



 男はゆっくりと立ち上がり、物見の穴から東を見た。


 空が。


 山向こうの空が、明るい。



 あれは、





「……朝だ、」



 掠れた声が、呟いた。

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