第9話 『次』へ。(2019年)

「なんとなくだけど、〈ミハル〉とは、もう会えないような気がする」

 名果めいかの事故現場に向かって走っている時、せいが唐突に言った。

〈どういう意味だ?〉

「いや、なんとなくそう思ったんだ。もしかしたら、〈ミハル〉が俺のカント野に入ったことがきっかけで、俺もお前みたいに並行世界の自分と多少つながったんじゃないかな。そうでも考えないと、未来から来たとか、第三次世界大戦とか、そういう突拍子もない話がこんなにスムーズに腑に落ちるわけがないと思うんだよ」

〈だが、そのことと、私と君がもう会えないというのは、どう関係するんだ?〉

「きっと、〈ミハル〉の旅が終わりに近づいているんだ。これまで、何千、何万の俺と〈ミハル〉は出会ってきたんだろう? それはすべて失敗したのかもしれないけど、でも徒労に過ぎないわけじゃないと思う。きっとお前が本当に救いたかった相手は名果じゃないし、救いたいと思った動機は世界とか友人とか母親とか、そういうことでもないんだよ。もっと、極々シンプルなんだよ、〈ミハル〉」

〈君が突然そんなことを言うとは思わなかった。……けれど、そうだな。今の君の話は、私にも妙にしっくりと来る〉

 世は足を止めて、誰にともなく、けれどまっすぐに〈私〉を見つめるように言う。

「ここはもう大丈夫。名果は俺が必ず助ける。ここまで連れてきてくれてありがとう。〈ミハル〉は、もう『次』へ行っていいんだ」

〈私〉の意識がこの時代に焦点を結んだのは、これが最後となった。

〈私〉は、『次』へ。

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