第7話 サターントレノ

 C-4500で走ってるとふと、追い越し車線からある1台の車がくる。

「あ、あれ」

「ん? どした庵野」

 八九寺が聞く。

「あれ、トレノじゃ?」

「ナンバーは?」

「追い越しなのに遅いから見えない」

 と言った瞬間、バックタービンの音とともにトレノが過ぎる。

「あれはモドキだな」

 八九寺が言った。

「ずいぶんモドキが増えたねぇ……」

 白捩がぼやく。

「ほんとね。バカばっか」

 桂城が付け足す。

 トレノのエンジンは4A-Gと言われるエンジンで元々ターボ用に作られていない。自然吸気(N/A)エンジンに自分でターボを付けて走るのはいいが、リミッターを付けないで本気で走るとエンジンがターボの圧で耐えられなくなり壊れると言われている。

 しかも、バックタービンは音はいいが、一種のパワーダウンに過ぎない。

 せっかく、ターボで吸気した空気をわざわざ戻すのでマフラーへ出すはずの空気を戻してるのと一緒だ。


「おし、着いた」

「なぁ、八九寺。首都高行くか?」

「あたりめぇだ」

 八九寺は家に入る。

 俺は八九寺の敷地内に止めてたRS-Xに乗り込んだ。

 自分も帰路へ向かう。

 入谷で1号に入り、一気に加速させた。


「よし、行くかー」

 塩浜から9号に入って辰巳PAに向かった。

 辰巳第2PAと書かれた看板を横目に左ウィンカーで入っていく。すると白捩のS2000が止まっていた。

 その真横に停め、降りた。

「白捩、もういたんだ。早いね」

「あったりまえ。大田ちょっと遠いし」

「八九寺は?」

「ううん。まだ」

 あいつにしちゃ、珍しかった。

 丁度、スマホが鳴った。八九寺からた。

「お? どした?」

「もうすぐ着くけど、トレノがそっち向かってるぞ」

「入る?」

「いや。すぎる」

「よし」

 RS-Xに乗り込み、エンジンをふかす。

「白捩は?」

「まってる」

 アクセルを踏んだ。


 湾岸線から11号に入った。

 トレノは依然、前にいる。距離は50mちょっと。アクセルを抜けばたちまちトレノは消える。

 しかし、右前にいたトラックがトレノが追い抜いた途端、トラックが左車線に入ってきた。1号に入る手前だった。

「ぐっ……!」

 ブレーキとサイドブレーキを作動させ、クラッチペダルを踏んだ。

 トレノは消えてしまった……。


「えっー! トラックに!?」

 白捩がこれでもかと言わんばかりに驚く。

「RS-Xは無事?」

「あぁ。ギリだったけど」

「でも、下手したら幅寄せで煽りじゃん?」

「まあ、300km/h手前で走ってたし、90m後ろにいたんだから車線変えるかもな」

 白捩と話していると

「でも前にトレノいたんだろ? だったら車線なんか変えるか?」

 八九寺が言う。

「うーん。1号とのジャンクションだし、トレノは一人で攻めてるって思ったのかもね」

「まあ、そうかもな。何より無事でよかったぜ」

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