第8話 業務連絡

 それにしても、モヒカンがまさか女の子だったとはな……

 真司は三畳の自室でそんなことを考える。

 もともとゲーム内でも、オリジナル真司に近い真司の分身体アバターとは異なり、五月のモヒカンは明らかに作られた分身体アバターだ。

 外見は北斗の拳のとっても有名だけど作者に名前すら付けてもらっていない雑魚キャラを再現したもの。

 会話も基本的に若干似非中国語臭い文字数極小で意味が伝わる最小限のみ。

 まあ会話は時々普通の口調に戻ったりすることもあるけれど。


 あまりにわざとらしい分身体アバターからの本人の情報は皆無だ。

 その見てくれのせいか真司以外に仲がいい分身体アバターも他にいない。

 大体が見た目と言動で避けるのだ。

 実際にゲーム内でつき合っているとなかなかというかとてもいい奴なのだが。

 モヒカンにそんなことを言うと火炎放射器の炎が迫ってくるけれど。

 それにしてもあの外見は反則だ、と真司は思う。

 メッセージのやりとりだから何とか会話できたけど、リアル会話は絶対出来ない。

 彼女いない歴満年齢元引きこもり魔法使いまで4年の真司はそう確信している。

 ちなみにこの場合の魔法使いの意味が分からない人は自分でググろう。


 さて、真司がやっているのは五月のエアガンの状態確認。

 PS90HC改を少し分解して、部品の状態を見ている。

 なかなか強烈に改造されたいじられたガンだった。

 本来のPS90HCは、サバゲーでは小型軽量で取り回しがいいのが利点で、ガンガン突撃して弾幕を張りまくり敵を制圧するというエアガンだ。

 だが三百発のマガジンは弾幕を張るとすぐ空になるし、初速が遅めて集弾率もいまひとつ。

 またサイズ的に狙い撃ちはやりにくい。

 ハイサイクル特有の音がうるさく、撃っているとすぐ敵に狙われる。

 そのあたりを解消してかつ魔物用武器とすべく、大幅な改造がされていた。

 改造に使用したパーツの説明書もきちんと揃っている。

 BB弾千五百発収納可能なBOXマガジン兼バッテリーケース。

 強化スプリング。

 精密インナーバレル(ノーマルより200ミリ以上延長)。

 ショートサイレンサー。

 ラックギア、平ギア金属製に全交換。

 高トルク型モーター。

 高電圧大容量リポバッテリー。

 シリンダー、シリンダーヘッド交換。

 パッキン気密化。

 その他……


 何だかなあ、と真司は思う。

 何かもう部品代だけで新品エアガン、それも国産の次世代級があと二丁以上買えそうだし中身も外見も別物状態。

 使われているのはエアガン用の部品だけでない。

 多分モーターのヒートシンクとギアボックスから伸びている太い銅線は熱を逃がすための一品物だろう。

 あげくにモーターと銅線の間にペルチェ素子までついて強制的に排熱させるようになっている。

 んなものパソコン用でならまだしもエアガン用なんて見たこともない。

 つまりBB弾を問答無用の弾速かつ凶悪な発射サイクルで発射し、しかも分単位での連射にも無理矢理耐えられることを目標に組み上げられたヒャッハーな仕様。

 モヒカン様専用火炎放射器の代用品と思えば冗談みたいに良く出来ている。


 真司は念の為部屋の中で座布団相手に試し打ちもしてみた。

 一発の威力は改造済みの真司のものとほぼ同等。

 騒音は大分抑えられている。

 発射速度は多分ずっと上で市販ハイサイクル並みかそれ以上。

 銃剣バヨネットを使わないなら真司の中華AKよりはるかに高性能で使いやすい。

 なおかつ整備状態も完璧だ。

 きっと、それなりのマニアが狂気と精魂込めて改造いじり尽くし、泣く泣く手放したのだろう。

 特区以外では絶対銃刀法で逮捕される代物だ。

 それでもきっとどうしても作って、ぶっ放してみたかったのだろう。

 理系工作マニアの端くれとして、真司が知らない製作者に勝手に感情移入していると。 スマホが振動した。


『今日はありがとう』

 モヒカンにしては妙に真っ当な文章だ。

 実際に会ったから、キャラづくりは捨てたのだろうか。

『あとヨーグルトとグラノーラと牛乳ありがとう。助かった』

『明日の分はまた買い出すから。注文あれば聞くけど』

『助かる。じゃあ明日講習終わったら』

『了解。それにしてもこのエアガンすごいな』

 つい真司は今してた作業の感想を打ってしまう。

『何かもうノーマルと別物状態。高かったのでは?」』

『『当店お勧め、超高性能、小柄な人向き、特区内のみ所持可、三月保証』と店が勧めた。メカ苦手なので詳細理解不能」』

『無茶苦茶強力に改造してあるし、機構メカの組み付けもすごくいい』

『よくわからないけど、ジャミルって機械メカ好き?現実リアルで』

『否定しない』

 と打って、ふと真司は気づく。

『リアルキャラはジャミル君じゃない。まだ名乗ってなかったけど、現実設定リアルステータスの本名は鶴川真司26歳無職。よろしく』

『了解。私は昼間見て知っての通り』

 ばれてたか。

『何とお呼びすれば?』

『メイでお願い』

 メイ……五月だからかな、と真司は思う。

『了解』

『シンジだとプラグスーツ着て世界の中心でアイを叫びそうだけど、呼称希望ある?』

『……鶴川でいい』

『却下、面白くない』

 やっぱりモヒカンとして来たメッセージとは様子が違う。

 ゲーム内のモヒカンとはもっと違う。

 まあこっちが現実リアルに近いんだろうな、と真司は思う。

『何か思いついたら、提案どうぞ』

『メカ好きで眼鏡だから、ボヤッキー?』

『何でごじゃりましょうかドロンジョ様』

『このスカポンタン!』

 『夜ノヤッターマン』のボヤッキーは色々イケメンで好きなのだがなあ。

 あれだとドロンジョ様も幼女だし、なんて真司は思ったのだが却下されたようだ。


『ま、呼称はおいおい』

『『おいおい』了解』

『違うわい、また後でということで』

『おいおい了解』

 まあいいか、と真司はため息ついた。

『ところで明日は講習、大丈夫』

『一人で大丈夫』

 と入った後ちょっと間が空いて。

『迎え宜しく』

 そう追伸がくる。

 ああそうですかそうですか、と真司は思うが別段悪くは思わない。

 要は講習で大ダメージを受けるあろうと予想しているし、その覚悟もあるって事だから。

『それじゃあ明日、夜露死苦』

『任務了解~』

 例の聖帝サウザー様が寝ているスタンプが送られてきた。

 今日はこれで終わりということだ。

 明日は魔物討伐の時間が午前中しか取れなくなりそうだし、朝、更に早く出た方がいいかな。

 真司はそう思い、広げていたエアガン一式を片付けてさっさと寝ることにする。

 それにしても、モヒカンの正体があんな美少女って反則だよな、と思いながら。

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