第4話 ファースト・コンタクト
真司は朝5時ちょうどに宿を出る。
雑魚魔物は早朝に出やすいと聞いたからだ。
装備は中国人民解放軍の森林迷彩服上下に、空挺用ヘルメット、いいかげんなグローブに安物ブーツ。
他人のBB弾が飛んでくることを考慮して、ゴーグルも装着。
武装は中国のメーカーCIMA製CM031(AK74)に
共産圏のちょい古めの装備で揃っているのは真司の趣味ではない。
大学時代に値段重視で装備一式を揃えたらそうなってしまっただけである。
真司が考える魔物討伐方法はエアガンの対魔物用BB弾で相手をひるませ、銃剣でとどめを刺す、というもの。
いくつかのWebページを見て得た情報だ。
ちなみに対魔物用BB弾とはBB弾を銀メッキしたもの。
相手がスライムやウィルオウィスプ、ゴブリン位ならエアガンだけでOK。
オークやトロル等大型の魔物の場合はひるませる程度。
あくまでゴブリン以下用の武装だ。
しかも真司のエアガンは強化改造等はしていない。
銀メッキをした銃剣もつけているがこれも気休め。
何せ真司はあくまで初心者かつ一昨日まで引きこもりのニート。
だから体力に自信が無い。
まずはこの装備でやってみて、結果に応じて改造なり作戦を立てようというのが本日の目標だ。
それ以上はおいおい考えるという方針。
モヒカンにも『いのちだいじに』とドラクエ作戦的な注意もらった。
今日はあくまで様子見程度しかしないつもりだ。
毛無峠から結界の境界線に沿って毛無山山頂方面に向かう。
このあたりは草原で見晴らしがよく初心者向きらしい。
かつて鉱山だった名残の索道跡の鉄塔を超え、斜面を登っていく。
山に慣れた人間ならたいしたことない登山道。
だが一昨日まで引きこもりだった真司には結構きつい。
疲れて動きが鈍くなったら、魔物相手に万が一という事もあるかもしれない。
用心しながら、休み休みゆっくり登っていく。
ふと真司は前方の景色に違和感を感じた。
草原が一カ所だけ他と違う動きをしている。
距離はおおよそ50メートル先だ。
真司はAKを構え足音がしないように注意しながら一歩ずつ前進をする。
前方からくちゃくちゃという物音が聞こえ始めた。
すぐに音の正体は判明。同時に血とモツの異臭。
真司の視界に入ったのは血の流れた跡と人型の屍体。
それにたかっている緑色の半透明なビニル袋状のものがいくつか。
引金を引く。
フルオートに設定されたAKが2秒で約20発の対魔物用BB弾をばらまいた。
膨れたビニール袋状だったスライムがキューと音をたててしぼんでいく。
真司は耳をすまし、そしてあたりを見回す。
無音。
しぼんだスライムの他に不自然に動くものはない。
屍体を確認する。
見えている体の色が緑色で人間より明らかに小さい。
ゴブリンだ。
死んだのはおそらく今朝のうち。
真司より朝早く出た誰かが討伐したものだろう。
切り裂かれ、さらにスライムに捕食され、さらに砂と血と粘液がまじっている。
はっきり言ってグロい。
モツのような悪臭もする。
真司はその場から駆け出して逃げたいのを必死にこらえ、一歩ずつ後退し……
我慢できずに真司は逃げだした。
坂を走って降りる。
10秒ほど走って息が切れる。あたりの気配を確認しながら足を止める。
息をつく。何も追ってくるような気配はない。
凄く気持ち悪い。
ある程度大きい動物の生の屍体を見るのは、真司にとって初めての経験だった。
気持ち悪い。吐きそうだが吐けない。
深呼吸をする。無理やり深呼吸する。
少し落ち着いた。
生の屍体は思った以上に真司にとってきつかった。
他の仕事を探そうか、ちょっと考える。
でも他人と会話することは真司にとってはやっぱりハードルが高い気がした。
魔物退治ならほぼ他人と会話することなく金が稼げる。
死体と他人との会話とどっちがハードルが高いか。
真司にとっては会話の方がハードルが高いように思えた。
ならば慣れるしかない。
確か今討伐したのはグリーンスライム3匹だったよな。
グリーンスライムは一体三百円だから九百円の儲け。
なお儲けは銃に設置されているアクションカムで撮影されている。
県支所で画像解析装置で成果を確認し報奨金が出る仕組みだ。
九百円なら田舎のアルバイト1時間分。
初めてにしては順調な出だしかもしれない。
とたんに入る真司のやる気スイッチ。
だけど……真司は思う。
今度は別の道を確認しよう、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます