第5話 戦場の洗礼

 その後真司はスライムばかり更に6体退治した。

 いずれもゴブリンの屍体に群がっていたものだ。

 どうも真司より早く出てゴブリン狩りをしている者がいるらしい。

 明日からはもっと早く出ないとな。

 真司はそう思いながら一歩ずつゆっくりと進む。


 今歩いているのは破風岳に続いている元登山道。

 まわりは笹薮だ。

 西南西70メートル位に動く物発見。

 ゴブリンだ。

 中華AKを構えて用心して一歩ずつ、耳をすませてあたりを確認。

 ふと目に違和感。

 注意して今見た方向をもう一度確認する。

 左30メートル位の笹薮が不自然に揺れた。

 揺れはこちらに近づいてくる。

 身長的に人ではない。


 ゆっくり足音がしないように右後ろに下がる。

 セレクターがフルオートになっているのを確認。

 中華AKを構える。

 ガサガサという音が近づいてくる。

 けもの臭い異臭。


 緑色の塊が飛び出てきたのと同時に、真司は引金を絞った。

 ゴブリンの顔面に連射。

 ゴブリンはうめいて手で顔面を覆い一歩下がる。

 その隙を見逃さず真司は前方に飛び出した。

 ゴブリンの胸元に向け両腕を突き出す。

 ズブッと重い感触

 ゴブリンの胸に銃剣が半分ほど突き刺さっていた。

 ウガガーッ!

 ゴブリンが叫んで、短剣を振り上げる。

 真司はとっさにストックを押しやってゴブリンから離れる。

 吹き出す赤い血。

 ゴブリンは短剣を振り上げたの姿勢でよろめく。

 そして左下、坂の下の方に倒れた。


「はあっ、はあ、はあ、はあ」

 真司は自分が切れ切れに息を吐いていることに気づく。

 ふと気づいてあわてて周囲の様子を伺う。

 他に気配はない。

 しかしこのままここにいては危険だ。

 魔物の屍体は他の魔物を引き寄せる。

 屍体を分解する各種スライム類はもちろん、屍体をも食料にするコボルト、仲間のゴブリン、さらにゴブリンより大きなオーク類までも。

 真司は何とか足を動かして登山道を下へ。

 峠の方へと逃げる。

 幸い他の魔物に会うことも無く笹薮地帯を抜け草地へ。

 もう宿も遠くない。

 毛無峠の詰め所で警戒している自衛隊員も見える。

 ここまでくればほぼ安全地帯だ。

 安心したと同時に足の指力が抜けて、

 真司はその場でへたり込んだ。

 

 結局この日、真司はロッジから徒歩10分圏内をひたすらうろうろして終わった。

 ゴブリンを倒した時の気持ち悪さと、人型の生き物を倒してしまったという何とも言えない気持ち悪さと恐怖感から抜け出せなかった為である。

 討伐した魔物は計5体。

 内訳はグリーンスライム4体、ゴブリン1体。

 あの後はグリーンスライム1体だけしか倒していない。

 三百円が4体に、二千五百円が1体。

 討伐報奨金は合計三千七百円。

 これでは宿代がやっと。

 食事分を引くと赤字である。


「でも初日と考えたら悪くはないか」

 2畳の自分の部屋に布団を敷いて寝ころんだ姿勢で真司はそう思う。

 部屋代は長期契約だと安くなるとのことなので1か月分支払った。

 一番安い部屋、素泊まり光熱費水道代混みで五万円也。

 狭いが余分な荷物を置いておけるし、基本寝るだけだしこれで十分。

 でも明日はもう一度気合を入れなおして頑張ろう。

 目標はとりあえずは低く五千円くらいで。


 スマホが振動する。

 メッセージ、モヒカンからだ。

『求ム生存報告』

 とりあえずクマが万歳しているスタンプを送ってから、真司はメッセージを打つ。

『健康状態異常なし。成果はいまいち』

『怪我は?』

『無し。ちょい足が筋肉痛な位』


『没有危険?』

 真司はちょっと考える。

『ゴブリンを倒した時、ゴブリンが複数いたらやばかったかも』

『了解。現状のパーティ構成?』

『ソロ』

『没有危険?』

『会話する自信ない。下手に組むと騙し合いになることもあるらしいし、知らない人間と組むのは推奨しないと講習でも言われた』

『委細了解』

 ちょっと間が空く。


『そんなに危ない場所まで行かないから大丈夫だろ』

『ジャミルはファーストタウンでいきなり死にかけた』

 ジャミルとは真司が『オシアニックオンライン』で使っていた分身体アバターだ。

 何故ジャミルなのかは大した理由ではない。

 ニートだからといってわかる奴は古いアニメ愛好家だ。

『チュートリアル直後に死にかける馬鹿を信じられるとでも』

 真司の分身体アバターはオンラインゲーム『オシアニックオンライン』最初の街で、いきなりモンスターに襲われて死にかけた。

 そこを通りかかったモヒカンに助けられたのが、ゲーム内でパーティを組むきっかけだったりする。

 それでゲームのためにゲームログイン時以外でも連絡を取れるようSNSのID交換をしたりして今に至っている訳だ。


 そういえばあの時は驚いたなと真司は思う。

 本来は剣と魔法の世界である『オシアニックオンライン』の戦闘途中、いきなり火炎放射器を持ったモヒカン男が乱入したのだ。

 最初は何か世界観の間違った強制イベントだとばかり思ったのだが。

『ゲームじゃないから操作不良なんてことはないから』

 ちなみに死にかけた原因はモーション操作受信用のカメラが何故か横を向いていた為である。

 ちなみのモヒカンのSNSでの名前もモヒカン。

 アイコンはヒャッハーでグラサンなモヒカンの男だ。

『討伐続行?』

『宿を1月分取った。当分は続ける予定』

『状況了解』

 北斗の拳の拳王様ががんばれがんばれとやっているスタンプが送られてくる。

 もちろんオリジナルではなくイチゴ味の方だ。

『では寝るぞ。明日も早いから』

 聖帝サウザーがすやすやと寝ているスタンプが送られてきた。

 向こうも寝るぞ、ということのようだ。

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