第3話 夜のメッセンジャー

 宿で一番安い部屋に入って荷物を置いた真司は一息つく。

 3畳ほどの細長い和室で、押入と鍵のかかるロッカーが壁に埋まっている。

 むちゃくちゃ狭いが一泊素泊まり三千円と格安だ。

 窓も鉄格子がはまってはいるが一応ある。

 魔物が襲ってくると鉄格子を叩かれたり矢が飛んできたりするらしい。

 でも窓ガラスは頑丈だから大丈夫と説明された。

 不用意に開けると危ないとも言われたけれど。


 畳の上に寝転がってしばらくすると、スマホが振動しだした。

 真司が見るとSNSでメッセージが来ている。

 モヒカンからだ。

『求ム生存報告』

 モヒカンはオンラインゲーム『オシアニックオンライン』で真司とパーティを組んでいた奴だ。

 自キャラは黒サングラスのモヒカン男で武器は火炎放射器。

 決め台詞は『汚物は消毒だー!』というどこかで見たような危ない奴だ。

 だが真司となんとなく気があって、ここ一年2人で組んでゲーム内のクエストをこなしていた。

 ちなみに真司は実在リアルのモヒカン本人に会ったことは無い。

 お互いニートの引きこもりだから。


『返事が無い。ただのしかばねのようだ』

『生きとるわい』

 真司はあわてて打ち返す。

『ログインしない理由?』

『家追い出された』

『何故』

『ニートは出てけと親父に追い出された』


 しばらく間が空く。

 雨に打たれて泣いている丸顔の男がスタンプで送られてきた。

『祝、ホームレスへのジョブチェンジ』

『まだホームレスにはなってない』

『現ステータス?』

『冒険者』

『ゲーム内転生w』

『しとらんわい!』

 再びしばらく間が空く。

 ちなみに音声で会話した方がよっぽど早いなんで思ってはいけない。

 引きこもり歴が長いと会話が出来なくなるのだ。

 ましてや音声通話なんて怖いことを真司が出来るわけがない。


『我要求状況説明』

『毛無峠に来ている。明日からリアル魔物を討伐予定』

『群馬の魔王城?』

 モヒカンも知っていたようだ。

『有危険?』

『雑魚だけ狩る予定』

 少し間が空いて。

『状況了解。いのちだいじに』


 一応、自分にも心配してくれる他人がいたんだな、と真司は気づく。

 ただし相手はモヒカンで火炎放射器で汚物は消毒な奴だが。

『ああ、気を付ける』

 一応素直に言っておく。

『乞定時連絡』

『了解した』

 親指を伸ばした握りこぶしのスタンプが届いた。

 幸運を祈る、といったところだろう。

 ありがとうというのも気恥ずかしい。

 真司は布団で横になっているスタンプを送った。

 これで寝るから今日は終わりだぞ、という意味で。

 顔の見えないモヒカン野郎に若干の感謝をこめながら。

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