第2話 殺しのライセンス

 家を出た日の昼過ぎ、真司は疲れ切った顔で講習を聞いていた。

 群馬県嬬恋毛無峠支所2階、講習室。

 ここへ来るまでの長旅プラスアルファで、真司は既に疲れ切っていた。

 金を出来るだけ使わないため、普通列車を乗り継いできた。

 その為に時間がかかったのはまあしょうがない。

 万座鹿沢口駅からのバスがなかなかに狭く乗り心地が悪かったのも我慢しよう。

 なにせ魔物生息地行のバスだ。

 弓矢や投石対策をしてある分重くて乗り心地が悪い。

 その辺はまあ仕方ないし覚悟もしている。


 問題はその後。

 まず、ついたとたんにトラメガでがなり立てる声の暴力にあう。

「トウバツヤメロ、トウバツヤメロ」

 どうやら魔物討伐に反対する市民団体の抗議らしい。

 ちなみに後ろの方で色々なのぼり旗も見えている。

 色々反対するのが好きな団体の模様だ。

 なんとかその喧騒の中群馬県嬬恋毛無峠支所に着くと、今度は書類書きの山だ。

 あげくに収入印紙を貼ったりマイナンバーカードを提示したり、写真を撮ったり。

 書類を上げたらちょうど講習が始まるから行けと講習室に押し込められた。

 おかげでまだ昼飯も食べていない。

 講習内容も人に向けて撃つなとか、そんな基本的なことばかりだ。


 講習が終わって宿を取ったら何を食べようか。

 真司は腹が減っているのでそんなことを考える。

 魔王城があって結界があるのは群馬県。

 だが宿は県境の峠の長野県側、長野県高山村にある。

 長野県高山村営ロッジ『ヒュッテ毛無峠』。

 宿泊場所としての機能の他、郵便局、地元特産品販売所兼コンビニ、レストランと生活に必要な機能が一通り揃っている。

 中でも有名なのがレストランだ。

 元々はワインや小布施の栗が名物だったが今の名物は魔物ジビエ。

 ついこの前もネット動画で頭のネジが4本くらい抜けたような配信者がオーク肉バーガーを頬彫りながら、

「うめー、やばい、うめー」

とか絶賛していた。それ以外の語彙がないのかお前は。

 そんな感想はおいておいても、オーク肉ハンバーガーとかは食べてみたい。

 牙ウサギの煮込みシチューやオーク肉ステーキはちょっとお高いからやめとくけれども。


 そんな事をぼーっと考えながら、真司は一応講義にあわせて教科書をめくる。

 ちなみに教科書代をあわせた講習・許可証発行代金で五千円が飛んで行った。

 他に討伐実績カウント用アクションカムのデポジット代金が五千円。

 合わせて一万円だ。

 討伐代で払うなら、ゴブリン4匹狩らないと元が取れない。

 でもそのおかげで講習生のガラはそんなに悪くないようだった。

 犯歴なしが条件というのもあるのだろう。

 講習生は10人程。

 ほとんどは社会人が遊びのライセンスをとりますよ、って感じだった。

 つまりこれで生活していこうという奴は、おそらくこの中で真司だけ。


 講師が話を止め、パワーポイント画面が消える。

 どうやら講習も終わりのようだ。

 各自に配布された許可証と実績カウント用アクションカムをポケットに入れ、真司は大きく伸びをうってから大荷物を持って部屋を出る。

 そう、まだ荷物も置いていないのだ。

 まずは宿に行こう。荷物を下ろそう。

 そう真司は思った。

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