18 聖女を求める旅人たちの饗宴3
「何でも、数日のうちに聖女様の準備が整ってまたお会いできるんですよ」
嬉しそうにディランが言う。
「――また?」
「ええ。最初の方に一度、お目通りとでも言うんでしょうか。いやあ凄いです。何の病気か、ちょっと手をかざしただけでわかるんですからさすが聖女と言うべきか」
「実際に会ったことがあるのか!?」
ワールドの声が大きくなる。
「? はい、一度だけですが」
「どうなさいました? やはり聖女様に何かご入用で?」
ロマンが不思議そうに言う。
「そうじゃない。村の誰に聞いても聖女を見ていないって言うもんだから気になってな。聖女ってのはどんな人なんだ」
怪しまれないよう、落ち着いた調子でワールドが問う。
「見た目は普通の村娘といった感じでしょうか。ちょうどジョンや、ここの娘さんと同い年くらいの少女でしたよ。しかしまぁ、治療中と言いますか診察中と言いますか、その時は神秘的な雰囲気を感じました。何でも治せるという触れ込みも信じられますね」
ディランの言葉にジョンが小さくうなずく。
「やはりか……」
ワールドが聞こえるか聞こえないかの声で呟き、ロマンが無言で見つめていた。
「そろそろ僕たちは部屋に戻りますね」
食事を終え、ディランとジョンは席を立つ。
周囲を見ても、食事で訪れていた客もほとんど帰っていた。
「もうお開きだな」
隣のテーブルの様子を伺う。
論争は終わり、すっかり普通の食事風景となっていた。
「どんな病も治療できる聖女様、と」
二人が席を立ってから、ロマンがポツリと呟く。
元の席に戻ろうと立ち上がったワールドが向き直る。
「その聖女様が一番の病気なのでは、と私は思いますがね、なんて」
彼は明らかにワールドにだけ聞こえるように言っているようだ。
「どういう意味だ?」
ロマンの意図を勘ぐるように問い直す。
「あの二人はお話を聞く限り、聖女の力を求めています。私から見ると盲信していると言っても過言ではありません。流石に彼らの前でこのような物言いはどうかと思いまして」
「アンタは違うと?」
「もちろん信じていないわけではありませんが、少しニュアンスが違いますね。救いを求めているわけではありません。それが真実であるかを見極めたい、といったところでしょうか」
その言動に悪意や猜疑心は感じられず、本当にただ淡々と事実を述べているようだった。
「もしかしたら、と思いまして。貴方は聖女の噂を知りながらその力を求めていない。となると考えられるのは私と同じなのでは、と。つまり、聖女そのものを求めているのでは、と」
「聖女、そのものか……」
「ああ、もちろん人さらいとかの類ではありませんよ。存在するだけでいいのです。私にとって存在そのものが意味のある事象なんですから」
ロマンは態度も声色も何一つ変えず、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
あの無表情メイドにどこか似ている、とワールドは思った。
「……アンタ学者って言ったな。なら、アンタの」
「ええ。私の研究対象は『天使』――天使病罹患者ですよ」
その男は。
はっきりと言った。
間違いなくこの
「――なんだと?!」
長いようで短い宴は終焉を迎えた。
やや気落ちしながら立ち去るコバルトと後ろで安堵の表情を見せるサヨ、その隣で相変わらず表情を変えないミント。
あれからどうなったのかわからないが、4対1では勝ち目がなかったのだろう。
「良かったですね、明日は食べてくれるそうですよ」
サータが嬉しそうに話しかける。
見ると、コバルトに出されていたアップルパイはきれいに無くなっていた。
「今日はサータたちで分けて食べました。でも、明日はおじ様もちゃんと食べると約束してくれました! ウェンディちゃんを悲しませずに済みました」
「……そうか、良かったな」
フード越しに頭をぽんと撫でる。
かなり満足そうだ。
「この子は怒らせちゃいけないわ……」
グラはかなり疲れた表情で椅子にうなだれている。
「……そうだな」
同情の眼差しを向けながら、グラに同意した。
「――さて、それじゃアタシもちょっと村を見て回ろうかしら」
暫くして元気を取り戻したサータが言う。
「お姉さま、出歩いて大丈夫ですか!?」
心配そうにサータが声を上げる。
「夜なら日傘も要らないし、こんなのどかな村だと危険もないでしょ」
「そ、それはそうかもしれませんが」
「まあ、こいつなら暴漢だろうが余裕で返り討ちだ。それに夕方見た感じだと、俺は心配ないと思うがな」
「ワールド様もそうおっしゃるのなら……」
「サータ、アンタはどうする?」
「そうですね。ご一緒したいのは山々ですが、何故か少し疲れてしまったのでお部屋で休もうかと……ごめんなさい」
「ちょ、謝る必要なんて無いって! ……そりゃあ疲れたでしょうよ」
後半はサータから目を逸らしてグラが言う。
「俺はもう少し、この男と話がある。先に戻ってくれ」
そう言って、ワールドはロマンの方を見る。
ロマンも無言で頷く。
こうして、三人はそれぞれ別行動を取ることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます