04 旅する罹患者2
「あーもう、辛気臭い話はこれでオシマイ! ねっ」
サータの肩を叩き、明るく振る舞う彼女の姿に嘘偽りはない。
それは幼い頃に見た姉の姿そのものだった。
「うーん……あっ、ほ、ほらっ。この木、何か果実がなってるわ。サータ、ちょっと離れてなさいな」
「離さないと言ったり離れろと言ったり、忙しいお姉さま」
「いいの!」
上手い返しが浮かばず、無理やりサータを木陰から遠ざける。
「はっ!!」
そして一息つく暇もないほどの刹那、グラはその木に見事な裏回し蹴りを決める。
轟音とともに軽い地響き、そして次の瞬間、頭上からこぶし大の木の実やら大量の落ち葉やらが降り注ぐ。
グラは日傘で払いつつ躱していく。
「さっ、食べましょう」
「お姉さまの照れ隠しは豪快なのです……」
「お姉さまは昔から多少お転婆なところがあったとサータは記憶していますが」
「うん、否定はしないわ」
「ここまで女傑になっていたとは驚きです」
「褒めてないわよね、それ」
「いえ、いえ、大変素晴らしいことだと思います。サータは憧れます」
彼女は本当に一切の悪気がないのだ。
「うっ……そんな尊敬の眼差しを向けられても、それはそれで困る」
グラは言葉を詰まらせる。
ワールドくらい自信家でいられたら良かったのに、と思う。
彼女はそこまで強くなれないのだ。
「この格闘術、っていうのかしら。これもその旅人から教わったのよ。凄いわよ、その人。護身術から格闘技、ありとあらゆる体術を身に着けていてね。最後まで勝てなかったわ」
「そんなに凄い方だったのですね……あ」
「どうしたの?」
「も、もしかしてお姉さまはその方に一目惚れしてついて行ったとか……?」
「あはは、ナイナイ! だってその人、女性だから。それなのにたった一人で旅をしていたってのは、まあ、ちょっと憧れみたいなのはあったかもしれないけれど」
「そ、そうでしたか……。良かった」
「ん?」
「いえ、いえ。よもやワールド様と三角関係になってしまわれるのではないかと心配で」
「なっ、なんでアイツの名前が出てくるのよ!」
「お似合いだと思うのですが」
「どこがよ!」
「まったくだ」
気付けば、二人の後ろでワールドが仁王立ちしていた。
「げっ」
「地響きがしてまた新たな地割れでも出来たのかと思えば。まさかこんな大樹がサンドバックにされていただけとは誰が予想出来ようか」
「誰も気晴らしに叩いたりてないわよ。ほら、この果実を採ろうとしたのよ!」
そう言って落ちた果実を一つ手に取り、豪快にかぶりつく。
「渋っ」
まだ成熟していなかったらしく、青々とした苦味が彼女の口内を襲っていた。
「お姉さまは昔から多少お転婆なところがあったとサータは記憶していますが」
「今それを言わない!」
「良いかサータ。俺とこいつは依頼を引き受けた側と依頼主の関係だ。いわばビジネスパートナー。それが夫婦漫才のごとく仲睦まじく見えたのなら、俺の弛まぬ努力の賜物に他ならない」
「全部アンタの手柄かっ!」
「その速度、勢いといい合格だ。俺にツッコミを入れるなら日々精進してもらわねば困る」
「その師匠ポジションからの上から目線は何なの」
「芸の道においては俺の方が熟練者だと思うのだが」
「アタシは芸の道なんて目指してないっての」
「大道芸人ではないのか!? 瓦を何枚割れるかとか、回し蹴りで木の板を真っ二つに割ったりするタイプの」
「ああー、それだったらアタシにも出来そう……って、なんでそんなことしなくちゃいけないのよっ!」
「ふむ、ノリツッコミも出来る、と。お前意外と達者だな」
「ダメだ……これ以上続けたら相手の思うツボだわ」
「おおーっ、息ピッタリです」
そしてもう十分相手の思うつぼだと思うのです。
そう言いたくなるのをぐっとこらえて。
小さくパチパチと拍手しながら、感嘆の声を上げるサータであった。
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