02 旅する芸術家
「こっちの道も駄目だ」
ワールドが立ち止まる。
彼の目の前には巨大な地割れが広がっていた。
飛び越えることも難しく、一度呑み込まれてしまえば生きて這い上がるのは至難の業だ。
「落下防止の柵が設けられてもいないし、最近出来た地割れだな」
それほど驚いた様子もなく、よくあることのように彼は言葉を続ける。
「地面の割れ目に沿って歩いていけば、遠回りになるがいつか向こう側に渡れるさ」
と、口では言いつつその場に腰を下ろし、紙とペンを取り出す。
「……何やってるの」
日傘の影がワールドを覆う。
「何って、見たらわかるだろ。描画だよ」
振り向くこともなく言い放つ。
「それはわかってるわよ。なにを、じゃなくてなんでかって聞いてるのよ!?」
姿勢を低くし、ワールドの耳元で大きな声を上げる日傘の少女――グラは不機嫌そうに口を歪める。
「うん? 羊皮紙と水墨だが。三度の飯より筋トレが好きなお前が芸術に興味を持つなんて天変地異でも起きるんじゃないか――ああ、すでに起きていたか」
グラを一瞥し、あしらいながら再び眼前の地割れに注視する。
「道具じゃなくて理由! ああもう、芸術家気取りのくせになんでこうも理屈屋なのかしら!」
「キャンキャン喚くな。煩い」
「うがーーっ!!!」
「まぁまぁお姉さま落ち着いて」
日傘の下に入り込む、フードを被った同じ顔の少女――双子の妹、サータである。
「……まぁ凄い! 流石ワールド様、お上手な絵ですね。サータは感動しました」
「そうだろう、そうだろう」
「サータはこいつを甘やかしすぎよ。そりゃあちょっとは絵が上手いかもしれないけれど……うわっ」
何か乏してやろうと思い絵を見たグラは絶句した。
あまりに見事な絵だったのだ。
「絵画は、というか平面は俺の得意分野ではないのだが、これくらいはな」
「ワールド様の得意分野というのは」
「いわば立体だな」
「得意分野ではないのにこの出来栄え! 大変素晴らしいです。サータ、感激ですっ」
「はっはっは。もっと褒め称えても構わんぞ?」
「……あの、そろそろ話進めていいかしら」
二人のやり取りをジト目でグラが見ていた。
「こんな出来たてホヤホヤな『大災害』の傷跡があるのに、それを描写して残しておきたいと思うのは当然のことだろう。それがたとえ芸術家気取りだろうとな」
芸術家気取り、の部分でやや語気を強めながらワールドが言う。
この男、なかなかに気難しい。
「ごめんなさい。じゃあ『芸術家気質』って言い直すわ」
「ならば良し」
「良いんですね……」
そしてこの男、意外と単純であった。
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