第265話今は今。。
土曜日の朝。
レッスンルームへ向かう。キャサリンを励まして来たが正直、私も怖い。これが皆で集まる最後になったら辛い。
入学した時は友達なんて要らないと思っていた私が笑えてくる。
皆、納得してくれるかな。
扉を開ける。キャサリンと会長が緊張した様に座って居た。
「おい!」
ルイスが直ぐに駆け付ける。
私達は神妙な顔で見つめ合う。
「いよいよだな。」
「本当に2人は黙っていても良いのに。」
「またそんな事言う!」
キャサリンはまた会長に怒られた。
ガラガラと扉が開きカインとクライス。
「おはよー!早いね!」
「何か深刻そう?」
顔色に気づいたのか2人が心配する。
その後皆が揃った。
「練習の前に話したい。」
会長が徐に口を開いた。
「どうしました?何か最近、4人とも変でしたけど?」
王子が鋭い。
「僕達4人には皆に隠して来た秘密がある。本当はこの事は墓場まで持って行くつもりだったんだけれど。」
会長が苦笑する。
「御願い。疑われても良いけど嫌いならないで。」
キャサリンがもう既に涙目。
「ちょっと!キャサリンどうしたんですか!?」
王子はオロオロと慌てて立ち上がる。
「落ち着け、王子。と言うか私達もまだ躊躇している。今日でこの関係が終わるかもしれないし。解散の危機かもしれないと思っている。」
私も非常に不安なのだ。解散の危機?皆、首を傾げた。
「前世って信じるか?」
ルイスが口を開いた。
皆は突然の問に一瞬何故?となったが。
「輪廻転生説か解らなくもないですよ。」
「死んだら神様の所に行くんだよね?でも生まれ変わる。」
と答えていた。
カトリックに似て非なるこの世界の宗教観。
少し仏教が混ざっている。
「僕達に前世の記憶があるって言ったら信じますか?」
会長が口を開いた。
「え!?前世?」
王子が目を丸く見開く。皆もキョトンとしている。
「それは、えーと?記憶があるって事ですね?」
それだけ真剣ならとカインが聞いてきた。
「ある。」
会長の一言に皆、真剣な顔つきになった。
「信じなくてもまあ、構わない。けれどちょっと一大事なので先ずは聞いて欲しい。僕から話すけど良いかな?」
会長は私やルイス、キャサリンを見つめて確認した。
私達は頷く。
「先ずは僕ら4人の前世はプラゲ国人だ。色々知っていたのにその節は知らないフリをしていてごめんなさい。」
「え?あー。なるほど。」
王子が少し思い当たる節があるのか頷いた。
「生きていた時代はルナリーとルイスは同じで前世から仲間だった。キャサリンと僕とこの2人は生きていた時代が違うし接点はない。」
会長の言う事に皆、大人しく頷く。
「生きていた時代は今から100年~120年?もっとかもしれない。それくらいの未来になる。何故、未来なのかは解らないが今より文明が栄えていたので未来だと僕らは確証している。」
「未来?未来から過去に?」
クライスが首を捻る。
「想像付かないだろうけれどね。普通は過去から未来へだし。しかし、プラゲ国も僕らの時代には日本と呼ばれていたし。歴史の教科書で光国さんや夏目さんは載っていて習った。」
会長が黙ると皆、難しい顔つきで考え込んでいるようだ。
「未来から過去のこの世界へか。有り得ない様だけど有り得たって事ですね。」
王子が脳内を整理する様に呟いた。
「ごめんなさい。それで信じなくても良いけど。どうしても謝りたい事があるの!」
キャサリンが立ち上がる。
「私達が今まで作った曲は未来の曲なの。ごめんなさい!!自分で作った訳じゃ無いの!騙してごめんなさい!」
キャサリンは頭を下げて顔を上げた時はもう涙目だった。
「本当にそれに関しては私もごめんなさい。」
「俺も皆に同じ。ごめん。」
「許して欲しいとは言えない。取り敢えずごめんなさい。」
全員で頭を下げた。
王子はなるほどと腕を組んで頷く。
「良かった!僕が才能無い訳じゃなかったんだ!」
それを聞いた他の皆も口々に
「そっかぁ!安心したー!」
「特にプラゲ国での行動とかね!良く勉強してると思ってたもの!」
「私も才能無いと思って焦ってました。良かったぁ!」
「だから衆道とか詳しかったんですね!!」
徐に会長がまた口を開いた。
「何故この時代のこの国に生まれたかは僕らも解らない。全ての記憶がある訳でも無いし。歴史に関してはボードウェン国の事は解らないからそこは聞いても無理だよ?」
「大丈夫です。未来は知っていたらつまらないですよ。」
王子は笑う。納得したのかなあ。
「キャサリン、別に前世の記憶があっても良いじゃないですか!寧ろルナリーや会長やルイスと仲良しな原因が解って安心しました。」
王子は気にしていたのかそう言った。
「怖く無い?変じゃないですか?」
キャサリンが泣くので王子は堪らず側へ寄って行く。
キャサリンの頭を優しく撫でて
「正直、納得する事ばかりです。今までの辻褄が全部合いました。僕は前世の記憶は無いですがあったら僕も悩んだと思います。」
そのままギュッと背中から抱き締める。
キャサリンはポロポロと泣きじゃくった。
「ねぇ!いつ解ったの?皆、同じ国の前世の人って?」
クライスがワクワクした様な目で見詰めてくる。
「えーと。私の制服。」
私は制服の裏地に刺繍した『紅夜叉特攻隊長』の文字を見せた。
「あっ!漢字だ!!!」
皆、そう言えば何か見た事あった!と言い出した。
「これ入学時から入れてたんだよ。見た奴は解るだろ?」
我ながら良い言い訳だ。
「そっか。刺繍文字で。」
「同じ国の人には解るんだ。」
そうそうと会長もルイスも調子を合わせて頷いた。
「ねえ!なんでそんなに疑わないの?怖くない?変じゃ無い?」
泣き止んだキャサリンが皆へ呼び掛けた。
「別に前世の記憶があっても良いんじゃない?」
とクライスが微笑む。
「不思議な感覚なんでしょうね。現実と過去があるって言うの。」
とエミリア。
「あのね。これだけ僕達ってずっと一緒に居るんですよ。疑う訳無いでしょう?4人が嘘言うなんて思わない。」
王子が私達へ満面の笑みを見せた。
「それにね!前世は前世。今は今。」
王子に言われて私達は多賀が外れたように涙が出てきてしまった。
それはずっと悩んできてずっと自分達ではそう言い聞かせて来た言葉。
今は今。。
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