第153話ギリギリ!

公家の歩きは上品で遅くそれだけは助かった。


御所内は雅って言う言葉が似合う。


長い外廊下から見える庭園が美しい。枯山水とか言うのかな?庭の事は詳しくないけど。




ああ。彼処の部屋何だろうな。グレンさん何処に隠れているんだろう。部屋の前にはまだ10歳くらいの小姓が2人居た。


『此処でもう大丈夫です。1人で行けます。』


公家にそう言うと少しムッとされたが僕が1人で歩いて行くのを確認して去ってくれた。


ふぅ。大きく深呼吸する。


まだ光国殿は来ないんだろうな。


「おい!大丈夫だ5分待って誰も来なかったら突入する。」


小声だったがボードウェン語が聞こえた。


キョロキョロと探すと外の庭の木の上にグレンさんが居た。忍者かよ。頷いて中に入る決意をした。




5分ね。何とか時間を稼ぎましょうか。


光国さんの事を考えたらやられても、、良いんですけどね。


カラカラと木戸を開ける襖があった。高級旅館見たいな造りだな。


『失礼致します。』


『よう来た早う入れ。』


中から権中納言の声がする。




中は畳張りで御簾が吊るしてありそこに布団が敷かれている模様。


『待ちくたびれたぞよ。』


『すみません。湯浴みしておりました。』


そう言うと御簾越して頷いている姿が解った。


『愛いやつよ。』


気持ち悪いって。


『早う此方へ来い。』


と言うので、脱ぐので待って下さいと言った。




『権中納言殿はお年はお幾つ何ですか?』


シャツのボタンを外しながら聞いてみた。


『30になる。』


思ったより若かったな。光国さんは17歳だっけ?




『いつも外国の方とこういう事しているんですか?』


シャツを脱ぐ。


『何故その様な事を聞く。知らんで良いわ。』


少し不機嫌そうな声が聞こえた。


『焼きもちですよ?』


自分でも、気持ち悪いがふふっと笑って見せる。


『異国の者は初めてぞよ。可愛い子が来たことは無かった故。』


嬉しそうだ。キモい。


外交に支障は特に出てないか。それは安心した。




上半身は裸になり制服のベルトを外す。


何分経ったかな。




焦らすにも限界かな。諦めるか。




ドタバタドタバタ!!!


外の廊下で凄い音がした。


「あっ。間に合った。」


思わず声が漏れた。




襖が勢いよく開けられ


『ケビン殿!無事か!!』


と光国殿が叫んで入ってこられた。


上半身裸の僕と目が合う。


「取り敢えず。」


と答えるとホッとした顔をされた。




『光国!!!何しに来たのじゃ!邪魔するで無い!』


権中納言がぶちキレている。


ゾロゾロと皆もやって来た。


「会長!!良かった!」


「会長ー!!!」


皆の顔を見ると緊張の糸が解けて涙が出そうだ。




皆に続いて見た事が無い人物がすっと入って来た。


着物姿で公家では無い。誰?


偉そうに見えないけど大丈夫な人物なのか?若そうだし。




『光国!!ふざけた真似をしおって!』


権中納言がキレて御簾から出て来てその人物と目が合った。




『えぇぇ。何故此処に居られるのでおじゃるか?』


明らかに狼狽している。




『権中納言殿こそ。何しようとしていたんですか?』


『いや、麿はその。あの。』


青年は狼狽える権中納言を見下した様に見ている。




『口説いていたのは私だけでは無かったのですね。』


そう言う関係?


『男なら誰でも良いのですか。少しは貴方の言葉に気持ちが揺らぎそうになっておりましたのに。残念です。』


青年はくるりと後ろを向きさあ、皆行きましょうと促した。




『待ってくれ!元章様。麿はそなただけしか思って居らぬのじゃ。これは遊び。お遊びで。』


必死で権中納言は引き留めようとしている。




『ふん。遊びか。また貴方の思いが信じられ無くなりました。暫し反省して下さい。』




彼はさあ、さあと僕らを部屋から追い出し襖をピシャリと閉めた。




『今のうち!走るぞ皆の衆!』


光国さんに、言われて皆で長い廊下を走った。


僕はまだシャツのボタン閉めてないけど。助かった。元章?誰だろう。




途中の公家が彼の顔を見て驚かれたり、頬を赤くする奴も居た。


モテモテな人物なのかな?




漸く御所を出た。


はぁはぁ。皆の息も上がる。


『さあ、乗れ!』


用意されていたバスに乗り込んだ。




「あー。良かったあー!」


ルナリーがホッとした叫びを上げる。


「会長!!ごめんね!」


「会長、僕らの為にありがとう!」


クライスとジョージに2人に突然抱きつかれて、うん。大丈夫だからと言うので精一杯になった。


ドキドキするじゃないか!!!




『さあ、座れ!車を出すぞ!』


光国殿が喜びで騒ぐ僕らに笑顔で言った。




バスが走り出すと本当に安心した。




『紹介する。本当に感謝するぞ観世殿。』


光国殿が先程の青年に声をかけた。




『観世元章(かんぜもとあきら)と申す。普段は左近と名乗っておる。能楽の観世流の本家の者で光国殿とは友かな?』


『友であろう!昔からよう遊んだではないか!』


光国さんは笑いながら観世殿へ突っ込みを入れていた。


観世流?あっ!観阿弥世阿弥か!!


昔、習ったじゃないか!


脳内の歴史的記憶が繋がった。能楽や歌舞伎役者ってアイドルだもんね。


時代設定的に合ってる人物かは不明だが観世流って言うのは確かに有名。


権中納言は常々、観世殿を口説きまくっていた大ファンで何度も何度も振られていると光国殿は笑って言った。


と言うか観世殿は権中納言が大嫌いだそうで顔も見たくないと言っているのを無理矢理連れて来たそうだ。




1番丸く納められる人物。権力者では無く色恋沙汰に色恋沙汰でかたをつけるとは流石だな。




大変だったけど。


僕の役得は隣にクライス、反対側にジョージ。笑顔で話しかけてくる。好感度上がりまくりってとこかな?

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