第2話 地球のペンフレンド

 ※※※


 今、私は修学旅行の真っ最中です。

 しかも宇宙旅行なのだからビックリするでしょう?


 でもね、私たちは宇宙に住んでいるの。何時も書いてるから知ってるよね。住んでるのは木星の衛星ガニメデ。


 だから宇宙旅行は当たり前。


 今年は木星と土星の距離が近いから、修学旅行は土星の環を見るツアーになった。

 土星の環って写真では見たことがあるけど、実物を見るのは初めてなんだ。だから今からドキドキわくわくしてるの。


 目の方は大丈夫かって?


 ええ、大丈夫よ。

 私の傍には視覚支援アンドロイドのマナちゃんがいるから。

 彼女と一緒なら目は見えるの。

 彼女と手をつなぐと何でも見える。


 一番うれしいのはこうして手紙が書ける事。

 もうすぐ食事だから今日はここまで。


 土星に着いたらまた書きますね。


 ではでは。


 地球に住んでる素敵なお兄さんへ


 ヒナより


 ※※※


 私はメールを送信した。

 地球にいる友人へ宛てた手紙。

 時々は本当の手紙、紙に書いた手紙を送るのだけど今日はいつもの電子メール。


 返事が来るのは早くて1時間半。地球まで電波が届くのに40分位かかるから。

 でもそれは、電子メールなのに紙の手紙を書いているような、時代遅れのような、不思議な気分になる。時間がかかることは悪い事じゃない。送ったメールを読んでくれたかどうか、どんな顔をして読んだのか、そして、どんなお返事を書いてくれるのか。


 そんな事を想像するのがすごく楽しい。


 遠い遠い所にいる大切なお友達。

 彼のお陰で私は楽しくて仕方がない。


 携帯端末にメール着信のアイコンがポップアップした。キツネの獣人が躍りながら教えてくれる。「メールが届いたよ♡」って。

 彼からの返事なら早すぎる。そう思って早速メールを確認した。

 それは昨日、私が送ったメールの返信だった。


 ※※※


 ヒナちゃん。

 今頃は土星に到着しているかな?


 僕からすれば宇宙旅行は夢のまた夢です。

 もの凄くうらやましいです。


 ヒナちゃんからのメールを読んで、僕も一緒に旅行しているような気分になります。


 写真を送って欲しいな。

「土星をバックにピースサインをしているヒナちゃん」的な画像を希望します。


 よろしくね。


 地球のお兄さんより


 ※※※


 キタ――(゚∀゚)――!!


 私は両手を上げて万歳していた。


 途端に視界が暗転する。

 馬鹿。自分でマナから手を離しちゃった。


 手に持っていた携帯端末が誰かに取られた。そして、床に落ちた音がした。私はマナの手を取って周囲を見渡す。


 ここは、宇宙船の中のレストラン。私が座っていたのは一番窓際の四人掛けの席だったけど正面には誰も座っていない。私の隣にはマナが座っている。

 すぐ後ろに幼馴染の豊介がいた。


「ホースケ。貴方なの」

「違うよ。僕じゃない。僕も今携帯いじってたんだ」


 豊介はとっさに首を振る。

 こいつはイタズラ好きだけど、携帯を放り投げて知らん顔をする様な陰湿な事はしない。


 床に落ちている携帯端末を拾ってくれるクラスメイトはいなかった。アンドロイドのウェイトレスが拾って私に届けてくれた。それはつまり、あいつが犯人だって証拠だ。


 豊介の席の横に立ち、こっちを睨みつけているあいつ。


 如月きさらぎ雲母きらら。クラスを牛耳っている女王様気取りの問題児だった。 

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