第3話 嫌われっ娘はクラスに憚る


 私を睨みつけている彼女、如月雲母きさらぎきららはいわゆるいじめっ子だ。知能犯で、しかも大企業の会長の孫とかで学内カーストでは最上位に君臨しているのだから始末が悪い。


「あらごめんなさい。ちょっと手が当たっちゃった」


 謝罪したとは思えない言葉を残して去っていく雲母。彼女は私の事が大嫌いだった。なぜなら、お金持ちのあの子でも手に入れられないものを私が持っているから。それは視覚支援アンドロイドのマナだ。

 マナは昨年、ハイジャック事件で大活躍した。彼女のおかげで事件は解決したの。マナは私と一緒にニュース映像で紹介されたんだけど、それがとにかく気に入らなかったみたいだ。そしてマナを大親友として可愛がっているのも許せないらしい。アンドロイドは道具。彼女からすれば人間に奉仕させるのが当然で友達関係なんかあり得ないそうだ。

 

「また悪口が記載されています。どうしますか?」

「ログの記録だけお願い」

「わかりました」


 マナにはネット上の情報を監視してもらっている。

 これは、雲母が主催するクラスの裏SNSでの話。雲母と、雲母の取り巻きが構成員なんだけど、その情報は私に筒抜けなの。

 マナは物凄い高性能。彼女の姉はララと言う名で、レスキューチーム・ビューティーファイブに配属されている。宇宙船のワープ航路なんかを一瞬で計算する凄い機能を持っている。マナも計算機能は同じで、そんな彼女が見張ってくれているのだから、ネット上での隠し事なんて無いのと同じなんだ。

 以前、教室の机に酷いいたずら書きをされたことがある。その時マナは、ペンの種類や指紋、筆跡から犯人を特定した。もちろん雲母だったけど、彼女は別の娘を身代わりに自首させた。学校側はそれで解決したと思ってるんだけど、私は納得できなかった。ニヤニヤ笑いながら、これっぽっちも悪い事したと思っていない別の娘に謝罪されて納得するわけがない。


 その後、私へのいじめはネット上での悪口になった。

 委員長主催のクラス専用SNSが主な戦場だったのだけど、私はそういうのを殆ど読まないし書き込まない。だから、何回火をつけても炎上しなかった。

 私が反応しないので、悪口を書くのが面白くなかったのだろう。私の周囲の人たちへと攻撃対象は変わっていった。幼馴染の豊介や友達の由紀子や紀里香も悪く書かれた。豊介も、彼女たちも嘘はやめてと必死に戦っていたみたいだけど、それは火に油を注ぐようなものだった。彼らは、私から離れたら平穏になることを覚えた。そして私の周りにはマナだけが残った。


 私は元々集団であれこれするのは性に合わないから、一人ぼっちの方が気が楽なんだ。それはもちろん面白くないのだけれど、私の周りが殺伐とするよりはずっと良いと思っていた。

 そんな時、マナが裏サイトを見つけた。彼女にかかればこのレベルのSNSならセキュリティは無いのと同じなんだって。

 そこでは事前に計画が立てられ、足を引っ張ったり弱みに付け込む材料が集められていた。これって幽霊の正体見たり枯れ尾花みたいな気分かな。情報収集、作戦立案、実行の流れが手に取るように分かった。

 私も最初は興味津々で追っかけてたんだけどすぐに面白くなくなった。だって、女の子なら恋の話とか、おしゃれなんかに興味があるでしょう。だけど、延々と揚げ足取りや悪口言うのはすぐに飽きてしまう。


 食事を済ませた私はマナと右舷側の通路を歩く。外が見えるようになっているんだけど、大体何も見えない。船内が明るいから星はほとんど見えないんだ。


 そこへ由紀子が走って来た。


「マナちゃんに来て欲しいの。部屋の鍵が開かなくなっちゃって」


 マナは私の顔を見る。

 私は頷いた。


「良いよ。行ってあげて」

「ここで待っててください」

「うん。早く帰ってきてね」


 私の言葉に頷いたマナは、私の手を放して行ってしまった。

 途端に視界は暗転し何も見えなくなる。

 ちょっと不安になったけど私は自分に言い聞かせる。

 大丈夫、問題ないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る