第2話 他の娘にトキメクのは浮気ですか?
「緋色君。大丈夫?」
「??」
メガネをかけた美少女が僕の目の前にいた。
「僕はどのくらい気を失ってたんでしょうか」
「十分くらいかな。ここに運ばれてしばらくしてから意識を取り戻したよ。注射が効いたんだね」
そう言って僕の顔を覗いていたのは丸顔の可愛らしい少女だった。
めまいがした。
有原羽里と黒田星子じゃないか。ビューティーファイブのメンバーが二人、僕の両側から僕に寄り添っている!
僕はどうやら医務室のベッドに寝かされているようだ。上着が脱がされ上半身は下着だけになっていた。そして下半身は……。
すっぽんぽんだった。
医師と看護師が僕の股間をのぞき込んでいた。そして何やら治療器具を当てている。僕が意識を取り戻した事に気づいた中年の医師が声をかけてきた。
「まだ痛みはあるかね」
そう聞かれて思い出した。あんな酷い痛みは思い出したくなかったのだが、しかし今は何も感じない。
「大丈夫です。痛みはありません」
「それは良かった。上手く麻酔が効いているようだね」
「それで僕はどうなってるんですか?」
「とりあえず君の睾丸は無事だ。特に外傷はないよ。痛みは数日で取れると思う。その間は痛み止めを飲んだ方がいいだろうね」
その一言でほっとするのだが……羽里ちゃんと黒子ちゃんの視線は僕の下半身に釘付けじゃないか!
「あの……ズボンを履いていいですか?」
「まだ治療中です。痛みが長引きますよ。それと、生殖機能が失われてもいいんですか?」
看護師にビシッと言われた。この看護師も女性で結構綺麗な人だった。
自分はどんな経験をしたんだ。まだ童貞なのにアイドルの相生副長に抱きつかれて股間を蹴られ、羽里ちゃんと黒子ちゃんには剥きだしの股間を見つめられている。重ねて言うが、僕はまだ童貞だ。二十一歳になってもまだ童貞なんだ! それなのにそれなのに……。
そんな馬鹿な事を考えているうちに何か忘れている事に気が付いた。そうだ。相生副長から伝言を頼まれていたんだ。
「すみません。相生副長から伝言があったんですけど。超絶重要機密事項なんです!」
相当焦った。直ぐに伝えなければいけない情報なのに10分以上経過してるじゃないか。
「それは大丈夫。集音マイクで音声は全て拾ってます」
黒子ちゃんが笑顔で答えてくれた。少し安心した。
「おじい様には連絡しました。現在こちらへ向かわれております。そして、ハッキングの方も順調に推移しています。何も心配される事はありませんよ」
左手でメガネのツルを持ちながら羽里ちゃんが説明してくれた。じいちゃんが来るんなら安心だ。それにハッキングができるなら核兵器も……本当に大丈夫なの? 相生副委長は羽里ちゃんなら可能って言ってたけど、羽里ちゃんここにいるじゃん!
僕は波里ちゃんを見つめていた。相当、怪訝な表情をしていたのだろう。それに気づいた羽里ちゃんが話し始めた。
「あら? 私がここにいたら何か不都合でも?」
「それは香織さんが『有原羽里なら可能だ』って言ったからじゃないの?」
「ああそうか。実はね。あの量子コンピューター搭載型アンドロイドのマナちゃんってね。超絶高性能なんだよ。いつもはね。全盲の女の子の視覚支援のために全機能を使ってるわけ。自分から見える映像をその子の映像へと変換してるんだ。視点がずれると見え方が変わるんだけどそれをリアルタイムで完全に補正してる。しかも、その子の眼球の動きに合わせてだよ。もうどんだけの情報を処理してるんだって位とんでもない高速大量処理なのよ」
そう自慢げに話す羽里ちゃんだった。人間の視点は常に動いている。それに合わせて処理するって言うのはとんでもないんだなって思った。
「つまり、そのアンドロイドのマナちゃんがハッキングを?」
「そういう事。それでその女の子は目が見えなくなるんだけど、それを香織さんがカバーしてくれているんだ。そしてそれが欺瞞行動になっているって」
今度は黒子ちゃんが答えてくれた。そして羽里ちゃんが続ける。
「ハイジャッカーの意識が相生副長とその女の子に集中するから、アンドロイドのマナちゃんは蚊帳の外になっているんだ」
「その通りだよ」
黒子ちゃんが親指を立てて笑っている。
何て可愛いんだ……。僕は黒子ちゃんのファンになってしまった。
いや、これは一時的なものだ。僕は相生副長のファンなのだ。これは一生変わらない。しかし、〇ンタ〇を蹴られたショックで僕の中の相生神話が崩壊しかけているのかもしれない。しかし、この程度は浮気ではないと思う。
「そろそろ時間よ」
「うん」
「じゃあね。緋色君」
「お大事に」
黒子ちゃんが投げキッスをしてくれた。僕はめまいがしそうなほどうれしかった。しかし、これは浮気じゃない。繰り返すがこれは浮気ではない。
二人は医務室から出ていった。
薬が効いて来たのか眠くなった。僕はそのまま眠ってしまったらしい。
目が覚めると、僕はホテルの一室にいた。
あれから数時間経過しているようだった。
僕の傍には祖父の竹内晋太郎がいた。
「目が覚めたか。この果報者め」
そういって僕の頭を小突く。
「事件はどうなったの」
「全て解決済みだ」
そう言ってモニター画面を指さす。それはTVのニュース番組だった。ちょうど飛鳥ハイジャック事件についての報道がされていた。今は相生副長がインタビューを受けている映像が流れていた。
「突入していただいた機動攻撃軍の皆様に感謝いたします」
「その突入口を開いたのがビューティーファイブだと」
「ええ。しかし、協力者がいなくてはそれもままなりませんでした」
「協力者とは誰でしょうか?」
「それは連絡役を務めてくれた竹内緋色君と、情報通信に専従してくれたアンドロイドのマナちゃんです」
こんなところで自分の名前が出るなんて思わなかった。画面上では相生副長へのインタビューが続いている。
しかし、祖父は僕の顔を興味深く眺めている。身内といえどもそんな風に見つめられるのは恥ずかしいじゃないか。
「緋色。お前あの娘を嫁にもらえ」
「嫁にって誰ですか?」
「鬼の副長に決まっておるだろう。ワシは脈ありだと見たぞ」
脈ありだなんて勘違いも甚だしいと思う。アレは単に事件解決のため都合が良かっただけ。
再びあの金蹴りの痛みを思い出す。
鬼の副長は健在なり。
彼女を遠くから見つめるのが自分の幸福なのだと思う。そう、手の届かないところにいるからアイドルは輝くんだ。
祖父は見合いとか仕組むのだろうが、それには徹底的に反抗する。
僕は固く心に誓った。
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