第8話 騒乱の後で

 その後、香織はマスコミのインタビュー攻勢に遭遇した。一通り答えてはいたが、あまりにもしつこかったので途中で切り上げてきた。それは緋色との抱擁が監視カメラに映っており、それが痴話喧嘩だと勘違いされたからだ。

 香織はそれをきっぱりと否定し、実行犯を騙すための芝居である事を強調したのだ。しかし、アイドルの恋バナに飢えているのかマスコミ側も引かなかったという状況だったようだ。


 緋色に関しては、股間を思いっきり蹴飛ばしたので潰れたりしていないかと心配していたのだが、特に問題はなく機能にも異常はないようだ。そして、緋色に伝言を頼む前からマナは情報を送っており、ビューティーファイブもそれを把握していた。結果論から言えば、あの金蹴りは不要であったわけだ。しかし、全ての情報を把握できていないあの状況下では致し方ない。緋色には気の毒だったが。

 それにしても飛鳥の天井をぶち抜いて戦術核を取り出すとは大胆な方法だった。香織はあのアンドロイドも戦術核もハッキングでコントロールできると考えていたからだ。


 今、香織はその事について話し合っている。


「なかなか難しいものですね」

「そうだねぇ」


 香織の目の前でニヤニヤ笑っているのは三谷総司令もじゃもじゃだった。


「ところで、竹内家からは苦情は来ていないよ。でもねぇ。あそこを蹴り飛ばすなんて大それた事がねぇ。よくできたねぇ」

「嫌味ですか?」

「そんな事は無いよ。ただねぇ。本当に潰れて緋色君がトランスしちゃったらどう責任を取るつもりだったの?」

「結婚すれば満足ですか?」

「そうけっここんん!?」


 三谷総司令もじゃもじゃがコーヒーを吹き出した。それが香織の顔にも少しかかった。


「気を付けていただけますか? 私もアイドルなので」

「済まない。いきなり結婚だなんて言うから驚いたじゃないか」

「もちろん冗談ですよ」

「分かっているさ」

「そこで、一度きちんと謝罪しておきたいのです。緋色君と食事できる席を用意していただけませんか?」


 再び三谷総司令もじゃもじゃがコーヒーを吹き出す。もちろん香織の顔に少しかかった。


「殴っていいですか。それとも金蹴りにしますか?」

「ぼ、暴力には反対だ。済まない。以後気を付けるよ」

「はい。で、お返事は?」

「あ、そうだった。実は竹内会長からね。君にお誘いがあってね」

「会長さんと会食ですか?」

「いや。緋色君とだよ」

「良かった」

「OKなんだね」

「勿論です」


 香織の返事を聞いて三谷総司令もじゃもじゃがほっと一息ついた。


「あのね。あの金蹴りはね。君が緋色君との会食を嫌がっていたからじゃないかってね」

「それは説明したはずですが」

「いやね。竹内会長がさ。そんな風に心配してたんだよ」

「それは杞憂です。ご心配なく」

「なら見合いでも?」

「金蹴りを御所望ですか?」

「いや、何でもない何でもない」

「ところで黒子は大丈夫なのでしょうか?」

「ああ、黒子の事だね。精密検査をしたけど異常はなかったよ。かなり近距離で爆発したんだけどね。概ね3000m位だったんだけど、浴びた線量は大したことなかったよ」

「そう」

「ショーグンは宇宙空間を飛び回る設計だからね。宇宙線に対する防護機能も充実してるんだ。だから核兵器の放射線にもある程度耐えられるんだ。その点はニンジャやサムライとはだいぶ違うんだよ」

「分かりました」

「他に何かあるかな」

「ありません」

「じゃあね。バカンスを楽しんでくれたまえ」


 汗を拭きながら三谷総司令もじゃもじゃが退散していく。

 ここは宇宙ステーション“コズミックフロント”内のカフェ。


 香織との面談はそんなに緊張する事なのか。香織が暴力を振るう事など今までは無かったのだ。犠牲になったのは緋色ただ一人である。襟首を捕まえたりネクタイを引っ張ったりも暴力の範疇だと言いたいのかもしれないが、香織の中ではそれは軽いスキンシップでしかない。


 ともあれ、今回のハイジャック事件は最小限の犠牲で解決することができた事にほっとしている。香織は緋色と食事をして丁重に謝罪するつもりだ。その後は地上に降りてゆっくりと羽根を伸ばそうと思っている。

 香織の脳裏にはいろいろな予定が浮かんでくる。子供の頃通った道場に顔を出したり、図書館に籠って読書三昧したり。そして、ララとマナの制作者である緋炭ひすみこう博士の下へ行きたいとも思った。それはむしろ優先順位は高い。今回、マナのおかげで事件を解決できたことに感謝の意を伝えなければいけない。そう心に誓っていた。


 そして香織の休暇が終わるころには新メンバーのコニーの研修も一通り終了しているはずだし、ララもメンテナンスが終わって復帰している頃だ。


 新しいビューティーファイブが動き始める。そんな予感に胸が震えている香織だった。

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