第3話 核装備のハイジャッカー

 マヤの放った弾丸は客室乗務員の眉間に命中し小さい穴を穿った。そこから鮮血が噴き出し、彼女は目を見開いたまま仰向けに倒れた。


 いくつもの悲鳴が上がる。しかし、マヤは冷静に周囲を恫喝した。


「動くな! 静かにしろ! 席を立った奴は殺す!」


 丸くて可愛らしい顔つきのマヤだったが、厳しい怒りの表情を露わにしていた。そしてアンドロイドの周囲にいた5名が武器を構えて全方位へと向ける。手に持っていたのはプルバップ式のアサルトライフルだった。トリガーより後ろ側に機関部を設けているプルバップ式は銃の全長を短くできる。しかし、彼らの持っていたそれはさらに銃身を短く改造されている様であった。


 どこからそんなものを取り出したのだろうか?

 

 当然、誰もが持つ疑問であろう。

 銃の出どころはあの大柄なアンドロイドの胴体部分からだった。


 介護用と思われていたアロウだったがそれは偽装で、実は武器を運ぶためのコンテナだったのだ。


 アロウの頭部が変形し大型のカメラアイが前後左右に四つ突出した。頭頂部から数本のアンテナが飛び出し、そして胴体から離れて天井付近に上昇した。

 アロウの胴体からはさらにいくつかの小型拳銃と軍用のナイフが突き出る。テロリストのメンバーはそれぞれその武器を手に取る。そして近距離通信用のイヤホンマイクも身に着けた。メンバーの一人がそのイヤホンマイクをマヤに手渡す。マヤはそれを装着した後アロウに命令した。


「アロウ。戦術核形態へ変形しろ」


 まともに残っていたのは胸の部分と両腕、両脚だったがマヤの一声で変形していく。パーツがバラバラになりそして再構成されていく。卵型で短い両腕と両脚が突き出ている可愛いらしい外見だが、恐ろしい言葉が込められていた。戦術核形態であると。


 香織は倒れている客室乗務員の手首をつかんで脈を診た。彼女は即死だった。見開いたままの眼を閉じてやる。そして、マヤに対して鋭い眼差しを向けた。

 しかし、マヤは香織を無視し男性の乗務員に向かって命令する。


「予定通り寄港しろ。具体的な指示は着艦後に行う。逆らうなよ。こいつには戦術核を搭載している。出力は広島型と同程度だがこのシャトルと宇宙ステーションを破壊するには十分な威力だ」


 男性の乗務員は青ざめた表情で頷きつつパネルを操作して連絡を取っている。


「着艦一分前です。お客様におかれましては今一度シートベルト着用のご確認をお願いします。また、危険ですので席を立たれませんようお願い申し上げます」


 型どおりのアナウンスが流れた。

 マヤは右手を元に戻して左腕を掴み引っ張った。肘から先が抜ける。彼女はそれを放り投げた。それはパーツが分離して変形を始めた。最初はパペット人形のような人型のものへ。そして次にはその人形が銀色の細い針金を人体状は張り巡らせ幼児位の人型となる。そしてその表面は見る見るうちに人間そのものへと変化していった。


「お待たせしました。マヤ様。リーベはここに」

「うむ。お前の担当はその女だ。相生香織、ビューティーファイブの副長だ。彼女から目を離すな」

「了解しました。マヤ様」


 リーベと呼ばれた人形、いや、アンドロイドなのか。その外見は金髪碧眼で白人の女児そのものであった。しかも女児用の黒いエプロンドレスを着ている。


「相生様。私は暗殺用アンドロイドのリーベと申します。主人からの指示は貴方の監視です。不審な行動をされなければ何も致しません。どうか短絡的な行動を取られませぬようお願いいたします」


 そう言って頭を下げる。

 暗殺用と言うにはあまりにも可愛らしい容姿だった。


 飛鳥は既にコズミックフロント内に設けられた宇宙港へと進入しており、着艦体制に入っていた。そしてゆっくりと固定用のアームが接続され停止した。

 少しの振動。電車が止まる時よりもその挙動は穏やかだった。


「ジャガー。手はず通りにやれ。勝手に殺すなよ」

「了解した。お嬢」


 ジャガーと呼ばれた大柄の髭男がニヤリと笑い前方の操縦席へと向かう。それに二名ついて行った。小太りのハゲとひょろ長い東洋人だった。


 マヤはアロウの座っていた席へと座る。そして自分の席をポンポンと叩く。香織にそこへ座れと指示しているのだ。香織は仕方なくそれに従う。そして香織の席にはリーベが座る。香織はマヤとリーベに挟まれる格好になった。香織の左がマヤ、右がリーベとなる。


「私をどうするつもりなの?」

「ふふ。貴方は体の良い人質。1000人の一般人より価値があるわ」

「そんな価値なんて御免なんですけど」

「そうね。理不尽ね。でも従ってもらうわ」


 香織は黙って頷いた。

 

 その時、客室に残っていた二名のテロリストに乗客が数名襲い掛かった。武器を奪って反撃しようとしたのだろう。

 しかし、そのことごとくが頭部をレーザービームで撃ち抜かれて倒れてしまった。そのレーザービームの出どころは天井付近に浮遊しているアロウの頭部が変形したドローンだった。


「逆らうなと言っただろう。私は殺したくないんだ」


 マヤが大声で叫ぶ。そして小声でつぶやく。


「こういう方法ではな」


 笑顔で香織を見つめるマヤだった。香織はその表情に戦慄した。まるで悪魔の微笑みのようだと思ったからだ。


 その時船内にアナウンスが流れた。


「我々はWFA。世界信仰協会である。この船は掌握した。死にたくなければ指示に従え」


 ジャガーと呼ばれた髭男だった。

 WFAとは聞いたことがない。香織はそのような組織を知らなかった。ビューティーファイブでもそう言った犯罪組織やテロリストの情報は共有しているのだ。


「簡単だった。やっぱり戦術核を持ち込んだのは正解だったわね」

「そんなものが持ち込めるはずがない」

「あら。現に持ち込めちゃってるんだけど。現代社会は障害者に対して甘々なのよ」


 マヤはタバコを取り出し火をつける。

 最近では珍しい紙巻きタバコだった。もちろん、客室内は禁煙なのだが当然のごとく無視している。そしてタバコを掴んでいるマヤの左手。無いはずの左手は細長い金属製のマニピュレータへと変形していた。肘から伸びてきたのだろうか。


「義手だと言えば検査は免除。介護用だと言えば検査は簡素。簡単なX線検査だけで済ませるんだから笑っちゃうわね。鋼鉄の外殻の中に何を仕込もうが全然バレない。銃もナイフも、そして核もね」

「本当なのか?」

「嘘ついても仕方ないじゃないの。まあ、プルトニウムは猛毒だし放射線もキツイから厳重にシールドしてるけどね。あんな大仰な防護殻は普通に疑われるんだけど無視されたわ。ふふふ」


 薄気味悪い笑みを浮かべるマヤ。

 香織はハンドバックの中の携帯端末を通話状態で放置していた。もちろん音声はカットしている。通話相手は義一郎だった。

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