第6話 歓迎の宴は始まるの?

 不可視領域。


 それはまるで暗黒のカーテンに覆われている空間だった。

 太陽は見えず、また、周囲の天体や遥か彼方の恒星も確認できない。正に暗黒の空間だった。


 その中にぽつりと浮遊している物体があった。

 二隻の宇宙船とその中央に円盤状の大きな構造物がある。さらにいくつかの居住ポッドや倉庫用のコンテナがつなぎ合わせてある。ピンク色のトリプルDはクルリとロールしてからこちらを向て敬礼した。その柔かな挙動は操縦士の練度が高い事を物語る。


 そして発光信号を放つ。


「再び発光信号です……ビューティーファイブヲカンゲイシマス。AIノシジニシタガイチャッカンセヨ……ですね」

 

 知子が通信内容を報告する。

 そして羽里がぼそりと呟く。


「しかし、どうして発光信号なんて使うのかな? 通常の無線で通じるんだけど」

「きっとアニメの影響なんだよ。M粒子散布下の無線封鎖時を再現してる」


 羽里の疑問にとぼけた返事をする黒子だったが、香織がそれに釘を刺した。


「黒子。今は余計なおしゃべりはするな。操舵に専念しろ」

「ごめんなさい」


 黒子は素直に謝罪した。


 肉眼でも見えるレーザー光の着艦ラインが伸びてくる。黒子の操舵でスパーコメットはそのライン上へと進路を修正する。


 そのまま、二隻の宇宙船の間へと入り込んでいき静止した。

 

「お見事な操舵です。ビューティーファイブの皆さん。ようこそいらっしゃいました。ここがトリニティの庭でございます」


 黒子の操作はほとんど直感で行われている。それを褒める白人の少年。いやAIのミニスターに対し、香織は只者ではないと感じる。


 そして映像が切り替わった。

 そこには派手なメイクをしているピエロと宇宙服を着た獣人がいた。キツネの獣人でピンク色の毛並みをしている彼女が、先ほど先導していたトリプルDのパイロットであろう。


「ビューティーファイブの皆様はじめまして。私がここの主であるトッシー・トリニティでございます。以後お見知りおきを」

「私はウーサル・ビアンカ。トリプルDの操縦士だよ。模擬戦してくれる人募集中です!」


 踊りながら挨拶をしてくる二人だった。

 そして、その横に立っているミニスターも手を振って笑っている。


「はーい。それでは全員をこちらにご招待したいのですが、これ、受けてくれないだろうな」

「え~? ご馳走が沢山用意してあるよ。カジノもあるし、ゲームもいっぱいできるんだ。来ないと損するよ」

「ビアンカさん。断られるのは明白なんですよ。ですから、三名だけご招待いたします。有原羽里ありはらはりさん。黒田星子くろだせいこさん。そして相生香織あいおいかおりさん。よろしいですか?」


 香織は義一郎の方を向く。


「任せる。十分注意してくれ」


 その言葉に香織が頷いた。


「こちらビューティファイブ副長の相生香織だ。了解した。当方の搭載艇にてそちらへと向かう」

「了解しました。第一デッキへとお越しください。そのまま施設内へと入れます。宇宙服は不要ですよ。ああ、ミニスターがご案内差し上げます」

「よろしくお願いします」


 トリニティとビアンカ、ミニスターの三名が礼をした。舞踊でもしているかのような優雅な所作であった。


「御指名だ。行くぞ」


 香織の掛け声に反応して羽里と黒子が立ち上がる。


「ララちゃん。行ってくるね」


 不安をぬぐえない表情でララに声をかける黒子だった。


「心配スルナ。何カアレバ直グニ駆ケ付ケルサ」


 ララの一言に頷く黒子だった。

 三人はブリッジ後方の扉からエレベーターへ入る。そのエレベーターはアースドラゴンへと直結されているのだ。


 黒子の操縦でトリニティの庭の内部へと向かうアースドラゴン。

 二隻の宇宙船に挟まれた構造物。それは円盤状で直径は数百メートルある巨大なものであった。


 ミニスターの誘導だろう。

 空間に大きな矢印と速度記号が表示され、黒子がそれに従いアースドラゴンを操縦する。小型艇の発着場らしき場所へと誘導された。



「キャー。凄いよここの設備。回転させずに人工重力発生させてる」

「そうだな」

「それに、アンドロイドが沢山出迎えてくれたよ」


 香織と羽里、黒子を数十体のアンドロイドが出迎えた。


 作業用の武骨なタイプから、メイド服を着用した人そっくりなタイプまで様々であった。


 この施設を維持管理するのには必要なのだろう。彼らは全て礼儀正しく、そして皆がビューティーファイブを歓迎している言葉をかけてくれた。中には「ボクハ相生副長ノファンナノデス」と右手を差し出してくる個体までいた。アンドロイドの自由な環境とでもいうべき場所なのだろうか。それとも、トリニティの演出なのだろうか。香織には判断がつかなかった。


 アンドロイドたちに案内さた場所は大広間だった。


 傍らに立食パーティーの準備が済んでいたのだが、中央部分には巨大なチェス盤が用意されていた。


 そのチェス盤を見て羽里の眼輝く。


「ようこそビューティーファイブの皆さん。三名だけですが歓迎いたしますよ」

「どうしてこのメンバーを選んだのか?」


 トリニティの挨拶。

 そしていきなり不躾な質問をする香織。


 トリニティは笑顔を絶やさず、派手なパントマイムを演じながら答えた。


「当然ではありませんか。戦闘能力が低い方から三名様ご招待なのですよ。胸のサイズで選んだわけではありません」

「中で暴れられては困るんだよな。特に、あの毒舌アンドロイドなんかが乗り込んできた日にゃここは血の海? いや残骸とオイルの海になっちゃうよ」


 トリニティに続くビアンカの言。

 なるほど、詳しい情報を掴んでいる。しかし、本当の理由はそうなのか。香織は疑問に思う。


 星子と羽里。


 この二人はメンバー内でもゲーム好きで有名で、戦略シミュレーションなら羽里、シューティングやアクションでは星子が優れている。


 そして目の前にある巨大なチェス盤だ。


 このチェス盤を使ってゲームするなら自分たちが最適だと香織は考えた。


 外時、傍にいた長身の女性が香織に近づき手を握った。


「私は美濃林檎みのりんごです。私たちの為にご迷惑をおかけしました。ごめんなさい」

「白竜の乗員の方ですね。大丈夫。必ず救助します」

「しかし、解放される条件がそのチェスで勝つことなのです」

「なるほど」


 その話に香織は納得した。白竜を囮としてスーパーコメットを奪取するなら辻褄が合う。そこにゲーム的な要素を加えて何がしたいのだろうか。


 傍らのテーブルではF1ポッドレーサーのキョウとメンバー二人が談笑していた。


「彼は恋人なのでは?」

「関係ありません。それよりもあの二人はナンパされるのでは?」

「食い気優先だから心配はない」

「なるほど」


 色々話しかけてくるキョウをそっちのけで、料理を口に運んでいる黒子。そして羽里は小皿に盛った料理を香織の方へ持って来た。


「すごくおいしいですよ。香織さんもどうぞ」


 その皿を受け取る香織。彼女はチラリとトリニティの方をみるが、彼は頷き食事を許容している。


 それならば腹ごしらえをしておこう。

 そう考えた香織は皿に盛ってあるチキンをつまみ頬張った。林檎も羽里から料理を受け取り口に運んでいた。

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