第12話 突入☆ケレス特異点
「こちらは太陽系開発機構所属のレスキューチーム、ビューティーファイブだ。救難信号をキャッチした。ポッドレーサー白竜は応答しろ。繰り返す。こちらはレスキューチーム、ビューティーファイブだ。救難信号をキャッチした。ポッドレーサー白竜は応答しろ」
香織が呼び掛けているのだが応答はない。
「羽里。白竜をキャッチできたか?」
「いえ。まだ捕まえていません。可視光とレーダー波の反射率からデブリの組成を割り出していますが、白竜らしき物体はまだ確認できません」
「捜索を継続しろ」
「了解」
羽里が機器を操作して白竜の捜索を継続している。彼女が見つけられないという事は、白竜はこの宙域に存在していないのではないか。もしかしたら無駄足だったのかもしれない。香織の心に一抹の不安がよぎる。
「こちらはビューティーファイブ。白竜は応答しろ」
何度呼び掛けても応答はない。既にどこかの異次元にでも飛ばされているのではないか。こんな場所にそういう怪奇スポットが存在しているなどにわかには信じられないが、そう考えねば辻褄が合わない。香織がやや現実逃避的な思考をしている時、無線に応答が入った。それは白竜からではなかった。
「ここはトリニティの庭でございます。ビューティーファイブの皆様を歓迎いたします」
モニター内で恭しく礼をする白人の少年。彼は面を上げさらに続けた。
「あなた方が探しているポッドレーサー白竜は私たちの手の内にあります。虎穴に入らずんば虎子を得ず、でございます。あなた方を我らの居城、トリニティの庭へご招待いたします。さあどうぞ。ご遠慮なさらずおいでください」
「お前は何者だ」
「私はこのトリニティの庭を取り仕切っているAI。名はミニスターと申します。以後お見知りおきを」
「何の目的でここにいるんだ」
「その件に関しては我が主、トリニティより直接お聞きになって下さい。現在、誘導波を発信していますが受信できましたか?」
香織は羽里の方を見る。羽里は頷きながら機器を操作している。
「誘導波を受信しました。レーザーによる光学誘導も確認」
香織は後ろを振り向き、義一郎のほうを見つめる。
「ふむ。乗り込んでみない事には話が見えないな。誘導に従え」
「了解。黒子」
「誘導波をトレースします。同期迄あと三秒。同期しました」
黒子の操作でスーパーコメットはケレス特異点へと向かって航行していく。
「フムフム。前方に直径20キロメートルの不可視領域を確認しました。誘導波はそこから発せられています」
「不可視領域だと」
羽里の報告に義一郎は疑問を呈する。当然、香織も疑問を感じた。
「不可視領域とは……何か暗黒物質に覆われているのか」
「いえ、可視光やレーダー波を吸収していると推測します。最初は何もない空間だと思ったのですが、背後からの可視光を遮ってレーダー波を反射しない」
「レーダー波だけではなく可視光もか。赤外線や紫外線ではどうか」
義一郎の指示に従い機器を操作する羽里。そして報告する。
「反応なし。100パーセント吸収していると思われます。まるでブラックホールだわ。宇宙背景放射より暗いと思う」
「そんな事が可能なのか」
「普通に考えて不可能だと思うのです。しかし、目の前にありますからね」
信じられないと言った表情で首をかしげる義一郎と、メガネのツルをつまんでしかめっ面をしている羽里だった。
「おや? 小型船を探知。違うな。これは
「え? 何だ?」
羽里の報告にいきなり浮足立つ知子だった。知子はロボットが大好物なのだ。
「モニターに拡大表示します」
羽里の操作でメインモニターにピンク色の機体が映される。人型で細身だが大型の推進ユニットを背負っている機体だった。
「ほほー。これは立派な物を持ってるな。モビルフォースじゃないぞ。新型のトリプルDだ。まだ実戦配備されていない機体だ」
「知子ちゃん。分かるの」
「ああ。間違いない。アレはトリプルDの実験機クォークだ」
「トリプルDって何?」
「最新の操縦システムを備えた人型機動兵器さ。精神による直接操作型人形。それを略して
「知子ちゃん詳しいんだね」
「まあな」
大型ロボットに対する知子の憧憬はいつも通りだ。これは案内役として出てきたのであろうかと香織は考える。
そのトリプルDは発光信号を送って来た。
「えーっと。これはモールス信号ですね。ワレニツヅケですって」
「至れり尽くせりだな」
親切丁寧なのか。それとも、逃がさないための見張りなのか。香織は判断しかねていた。ピンク色のトリプルDは大きく弧を描いて旋回し、先導する位置へと着いた。スーパーコメットはそのままトリプルDを追尾していく。
「不可視領域に接近。後、10秒で接触します」
レーダー波や可視光線を全て吸収すると言う不可視領域へと近づいていく。既に目視できる距離に近づいており、黒いカーテンが背後の恒星を覆っているかのようだった。トリプルDはそのまま黒いカーテンへと突っ込み見えなくなった。
スーパーコメットもそれに続いて不可視領域へと突っ込んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます