第6話 バケツプリンと感染源

 更にレーザー剣で斬りかかってくるララの攻撃を知子がかわす。稀代の格闘家と言われる知子だからこそかわせているのだが、香織は自分が相手なら真っ二つにされていただろうと思う。


『田中隊長。ララのAIが汚染されました。未知のウィルスに感染した模様です。カロン観測所の事故もこのウィルスが原因だと推測されます。現状、レーザー剣にて攻撃を受けています。知子が何とか防いでおりますが、無手では限界があります。武器の使用許可を』

『まさか、そうだったのか』

『既存のセキュリティに引っかからない新種だと思われます。スーパーコメットとアースドラゴンをスタンドアローンに。通信はアナログ回線を使用してください』

『しかし、それではアースドラゴンを遠隔操作できないぞ』

『構いません。汚染されてからでは遅い』


 香織と田中隊長が無線連絡している間も、ララは知子に攻撃を続けていた。


「キャ!」


 らしくない声で知子が叫ぶ。レーザー剣が腕をかすめ、数センチほどだが宇宙服が切り裂かれた。切り口から空気が噴き出すが、それは途端に結晶化してキラキラと輝く。知子はララと距離を取り、宇宙服が破損した部分に補習テープを張り付けた。


『了解した。武器の使用を許可する』

『ありがとうございます』

「知子。武器の使用許可が下りた。プロトンガンを使用してララを無力化せよ」

「了解」


 知子の宇宙服から空気の流出は止まっていた。知子はララに回し蹴りを加える。

 大振りの蹴り。ララはそれをかわしレーザー剣で斬り掛かってくる。しかし、知子のその蹴りはフェイントだった。知子はララのレーザー剣をかわして懐に入り込みララの右腕を掴んで投げ飛ばした。そして知子は腰のプロトンガンを抜き、ララへ向けて構える。ララは立ち上がり、尚もレーザー剣を構えている。


「ララちゃん。いい子だから武器をしまってちょうだい。貴方を撃ちたくない」

「人間ハ殲滅スル」


 ララの態度は変わりそうにない。そこへ黒子から通信が入った。


『ララちゃん。どうしたの? 後でプリン食べようよ』

「プ……リ……ン……」

『バケツプリン作ってあげるからね。おとなしくして』

「バ……ケ……ツ……プリン。グガアアアアア」

『通販で忍者の十字手裏剣を買おうよ。欲しがってたじゃない』

「シュ……リ……ケ……ン……。イ……ヤ……イ……イケメンガ最重要対象ダ。ソコヲドケ」

『イケメンって何言ってるの?』

「ソコニイル夕凪春彦ノコトダ」

「えーっと。俺ですか?」

「ソウダ。貴様ガ最重要排除対象ダ」

「まさか」

「マジか」


 春彦と明継が顔を見合わせる。


「明継。あの怪しい荷物が感染源だったんだ」

「そうだ春彦、間違いない」

「知子さん。奥の扉を撃ってください。その倉庫にある怪しい荷物が感染源です」


 春彦は入り口の反対側にある扉を指さした。そこは倉庫として使われているブロックとなっている。春彦宛に送られてきた数々の怪しい品物がそこに収められていた。


 知子のプロトンガンからグリーンのビームが放たれ扉に穴をあける。倉庫は爆発し中身は宇宙空間へと四散してしまった。

 その瞬間、基地の機能が復帰した。非常用の暗い照明から明るい通常用の照明へと切り替わる。ブラックアウトしていたモニターは次々と点灯をはじめ、機器が再起動していく。


「信じられない。重力子反応炉が復帰したぞ」

「シールドと酸素発生装置も復帰した」


 信じられない奇跡が起こった。春彦と明継は手を取り合って喜びをわかちあっていた。


 右手にレーザー剣を握りしめたまま、ララが目を点滅させながら周囲を見渡していた。


「ワタシハドウシテイタノダ」

「良かった。ララは元に戻ったな」


 香織の言葉に首を傾げつつも、ララはレーザー剣を収納して自己点検を始めた。


「OSガ汚染サレタ形跡ハナイ。何カニ侵入サレタ形跡モナイ。私ハ一体ドウナッテイタノダ」

『きっと何かの呪いだったんだよ。帰ったらバケツプリン作ってあげる。一緒に食べようね』


 黒子の通信に目を七色に輝かせるララだった。

 それは彼女的には歓喜の表情であり、もちろん周囲も理解しているのだがララ自身がそれを認める事は無い。


「貴様ハソンナダカラデブニナルンダ。胸バカリ育チオッテ」

『もうそれは言わないで。恥ずかしいから』


 黒子とララの、こんなやり取りも平常運転である。これが始まる時、チーム内では任務終了の合図とされている。


 夕凪春彦と政宗明継は冥王星基地へと移送された。カロン観測所の機能は復帰したが、破損個所の修理には数週間かかる見通しだった。

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