第40話 叛逆

 作戦行動開始時間まで残り約一時間――夜8時。雪はいまだに降り続け、屋根や道路は積雪で白くなっている。


無線機の確認を兼ねて作戦の最終確認が始まった。



 「それじゃあズミアダ、作戦を再確認してくれ。」


――GCAタワーへのは、およそ作戦とは言い難いものだった。


 「了解、ゲン。それでは、作戦を改めておさらいしよう。皆通信は聞こえているね? 先ず、潜入班がハシギル、デル署長、ズミアダの三人。強襲班が、ゲン、プシエア、ヨハンの三人だ。それから――」


「訂正だ。プシエアは外れた。」


「――そうなの? いつ?」


「決まったのは昨日だ。始めはやる気だったのだろうが、あいつには家族がいる。後になって怖くなったのだろう。める権利は誰にもない――そういえば、ヨハンはプシエアに付いて来たのだろう? どうしたい? 去るなら留めはしないが。」


嘘を連ね、ヨハンに問いかける。人数がこれ以上減れば予定されている作戦は、たちまち立ち行かなくなる――皆、口をつぐんでいがそれは明白だった。


「ええ――ですが、ここまで付き合った縁です。それに私には……私にも家族は居ませんので。」


「――そうか。」



 「え~では、続きから。先ず、スタッフに変装したハシギルが、デル署長が手に入れたスタッフ用パスキーを利用してGCAタワーへ侵入し、ズミアダ製のウィルスで来客名簿データの一部を書き換える。これにより、ズミアダとデル署長がゲストとして登録される――」


「予め説明しておく。スタッフ用パスキーの持ち主にはが、スタッフへの二段階認証が行われる可能性がある以上、一時的なものにしか出来ない。これをズミアダとデル署長にもやらせる余裕も猶予もない。ズミアダ、続きを。」


「……割り込むなら一言くれないか? まぁ、いいけどさ。続けるよ。


ハシギルから合図が出た後、ズミアダとデル署長は予定通り父娘ゲストとして正面からGCAタワーへ侵入。頃合いを見計らって、GCA創立10周年記念パーティーから抜け出し、デル署長が手に入れた見取り図を手掛かりに中央監視装置の在る、中央管理室――120階へ向かう。


 ズミアダとデル署長がパーティーから抜け出したタイミングと同時に、ゲンとプシエア、ヨハンの三人が、違法改造した小型飛行車Air Vehicleに乗って一気にGCAタワー屋上付近まで上昇――見張りと監視カメラを排除し、屋上への入口を爆破して封鎖する。」


「小型飛行車には見張りとしてヨハンがつき、俺がグラップリングフックで120階の外窓付近まで下降、爆弾を設置――外窓は出来ればレーザーで切ってしまいたかったが、あの異常なまでに厳重なGCAタワーが外窓だけに、外敵の侵入対策をしていないなんてことは考え難い。よって瞬時に突破出来るよう爆弾を用いる運びになった。すまない、割り込んだ。」


「……もういいよ。あとは爆弾の爆破と同時に、GCAタワーの半径500-1000m内に設置された、ズミアダ製の遠隔操作狙撃銃セントリーガンが起動、ゲンの侵入後、外側の監視及び援護を行う。後は中央管理室の入室権限を持つ職員を拉致するなりして入室、中央管理室を制圧する――」


「問題は侵入後だ――”機械傭兵”。」



 中央管理室の制圧までは、の対処も余儀なくされるだろう。ビル内部であれば、人目を気にせず投入出来るというものだ。あれらは銃弾への耐性とその物量で対象を鏖殺おうさつする破壊兵器だ。


そんなものを敵地の真ん中で――それも人の身で受けようものなら――死ぬ。


 仮にそこを切り抜け、中央管理室を制圧したとて、くだんの『5次元データストレージを解析するための専用機器』も『GCAと“組織“、”エグカ・ジンス“の関係性を示すもの』もGCAタワーに


――つまり、この作戦は最初から破綻している。

だが、それはエドウィン・ヴァレンシアに誘導された作戦だ。



 「ゲン、何か策でもあるのかい?」


「ああ、こっちは俺に任せてくれ。心配は要らない。」


以降は俺の作戦――ゲライン・A・シェダーの戦いだ。

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