第14話 殊死 後編
彼はスマートグラスで外に在る赤外線カメラの映像を観ながら、俺に合図をした。
ハッチ近くで警戒していた俺は合図に従い、彼の近くへと寄った。そして彼は上を指差した後、無線手で答えた。
『――上に奴等が居る。』
その直後、ハッチを踏んだ様な小さな足音が鳴った。そして彼は、腕輪デバイスのチャット機能でグラス越しに詳細を伝えた。
『映像を確認しろ――分隊長は
見た限り、俺等と同じ要領で、モーションセンサーによって無線手をデータ化し、その通りに動いているようだ。しかし、オペレーターとの連携もある分、厄介だろう。
ロボットとはいえ、人間以上の動きが出来、尚且つ頑丈で精密な機械兵は、時に人間よりも手強い相手だ。
機械兵の相手はタレットと地雷原に任せ、俺達は極力真正面からやり合わないように動くぞ。』
俺は静かに頷き、好機を待った。
灯りも、暖房も無い。暗く、湿っぽく、冷たいハッチの中でひたすらに好機を待った――そして遂に、その時が来た。
『準備しろ。』
彼の無線手をスマートグラスで確認し、すぐにバイクへ駆け寄る。
バイクに乗り込み、彼が多機能ドッグタグのスイッチを押した。基地が爆破される映像がスマートグラスの隅に映し出され、それに連なり地雷原の爆音が響く。
爆発の衝撃がハッチ内にまで伝わる――同時にエンジンが唸り、自動開閉式車両用ハッチが開き、スロープが展開される。
外は、けたたましいマルチコプターの羽音や荒々しい走行音で埋め尽くされており、その全てが一体となって森を覆っていた。
「掴まれ――飛ばすぞ。」
彼がそう言いながら、今度は腕輪型ウェアラブル端末のスイッチを押し、別の爆弾を起動して、障害物が爆破した。だがそれにより、“ルート“が粗方定ってしまい、敵からは狙われ易くなっていた。
防弾ヘルメットとゴーグルを着け、俺は小銃を、
「行くぞ――俺は前の兵士をやる。お前は追手をやれ。」
「はい。」
随分ピーキーなエンジンを搭載しているのか、バイクは暫し空転した後、一気に加速して地上へと飛び出した。
地上に出て直ぐに、俺達は様々な方向から射撃された。「この弾の全てが、俺達を狙っている」そう思うと身体が
今迄体験した戦いとは格が違う事を、身を以て再確認した。
バイクに乗りながら小銃を撃つのは初だったが、牽制としては予想より役に立った。
しかし、いくら森を高速移動しているとはいえ、小型化された
特に、ドローンやUAVに制空権を取られているのが良くなかった。これでは森を抜けても追われ続けるだろう。
『森を抜ける前に振り切るしかないか!』
マズルフラッシュやドローンのスポットライトにより、辺りはナイトクラブの様に点滅している。
地雷や射撃、爆撃により地形が常に変わり、木々には火が点いていた。
「ッ! まだ森を抜けられないんですか!」
「――もう直ぐ抜ける!」
なんとか森を抜け、街のネオンが顔を出した。然し、後ろには大型武装ドローンが一機、俺達を上から待ち構えていた。
「他は振り切ったが……
奴等の武装ドローンは耐久力高く、尚且つ
その武器は予め“スマートグラス“と機能をリンクさせておいた。利用すれば、より容易に撃ち落とせる筈だ。」
「容易にって……気安く言ってくれますね!」
その言葉を合図にスマートグラスの機能が解放される。
――今だ。
軽い『ボン』という音が鳴り、弾が発射される――『バン』という音と光が続き、ドローンが煙に隠れる。
「熱源反応は?」
「――健在です!」
「チッ、ATVの野朗も迫ってる……頑丈な
武装ドローンの翼からは煙が上がっていたが、その速度は落ちることなく俺達を捉え続け、機関銃を撃ち放ちながら迫ってくる。
「機関銃です! 右に避けてください!」
着弾音が耳元で聞こえる。しかし、爆発の影響は多少あったらしく狙いは逸れていた。だが地面が抉れる程の威力だ。当たれば致命傷になりかねない。
『“数撃ちゃ当たる“――か。品のない戦い方だが、厄介極まりないな。』
更には、その騒音を聞き付けた街の警官隊と監視武装ドローンがライトを点け、此方へ向かってくるのが分かった。
「組織のドローンが後方500
「――大丈夫だ。手は打ってある。兎に角、今は敵を倒す事だけに専念しろ。」
「ッ……分かりました。」
例の
それから大岩の多い
だが、まだ捉えられている。追い付かれるのも時間の問題だ。バイクは高原を暫く奔り。3mほど落差のある、旧い地割れの近くで止められた。
「――ここから、どうするんです?」
彼は黙っての地面を踏み、何かを確かめる。そして確かめ終えると土を掻き出し、先程とは違う。街にあるような、あり触れたハッチが顕になった。
「入れ。」
ハッチの中には梯子が在り、直ぐ下に暗い道が見える。俺は言われるがままハッチに入り、彼が渡す荷物を受け取り、暗闇へ落とす。そしてまた、梯子を登り。手足を梯子にかけたまま待機する。
「貴方も早く。」
そんな俺に対し、彼は膝をつき。先程まで使っていた無名の多機能ドッグタグを、徐にかけた。
「な、何を……」
彼は聞く耳を持たない。眼は
その様子から、俺はある事を推量した。
「貴方……まさか被弾したんじゃ?」
彼は少し口元を緩ませてから突如、乾いた唇を震わせ、喉を枯らしながら話を始めた――
「――愛していた人が居た……だが俺は、霹靂の後遺症で子を残せない
『もう、意識が……?』
彼が来ている防弾チョッキを少し上げると――下腹部に穴が空き血が、絶えず流れ出していた。見るからに出血して久しく。彼の末端神経は既に機能していないのかもしれない。
危険な状態だ――彼もそれを理解している様だった。
「もし、違う世界なら――お前の様な息子が居たのだろうと、お前を見る度に考えていた……」
彼の冷たい手が、俺の左肩に触れる。
「愛すべき息子――“ゲライン・ヴァレンシア“。」
肩に乗せられた手に、力が宿り俺を闇へと落とす。
「ッ! 待ってくれ! 俺はまだ、アンタに!!」
荷物の上に落ち、背中を強く打ち付けられる。
「ゔっ……」
「これは古い下水路だ……スマートグラスの案内通りに行けば、街の下水路に繋がる。街の方には警備ロボットも居るが、お前なら大丈夫だ――俺はまだ、やるべき事が残っている。」
ATVの走行音と、大型ドローンの羽音が、また遠くから聞こえてくる。そして彼は、徐にハッチの取手を掴む。
「――達者でな。」
「待て! 待ってくれ! 俺は、まだ――」
その言葉を最後にハッチは閉じられ、直後ハッチの上に何かが置かれるような音が響いた。
俺はすっかり闇に取り込まれ、暫く声を発せずにいた。彼に言うべきだった『最期の言葉』を延々と巡らせながら――
『俺はまだ、
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