第27話 虚見つ
彼は俺が生き生きしていると言った――“生き甲斐“を見つけたと言った。
生き甲斐としては、一般的に家族や仕事や趣味など、様々な娯楽や欲が在るだろう。
生きることに幸福感も持たせる生き甲斐――此方側の人間には不必要な概念だ。されど生き甲斐を見つけた奴は、生き生きとするらしい。つまり彼は……
「――つまり、この“怪事“が、“復讐“が、俺の“生き甲斐“になっているとでも言いたいのか? それじゃあまるで――俺が怪物みたいじゃないか。」
「そこまでは言わないが――今は、そうなっているんじゃないかな? 少なからず、君に熱情が宿っているのは確かだ――“怪物性“を帯びた熱情が……」
「……だが、俺はこの怪事に“幸福感“なんか見出しちゃいない……この話は、もういいだろ?」
「――君がそう言うなら。」
「……話を戻す。“サクラ“は抗争以降、目立った動きを見せていない。然し、俺が話した通り第二期メンバーである『エグカ・ジンス』が“素材“にされた。
“サクラ“と“Urb“――何方が組織側なのかは不明だが、怪しいのは“Urb“の方だろう。義賊擬きが仲間を売るとは思えない。
それに、これまでの組織の動向を鑑みると、より影響力の高い者を引き込んでいる――この場合、“Urb“を引き込んでいるに違いない。
だから先ずは、“サクラ“と
「あぁ、分かっているさ。」
彼はそう返答しながら、分厚い本の
「さぁ、これだ。」
ある頁で手を止め、メモを取り出す。そして、大きくしわくちゃな手で、そのメモを俺に差し出した。そのメモには座標が書かれており、俺が目を通していると、彼は待つことなく話を続けた。
「あれから“サクラ“は若い衆の過激派と、傷を負ったリーダーを企業警察から
元々小さかったギャングだ。幾ら支持を得ても、“Urb“から目を付けられ、抗争も起きたならそうなるのも必然だろう?
座標は親リーダー派の隠れ家のものだ。とはいえ、当時のリーダーは既に死去している。抗争での後遺症が響いたらしい。現リーダーは、第二期メンバーに数えられていた“リヴール“が担っている――」
「――“リヴール“って、あの“リヴール・K・メリアス“か? 確か処刑された筈じゃ……」
「いいや。カリスマ性溢れるパフォーマンスで革命家や、現代のアルセーヌ=ルパンと呼ばれた、あの“リヴール“は死んじゃいない――」
それから彼は、『追加料金が発生する』と茶化しながらリヴールについて話し始めた――それも、気持ちが悪い程の善人じみた笑顔で。
リヴール・K・メリアスはその昔――俺がまだガキだった頃に、人々の頭上を飛び交い、企業警察や殺し屋を相手に、たった一人で蹂躙する。ヒーロー的存在だった。
彼は素顔をホログラフィーの仮面で隠し、派手な配色の外骨格姿と演出で――自らを“キング“と名乗りながら、演説や犯罪予告をし、最後には革命権を幾度も説いた。
そして、
誰もが彼の描いた“自由“を夢見た。
――だが、あの日は違った。
何時もの様に、彼の犯罪予告から広場に集まる警官と観衆。それをマスメディアが取り上げる――俺もその時、大通りの大画面を介して見ていた。
彼は闇夜の中。ビルの屋上に現れ、毎度の如く命を狙われるも軽くあしらっていた。そして逃げながらも金をばら撒き『自由を!』と歌い続けていた。
然し瞬間――彼は狙撃された。
軍が試験運用していた“自動照準ライフル“ ――対物ライフルと同等の威力を持つ
それに彼は当時、皆が注目する人物だった――軍事技術のアピールにもなると考えたのだろう。
そこまでの代物だ。狙撃された彼の左脚は、爆発した用に吹き飛んだ。身体は崩れる様にして地面に
少ししてから警官共が寄っていき――中継は途絶えた。
その日から『革命家の逮捕』という特集記事が、彼の本名“リヴール・キング・メリアス“の文字と共に、至るところで掲載された。そして間もなく、リヴールの死刑執行の報せが出た――“英雄の死“だ。
その後、模倣犯も何人か現れ、成り代わろうとした者も居たが長続きした者は居なかった。
邪魔者が居なくなった企業警察の力は、技術の発展・進歩と共に強くなり、ディタッチメント・シティを牛耳る“Urb“は勢力圏を広げはれた。上流階級の影響力も取り戻され、やがて圧力に打ち勝とうとする者は誰一人現れなくなった。
それが“ディタッチメント・シティ“の歴史――ギャングスターと企業警察が管理する“乖離した都市“。
だが彼が言うには、リヴールは死んじゃいないらしい。『リヴール死刑執行』の記事は、彼の影響力を危険視した上流階級の差し金だったと言うのだ。
死刑執行前――当時、まだ普通のギャングだった“サクラ“は、リヴールと何らかの協力関係にあり、彼を刑務所から助け出した。
然し、警察はここでも彼の影響力を鑑み、敢えてそれを公表しなかった。再度確保するのは厳しいと判断したか、若しくは『あの足ならもう引退するだろう』と判断したのだろう。少なからず、彼にはその力が無いと踏んだのだ。
結果的に、“キング“と呼ばれていた男は二度と公の場にその身を晒す事は無かった。
「――今では“ケイ・エヴェリッヂ“という名前で隠居している。クワイエットブレイン――通称『Q/B』地区だ。」
彼は話し終えると、片手に握られた空っぽのグラスを、目の前の小さな円卓にゆっくりと置いた。それから、グラスをバーボンで満たしつつ、俺にも飲酒を勧めてきた。
「君もまだ飲むかい?」
彼は、バーボンが僅かに残るグラスに手を伸ばす。俺はその手から遠ざける様にしてグラスを持ち、生温くなった酒を飲み干してから答えた。
「要らない――なぁ、この情報は他には売ってないんだよな?」
「あぁ、まだね。何故だい?」
「――先程の情報に加え、俺が話した“彼“の情報を他の誰にも売らないで欲しい。情報料と合わせて、アンタの知らない事を教えてやる。どうだ?」
「では、何を教えてくれるんだい? それ次第だろう。」
「俺が知り得ている奴等の情報を全てだ。他にも分かったら次いで教えよう。今後、アンタの商売にも影響する程の情報だ。断言してもいい。」
「豪語するか。だが、君がそこまで言うのなら本当なのだろう――その提案、乗った。早速、話してくれ。」
「あぁ、コレも他言無用だ。」
それから以前と同様に持っている情報の全てを開示しながら、エドと奴等の事について話した。だが、以前よりも興奮せず。然し、酒が入っていた為、能弁に話していた。
時計の指針は、三時半を過ぎようとしていた――彼には一通りの情報を伝えた。
そして話し終えた時。
俺はというと、別段やる事も話す事も無く。外が見えない様にに閉め切られた部屋に漂う埃を、また数えるようにして、椅子に座っていた――空のグラスを片手に、ガンベルトを膝に置いて、虚を眺めていたのだ。
もう直ぐ日が昇る――自然と、外の風景が脳裏に思い描かれていた。
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