第2話 魔術師ケリーの現状
「夢か、・・・俺にもこんな時期があったんだな」
夢から覚めた俺は今の現状を思い出して、こう呟いた。
机の上で寝ていたようで、机の上に置いてある研究論文の上によだれが垂れている。
「はぁ結局何も書けずじまいか」
素晴らしい論文でも書けば、現状が改善する可能性に賭けてみたが、あまり成果はない。
最近習慣となってしまっている煙草を吸い、白濁とした煙を吐き出す。窓から見える景色は、暗闇でも王都のものだと分かったが、しかしいまだ見慣れない様相を為していた。
どこで間違えたのだろうか、一度振り返ってみるのもいいかもしれない。
16年前、俺は魔術学園を卒業した後、魔術研究見習いになった。2年後、正式な魔術研究者になり、功績を上げていった。
今思えばあの頃が一番輝いていた。
5年後、第三十七魔術法における、魔術効率上昇の方法を発見。そして魔術研究者として頭角を現していった。
そんなときに思った。俺の才能は、ここで頭打ちなのだと、これ以上のものを発見できるとは到底思えなかった。
だが現実は甘くはない。隣国に現れた渡り人、彼は、常識を覆し、新しいものを生み出していた・・・この煙草だってそうだ。
そうして国は思った。彼の知識があれば魔術研究者は要らないのではないかと。実績を出すのかもわからない研究に、予算を出す必要など無いのではないかと。
渡り人が表れて3年、そうして多くの研究者はクビを切られたが、俺は何故か大丈夫だった。
それから七年後、最近のことだった。結局ラステード王国は魔術研究者の7割の首を切った。そしてそこには俺も含まれていた。
俺は左遷され王都警備兵の魔術師枠に配属された。これが今の状況だ。
どうしたらいいのか、俺にもわからない状況だ。
「もう寝るか」
ずっと論文のことを考えていたが、眠い中では全く進まなかった。
明日もまた王都の警備で忙しい、あの警備兵達には全く理解できないだろうが、俺は忙しいんだ。
***
チュンチュンチュンチョン
「朝か」
今日もまた仕事か、
「おい起きろ」
「
この大きい声は王都西方警備隊長とかいう奴だ。熊みたいだから、俺は熊と頭の中で呼んでいる
「魔術師は声まで軟弱だな。ガッハハハハ」
声までうるさい、本当に熊みたいだ。
「
「朝だから起こしに来たぞ、それと朝食だ。」
朝食と言われ、机の上に置かれたのは、黒パンとなんだかよくわからない者が入ったスープが置かれていた。
「
左遷されて一番最悪だったのは、「食事」という何とも情けない話だった。
だが食事は、ヒューマン、いや人間が摂取しなければ生きていけないものであるとして、大切なものである。が故にその食事が人間族にとって好ましい味であることで大いに満足感や幸福感を得ることができる。よって人間族にとって好ましくないこの朝食を私が食すのは如何なるものかと愚考する。
・・・・・
結論、これは私の口に入る物としては最低に当たり、私の健康を損ねる可能性があるとして、この食事を食することを放棄する。よって私は魔法によってこの朝食aを分解、変換、再構築し、塊になったところで捨てる。わけではなく栄養固形物として、深夜に頂くことにする。
朝食はどこがいいか地形、周囲の環境、味などから考え、オートレリアという店に行くことに決めた。
熊に見つかると、面倒になる可能性が高いので窓から出かけることにした。
「我は空を飛ぶ【
そして見つかるとまずいので姿を見えなくする魔術も
「我は姿を消す【
簡易詠唱なので一分と持たないが、それでも路地二つぐらいは余裕で飛べる
着地した瞬間少しの衝撃は来たが、それだけだった。
「頭の記憶を基に地図を映せ【
少し記憶があやふやだったので、脳内に地図を表示する魔術を使った。
「あった」
やはり年季を感じさせる店構えをしていると思った。しかし腹が減っているので、すぐさま扉を開ける。
ガチャ
「いらっしゃいませー」
元気のいい挨拶をしてくれたのは、この店の看板娘ソールちゃんだ。この地区でも結構な人気がある。
少し暗い雰囲気なこの店は、爽やかなマネットの花の匂いが少し香る気持ちのいい店だ。
適当な席に座りこの店の朝食のセットを頼む
「えーと、モーニングセットを」
「はい、飲み物は何にしましょう」
「クリーシュセットをお願いします」
「はい、クリーシュテセットですね、代金は先に頂くので、銅貨3枚頂きます」
先にもらうことで食い逃げなどを防止しているらしい。
「はい、どうぞ」
財布から出したお金で銅貨3枚を支払う。給料が減っている中、少し危ないが、貯金があるから大丈夫なはずだ。
***
ガチャ
「ありがとうございましたーまたのお越しをお待ちしてまーす」
元気な声で見送ってくれたソーナちゃんを後目に通りへ出た。
「ふぅー満腹満腹」
美味しい朝ご飯を食べた俺は、外へ出た後姿を消し警備兵宿舎へ飛んだ。
これが最近の日課となっている。
自分の部屋に帰ると、先程作っていた栄養固形物が少し減っているような気がしたが、気のせいだろう。
下の階から内緒話のような声が少し聞こえてきたので、階段で聞き耳を立ててみることにした。
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