第30話 黒い竜との対決

 小惑星へとブルムゾーンが飛びこんでいきます。

『僕は来たぞ、スリート! ナミを返せ!』

 大きな声で白い竜は敵を呼びつけました。

 敵がどこにいるのか、最初タクミはわかりませんでした。でも、やがて2つのまっくろな目がどこにあるのかわかりました。

『ファーブニルにさしだされにきたようには見えないな。むぼうな戦いをいどみに来たのか、ブルムゾーン』

 目の前にいました。

 宇宙の闇にとけこむようにスリートは星の上にすわっていたのでした。

 よく見れば、大きな黒い竜がはるか遠くに見えるはずの星の光をさえぎって、なにも見えない空間を作りだしているのがわかります。

 居場所に気づいてみると、星の海がまるで竜の形に切り取ってあるように見えるほどでした。

『ナミはどこにいる?』

『あの人間はここだ。戦って俺がここからうごけば、息ができなくなって死ぬぞ。その前に踏みつぶしてしまうかもしれないな。それでも戦うつもりか?』

 スリートがいやなひびきがする笑い声をあげました。

 黒い竜の足もとにナミの小さな体が寝かされていました。

『ひきょうなやつ!』

『なにが悪い? リンドブルムはずいぶん人間の考えかたにそまっていたらしいな』

 ブルムゾーンが黒い竜へ向けて近づいていきました。でも、近づいて、見れば見るほど大きさがまるでちがいます。

「やっぱり、戦ったら勝ち目はなさそうだな」

「勝つ必要はないわ。ナミをたすけて逃げ出せれば、それでいい」

 小惑星はむきだしの岩でできています。空気はもちろんありません。

 そして、まるで塔のように巨大な岩のかたまりがいくつも立っていました。これまで何度も何度もほかの小惑星とぶつかってけずられ続けてきたのでしょう。

「予想どおり、かくれる場所はたくさんあるみたいね」

 シーリンが言いました。

 ブルムゾーンはスリートにつっこんでいく途中で、いきなり向きを変えて大きな岩の柱にかくれます。

『こそこそかくれながら戦うのだって、ひきょうなことじゃないか?』

 わざとバカにしたいい方をスリートはしているようでした。

『だまれ!』

 岩のかげを利用して、横からブルムゾーンは黒い竜につっこみました。竜のおなかの、さらに下のほうをねらった攻撃です。

 でも、その攻撃はかんたんに受け止められてしまいました。

『俺がかわすために動いたら、そのまま人間をかすめとるつもりだったな? 子どもの考えることはわかりやすいぞ!』

 ひくい位置から攻撃をしたせいで、すばやく飛んできたしっぽをブルムゾーンはかわせませんでした。

「きゃあ!」

 タクミはブルムゾーンの首にしっかりとつかまっていました。

 でも、シーリンの体が白い竜から弾かれてしまいます。ブルムゾーンのしっぽにシーリンがひっしでつかまっています。

『人間をのせたままではじゃまだろう? とりのぞいてやるからありがたくおもえ』

 ふたたびスリートのしっぽがブルムゾーンにおそいかかりました。

 それも、シーリンがつかまっている白いしっぽをねらっているのです。

 ぶつかりあったしっぽが思いきりはねまわったせいで、シーリンはそのままブルムゾーンから落ちてしまいました。

 酸素ボンベがあるので死ぬことはないはずですが、彼女の姿は見えません。

「シーリン! よくもやったな!」

『落としたとおもったらまだのこっていたか。人間はしぶとくてめざわりだな。リンドブルムのおせっかいのせいで竜の領域まで来て、本当にじゃまなやつらだ』

 ブルムゾーンの首につかまったタクミを見てスリートが言いました。

「でも、そのめざわりなリンドブルムの力をファーブニルはほしがってるんだろ?」

 顔だけを黒い竜へ向けてタクミがさけびます。

『なんだ、人間のくせに気づいたのか』

「ブルムゾーンがリンドブルムの死体のそばで成長したんだ。それって、きっと子供の竜はまだちゃんと体ができてないってことだろ」

 タクミはブラックホールみたいなスリートの黒い目をにらんで言いました。

「だから、逆のこともやろうと思えばできるのかもって思ったんだ。弱い相手の力を吸い取っちゃうばけものって、アニメとかではよくいるからさ」

 また『がふ、がふ』という耳ざわりな笑い声がスリートから聞こえます。

『で、それがどうかしたか? 気づいたところでどうということもない。そいつが俺から力を奪えるわけではないのだぞ』

「そうかな? ファーブニルができないからって、リンドブルムやブルムゾーンもできないとはかぎらないだろ」

『挑発のつもりか? そんなありえんことを……待てよ』

 スリートが視線を下に向けました。

 タクミの心臓がはねあがります。

 さっき落ちたシーリンが、岩の柱のかげをとおって、黒い竜の足もとにいるナミへと近づこうとしていたからです。

 タクミとブルムゾーンで敵の注意をひいておいて、その間にシーリンがナミを助ける作戦だったのです。

『まずい!』

 ブルムゾーンがさけびました。

 スリートが大きな足を持ちあげます。

 シーリンとナミをふみつぶそうとするスリートへ向かって、ブルムゾーンは一気につっこんでいきました。

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