第29話 小惑星に向かって

 暗い宇宙空間を、タクミとシーリンをのせた白い竜は飛んでいきました。

 街から外に出ると、一気に体が冷えました。温かいのは少年の背中にしっかりくっついているシーリンの体の熱だけです。

 ただ、ブルムゾーンが作ってくれる空気が熱もさえぎってくれるので、こごえてしまうほどのさむさではありません。

 目指す小惑星は、そこにただ1つきり浮いているわけではありません。そのまわりにもたくさん浮かんでいます。

 そして、浮かんでいる岩の塊のかげから小さな黒い竜が飛び出してきては、ブルムゾーンへとおそいかかってきます。

 しかし白い竜は無傷のままでした。かろやかに宇宙を飛んでファーブニルの子どもたちの攻撃をかわし続けていました。

「すごいね、ブルムゾーン。体が大きくなったおかげで、うごきまで早くなってるんじゃない?」

『うん、そうかもしれないね。なんだか体がすごく軽いんだ。どんな相手もこわくないって思うくらいだよ。ちょっと大きくなっても、僕はまだ子どもなのにね』

「なら、油断しないようにしなくちゃ。いきなり強くなったからって調子に乗ると痛い目にあうから」

 タクミとブルムゾーンの会話にシーリンが割り込みました。

「それってゲームとかでもよくあるなあ。やっぱりずっと冷静でいなくちゃね」

 ブラウンとよく遊んでいるゲームのことを思い出してタクミは言いました。

『わかってる。ナミを必ず助けなきゃいけないんだから』

 話をしている間にも、黒い小さな竜はおそいかかってきて、そしてブルムゾーンに攻撃をさけられてどこかへ消えています。

 かわせない動きで近づいてくる竜もたまにいますけれど、大きくなって武器として使えるようになった爪としっぽが吹き飛ばしてチリに変えています。

 小惑星がだんだんと近づいてきました。

 タクミの体がふるえます。

「こわい?」

「ちょっとだけ。でも、平気だよ。……シーリンはだいじょうぶ?」

「私は、タクミがいるからだいじょうぶ」

 シーリンの言葉を聞いて、タクミはちょっと意外に感じました。

「信用されてるんだ。俺、シーリンにはきらわれてると思ってた」

「そんなはずないでしょう。ナミのお兄さんなんだから」

 理由を聞いて、タクミは拳に強く力をこめました。シーリンがここまで来たのは、ナミのためなのだとあらためて思ったのです。

「ありがとう。じゃあ、大事な友だちを助けに行こう」

「ええ。大切な妹を助けに行きましょう」

 スリートがいるという小惑星は、もう目の前でした。

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