第28話 宇宙へと飛び出す竜

「シーリンって、むちゃくちゃなこと考えるよね……」

 警報がひびく霊廟のなかで、タクミはつぶやきました。

「手段を選んでる時間がないときは、仕方がないわ」

「女の子ってこわいな……」

 地下へと降りる階段をかけおり、タクミたちは先日も来たリンドブルムの巨大なケースの前に立ちました。

 リンドブルムの大きな体をブルムゾーンがみあげます。

「どう? パワーアップできそう?」

『うん……どうかな……』

 母親の姿を静かに見つめて、白い竜は首をひねりました。

「お祈りとかしてみたらどう?」

「そういう問題かなあ? まあ、死んだ人はいつも見てくれてるっておじいちゃんは言ってたけどね」

『とにかく、試してみるよ』

 警報がなっている以上、長居はできません。

 あきらめなければいけないかと考えたとき、ブルムゾーンが声をあげました。

『あっ! ……リンドブルムの声がする』

 白い竜が、白くかがやきはじめます。

『わたせなかった力をすこしだけどわたすって……言ってる』

 光のなかで、ブルムゾーンのからだがすこしずつ大きくなっていきました。

 タクミと同じくらいだったのが、大人ほどの大きさになります。

 それでも光はおさまりません。

「出よう! 出口を通れなくなるかも!」

 タクミはブルムゾーンのしっぽをひっぱりました。

 ブルムゾーンが光りながら走り出します。

 出口では警備員たちが待ちかまえていました。

 おそらく、お墓であばれるのをさけるために待っていたのでしょう。

 でも、外まですぐのところまで行けるなら、むりやり外に出るのはかんたんです。

『のって、2人とも!』

 広がっていくブルムゾーンの背中にタクミとシーリンが飛びのります。

 白い竜がつっこんでくるすがたを見て、警備員たちはあわてて道を開けました。

 飛び出したときには、ブルムゾーンはもうタクミとシーリンをまとめてのせてもまだじゅうぶんに空きがあるくらい大きくなっていました。

「ずいぶん大きくなったね」

「本来なら、竜の子どもはこのくらいの大きさなんだよ。僕は力が足りないまま生まれちゃったからね」

 今のブルムゾーンは青い竜にくらべると、まだ小さいのでしょう。

 黒い竜、スリートの半分以下の大きさしかありません。

 それでも、タクミはその背中を力強いと感じていました。

「スリートはどこにいるんだろ?」

「外よ。あそこの穴から出ていったのが見えたから」

 シーリンが指さすほうを見ると、たしかに大きな穴が開いていました。

 修理用のドローンが穴のところで作業しています。急がないと、街の中の空気がすこしずつ抜けていってしまっているはずです。

 でも、作業をじゃましてでも、今のタクミたちは行かなければいけないのです。

『ぶつかっちゃうかもしれないけど、いいよね』

「しかたないよ。行こう、ブルムゾーン」

 白い翼を大きく羽ばたかせながら、ブルムゾーンは街に開いた穴へ向かって飛んでいきました。

 ですが、穴の前にいたのはドローンだけではありませんでした。

 3人の竜とドラグーンが待ちかまえていたのです。

 そのうち2人は外を警戒しているようです。ファーブニルの子がもどってこないかを気にしているのででしょう。

 最後の1人はタクミたちのほうを見ていました。

「……ハシムさん」

 黒い肌をしたドラグーンはタクミたちのほうを見て言いました。

「つれさられた女の子を助けにいくのか?」

「そのつもりだよ」

「私たちドラグーンも救出作戦を行うことを考えている。それを待つことはできないか?」

「できないよ。だって、それまでナミが生きてるかどうかわからないもの」

「……そうだな。ブルムゾーンのこともあって、今のところ私たちはどう動けばいいかはっきり決められずにいる」

 ハシムは大きなため息をつきました。

「それでも子どもを見捨てることが決まることはないはずだ。それでも信じてはもらえないんだな」

 彼は子どものタクミにも真剣に話をしてくれています。それがわかって、タクミは少しなやみました。でも、もう決めたことを変えたいとは思いませんでした。

「迷惑をかけることになると思うから、先に謝っておくよ。ごめんなさい」

 ブルムゾーンの背中でタクミは頭を下げました。

「私たちドラグーンにはブルムゾーンを見つけたらつかまえておくよう命じられている。選択肢はできるだけ増やしたいのだそうだ」

 そう言われて、タクミはブルムゾーンの背中にしっかりつかまりました。

「ただ、竜がいやがっている。リンドブルムの力を継ぐ竜と戦うことはできないと。私たちは彼らの考えを無視してやらせることはできないんだ。だから行くといい」

 言葉の通り、ハシムがのっている竜は動こうとはしませんでした。他の2人の竜もおなじでした。

「それからこれはクリスからたのまれた届けものだ。なにかは知らないがな」

 ハシムがなにかを放り投げてきました。

 受け取ってみると、それは宇竜戦でも使ったペンみたいな形の酸素ボンベでした。タクミとシーリンの分なのか、2本あります。

「……はい! ありがとうございます!」

 力をこめてタクミはハシムにいいました。

「礼は竜とクリスに言え。私は命令どおりその竜をつかまえに来ただけだ」

 ブルムゾーンが羽ばたき、また動きだします。

 どうやら、ドローンたちは出ていくだけの穴をのこしたまま修理しているようです。だからこわしていく必要はありません。

『あの黒い竜は出て斜め右上の方向にある小惑星にかくれている。気をつけろ』

 ドラグーンがのっている竜が通りすがりに教えてくれました。

 リンドブルムの子どもたちは、リンドブルムの後継者が決めたことを尊重してくれているのでしょう。

 白い竜は宇宙へと飛び出します。

 竜のすぐそばにいれば宇宙でも息ができることはシーリンに伝えてあるので、彼女はだまってタクミの背につかまっていました。

 2人を乗せたブルムゾーンは、スリートがいるという小惑星を目指して飛んでいきました。

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