第5章 ナミをすくいだせ!
第27話 シーリンの提案
学校から飛び出したタクミたちは、かくれ場所をさがして移動していました。
ほかの学校にいたドラグーンたちも集まってきているので、なるべく低い場所を飛んでいきます。
さいわいなことに、ドラグーンたちはまだブルムゾーンをさがす命令は受けていなかったようです。だれも追いかけてはきませんでした。
でも、クリスやハシムが黒い竜の言葉をつたえたなら、まちがいなくつかまえるように命令されることでしょう。
移動するとちゅうで、シーリンに言われてタクミは携帯電話の電源を切りました。
それから、かくれやすそうなのはやはり大きな公園ということになり、ブルムゾーンはリンドブルム記念館のまわりにある公園へと向かいました。
シーリンはちょっと考えるようすを見せましたが、ほかの方法は思いつかなかったらしくだまっていました。
「……ありがとう、助けてくれて」
『助けられてないよ。タクミの妹、さらわれちゃったんだろ?』
「うん……」
3人はいちおう、数日前とはちがうしげみのなかにかくれています。
もっとも、この町にいるかぎり、どこにかくれたってすぐに見つかってしまうでしょう。
悪いことがかんたんにはできないように、この町では道路や公園などにたくさんカメラがしかけてあるのです。
どこをうごいて、今どこにいるか、すぐに見つけられてしまうでしょう。
考えようとしたところで、シーリンが口を開きました。
「あのね。つかまる理由に心当たりがあるなら、たぶん……長くて15分くらいでここにドラグーンが来るよ」
それから、タクミはシーリンに頭をつかまれました。
彼女の緑がかった黒い目が、すぐ近くでまっすぐタクミの目を見ています。
「その竜がタクミの秘密の友だちなんだよね? ナミがつれてかれた理由にも、かかわってるんだよね?」
シーリンはタクミの目を見て早口で言います。
「今すぐ私になにがあったのか教えて。時間がないから迷わないで」
まるでにらみつけるように見つめたままのシーリンからは、けっしてことわらせまいとするふんいきが感じられます。
「ブルムゾーン、話してもいい?」
『うん。かまわないよ。もう、みんなに見つかっちゃったし』
竜の答えを聞いて、タクミはシーリンに手早く今までのことを話しました。
ナミをブルムゾーンが助けてくれたこと、竜と友だちになりたくてプロキシマ・ケンタウリにつれてきたこと、リンドブルム記念館で起きたこと。
そして、ファーブニルのことと、今日の事件のこと。
「……わかったわ。ナミを取り戻すにはブルムゾーンをわたせって言ってたのね」
「うん……。シーリンもブルムゾーンをわたしたほうがいいとおもう?」
「おもわない。だって、わたしたところであいつがナミを返すとはかぎらないもの」
シーリンははっきりとした声で言いました。
「ただ、わたせばいいっていう人はかならずいるはず。だって、ブルムゾーンがどうなったって困らないもの。関係ない人は好きかってなことを言うものだから」
「そうなったら、政治家の人たちもそうしようとするかな?」
町のいろんなことを決める政治家は宇宙の町にもいます。もっとも、タクミは顔も見たことがないので、どんな人たちなのかわかりませんでしたが。
「ダメな政治家ならそうするかもね。でも、まともな人なら、ドラグーンにあの竜をたおすように命令すると思う」
「じゃあ、そうなればナミは助かる?」
「そうなるかもしれない。ただ、ドラグーンはたぶん、あの竜をたおすことをナミの救出より優先するわ。子ども1人よりも、町の人みんなのほうがだいじだもの」
シーリンは言いました。
「だから、もしナミをどうしても助けたいなら、私たちがどうにかするしかない。私たちは、町がどうなってもいいからナミを助けるって言えるもの」
「えっ……」
タクミはシーリンに言われて、ちょっとおどろいてしまいました。
「それ、言っていいのかな?」
「もちろん。だって、あとのことはドラグーンがなんとかしてくれるでしょ」
言いきったシーリンを見て、タクミは目を丸くしていましたが、しかし彼女の言っていることは間違っていないように思います。
「でも、それもブルムゾーンが私たちに力をかしてくれたならって話だけどね。タクミ、頼んでみてくれない?」
うながされて、タクミはブルムゾーンを見ました。
『いいよ。もともと僕が原因だからね。あいつにはかないそうにないけど、ナミを助けるだけならがんばってみる』
ブルムゾーンが言いました。
でも、シーリンはどうやらなにを言ったのかわからないようです。本当に、訓練なしで竜の言葉がわかるのはめずらしいのでしょう。
「あいつには勝てそうもないけど、助けるだけならがんばってみるって言ってる」
「ありがとう、ブルムゾーン。……さっきの話を聞いて考えたんだけど、リンドブルムの霊廟に行ってみない?」
「どうして?」
「だって、ブルムゾーンが大きくなったのは、霊廟に行ったのがきっかけなんでしょ? なら、また行ったらもっと大きくなるんじゃない?」
「あっ、そうかも……でも、ひと回りしなきゃいけないからけっこう時間かかるよ。それに、入れてもらえるのかなあ」
「それなら、だいじょうぶよ」
シーリンが言いました。
「あそこから入れば許可もいらないし、お金も時間もかからないから」
彼女が指さした先には、記念館の出口がありました。
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