第24話 黒い竜との戦い
凶悪そうな黒い目を、タクミは見つめていました。
竜の目は、みんな宝石みたいにきれいです。
黒い竜の目もとてもきれいに見えます。
でも、それは見ているとすいこまれてしまいそうなあぶない美しさでした。まるで、光すらものみこんでしまうブラックホールみたいです。
『ブルムゾーン……みつけた』
「ブルムゾーン……みつかった」
竜とタクミが、ほとんどいっしょに声を出しました。
「こっちに……こっちに来るな!」
叫んで、タクミは黒い竜に殴りかかろうとしました。
でも、鳥みたいに小さな竜はすばしっこくて、子どものこぶしなんてかんたんによけられてしまいました。
『人間か。じゃまだな』
黒い竜が言いました。冷たい声でした。
『あぶない、タクミ!』
背中から衝撃を受けて、タクミは公園の地面に倒れこみました。
ブルムゾーンがつきとばして助けてくれたのです。
ふりむくと、黒い竜の爪は公園のかたい木を簡単に引き裂いてしまっていました。
もしもブルムゾーンが助けてくれていなければ、タクミの体が木みたいにひきさかれていたことでしょう。
タクミの体が自然とふるえました。
「あ……ありがとう、ブルムゾーン」
『お礼を言ってるヒマはないよ。どうにかしなくちゃ』
タクミをかばう場所に立ったブルムゾーンが言います。
でも、黒い竜はすぐにはおそってきませんでした。
ブルムゾーンを真っ黒な目で見つめています。
『警戒してるんだ。……そうか、今の僕なら、あいつをやっつけられるかも』
大きくなった自分の体をみおろして、ブルムゾーンがいいます。
いわれてみると、おもちゃみたいだった爪もしっぽも、今はりっぱな武器に見える気がしてきます。
ブルムゾーンが黒い竜にとびかかりました。
今はもう、白い竜の体は小さな黒い竜の倍以上の大きさがあります。
黒い竜はコウモリみたいな翼をはばたかせてすばやく上昇し、ブルムゾーンの爪をかわしました。
でも、爪は黒い竜の翼をかすめていました。
まくみたいになっている翼に大きなさけめができ、黒い竜は自分が飛び上がろうとしたいきおいでぐるぐるとまわってしまいました。
『逃げるなよっ!』
さけんだブルムゾーンは、地面に落ちそうになっていた黒い竜へと、らんぼうにしっぽをたたきつけます。
公園の土がへこみました。そして、黒い竜がチリになって消えていきます。
「よかった、倒せたんだ。いそいで別のところに逃げなくちゃ」
『うん……あっ!』
ふりむいたブルムゾーンが声を上げました。
タクミもふりむいてみると、そこにはたくさんの黒い竜たちが集まっていました。
「こんなにたくさん、竜がいるなんて……」
『きっとファーブニルが作ったんだ。僕をさがすために』
そこまでしてブルムゾーンを殺したいくらい、ファーブニルはリンドブルムをうらんでいたのでしょうか。
『タクミはかくれてて。あぶないから!』
「う、うん!」
ドラグーンではないタクミに竜と戦う力なんてありません。
しげみのかげに飛びこんで、見守っていることしかできないのです。
黒い竜1匹なら戦えてたブルムゾーンも、たくさんの竜が相手だと同じ風にはいかないようです。
ブルムゾーンの白い鱗が黒い竜の爪で切り裂かれて赤い血が流れています。黒い尻尾で打ちすえられて苦しそうな声を出すのも聞こえます。
そんな声を聞きながら、タクミはなにもできないのです。くやしくて、地面に落ちていた小石ごと、タクミは土を強くにぎりしめました。
傷つき、地面に降りてしまったブルムゾーンの真上に、まるで黒い雲をつくっているみたいに、黒い竜たちが集まりました。
いっせいにとびかかって止めを刺そうとしているのでしょう。
「やめろ!」
さけびながら、タクミはとっさににぎっていた石を投げつけました。
黒い雲が散りました。
でも、すぐにそのうち2匹がタクミのほうへ飛んできました。爪を振り回してくる竜たちからタクミはころがって逃げることしかできませんでした。
残った黒い竜たちが、ブルムゾーンの上でまた雲を作っているのが見えます。
そのときのことでした。
タクミは、公園に風がふく音を聞いたように思いました。
でも、風がふいた音ではありません。顔を上げると、青い竜が風を切って公園へと飛び込んでくるのが見えました。
「そこまでだ、てめえら!」
力強い声も聞こえてきます。
竜に乗ったクリスが助けに来てくれたのです。
黒い雲に飛び込みながら、クリスは手に持っていた棒を振り回します。ただの棒ではありません。さわった相手をしびれさせてしまうスタンロッドです。
スタンロッドを膝の上に落としたかと思うと、まるで魔法みたいにクリスの手の中に銃があらわれました。
逃げた黒い竜をねらってすばやく引き金を引くと、竜たちが次々に落ちて、またチリへと変わりました。
「クリス! 白い竜は傷つけないで! 俺の友だちなんだ! その……」
タクミはクリスへと叫びます。
「わかった! 説明はあとで聞く!」
ドラグーンの答えに迷いはありません。プロの戦士である彼は、なにから順にしなければいけないのか、はっきりとわかっているのでしょう。
それほど時間をかけずに、クリスは黒い竜たちをみんなたおしてしまいました。
「ありがとう、クリス。やっぱりドラグーンってすごいんだね」
「当然だろ。俺たちはヒーローなんだからな」
笑顔を見せて、それからクリスはブルムゾーンのほうを見ました。
「それで……この竜は、だれなんだ?」
「ええと、それは……」
口を開こうとしたところで、タクミは秘密にするというブルムゾーンとの約束を思い出しました。
『クリスさん、僕のしゃべっていることがわかる?』
口ごもるタクミにかわって、ブルムゾーンがしゃべり始めました。質問されて、クリスがうなづきます。
「ああ、わかるよ。ドラグーンだからな」
『僕はブルムゾーン。リンドブルムの後継者』
そして、白い竜はクリスに自分がリンドブルムが死んでできたチリから生まれたあたらしい竜なのだということを話しはじめました。
説明しているあいだ、クリスはだまって聞いていました。
やがてブルムゾーンの説明が終わると、クリスはかたわらにいた青い竜に顔を向けました。
「パッセージ、今の話をリンドブルムから聞いたことはあるか?」
『ある。竜ならみんな知っている。ただ、人間がリンドブルムの墓を作って宇宙に還さなかったから、新しい竜……この子が言う母竜は生まれないと思っていた』
「だろうな。俺もドラグーンになったときの研修……ああ、つまり見習いのときに教えてもらった覚えがある」
青い竜と話してから、クリスはブルムゾーンとタクミのほうを見ました。
「つまり、ブルムゾーンが言ってることは真実ってことだな」
『わかってくれてありがとう、クリス。あいつらがねらってるのは僕だ。僕がこの町から出ていけば黒い竜の話は解決するよ』
ブルムゾーンがクリスに言うのを聞いて、タクミは思わずさけびました。
「ダメだよ!」
「ん?」
「クリス、ブルムゾーンを町から追い出さないで。追い出したらファーブニルにやられちゃうよ!」
タクミの言葉を聞いて、クリスは困った顔をしました。
お父さんやお母さんにわがままを言ったとき、2人がタクミに見せる顔のように見えました。
「あのな、タクミ……」
クリスがタクミになにかを言い聞かせようとします。
でも、その説明をする前に、もう次の事件がおきていました。
小学校のほうから大きな声が聞こえてきたのです。
みんなの悲鳴です。
「……そうか、ブルムゾーンは学校から逃げてきたから……。くそっ、しまった!」
今まで落ちついたようすだったクリスが、はじめて少しあわてた声を出しました。
「あとでゆっくり話をしよう。いいな、タクミ、ブルムゾーン。行くぞ、パッセージ!」
青い竜に飛び乗って、クリスは学校のほうへもどっていきました。
『タクミ、僕らも行こう。妹を守ってあげなきゃいけないんだろ?』
「でも……いや、わかった。ありがとう、ブルムゾーン」
うなづいて、タクミは走り出そうとしました。
でも、ブルムゾーンに止められます。
『僕に乗りなよ、タクミ。今の僕なら君が乗ったって平気だよ』
「あっ、そうか……いいの、ブルムゾーン?」
『友だちの君ならかまわないよ』
ブルムゾーンがそう言ってくれたので、タクミは白い竜の背に乗りました。
竜が少しずつ浮き上がっていきます。
無重力の空間でジャンプしたときに似た、体が浮き上がる感じがします。
でも、今は、その感じをしっかりとたしかめているひまはありませんでした。
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